社説:損保カルテル なれ合い構造にメスを

 顧客を軽視する業界のなれ合い構造が問われている。

 企業向けの損害保険でカルテルが疑われ、独禁法違反(不当な取引制限)に当たる可能性があるとして、大手損保4社への任意調査に公正取引委員会が乗り出した。

 企業活動のリスクを複数社で引き受ける「共同保険」が調査対象で、私鉄大手の東急グループ向けの契約を皮切りに、次々に談合行為が表面化している。

 大手損保を巡っては、中古車販売大手ビッグモーターの保険金不正請求問題でも、同社との「持ちつ持たれつ」の緊密な関係に疑念の目が向けられている。

 いずれも保険の顧客と一般消費者に不利益をもたらす許しがたい行為である。徹底した全容解明でメスを入れねばならない。

 東急向けの共同保険で談合行為が発覚したのは昨年12月だ。大手4社とも入札の提示額が3年契約30億円で一致したため、東急側がただすと事前に金額を調整したことを参加社が認めた。

 再入札は1年契約5~6億円で決着した。補償内容の見直しを考慮しても、約2倍に相当する当初提示額の過大さは明らかだろう。

 金融庁は4社に事実関係の報告を命令した。各社の社員アンケートでは、京成電鉄、JR東日本、仙台空港や石油元売り、鉄鋼会社など数十件以上に事前調整の疑いが浮かび上がったという。

 当初、業界団体トップは「現場担当者の法令順守意識が低かった」と説明した。だが、広くカルテルが常態化し、保険料を高止まりさせている構造的な不正の疑いが拭えない。発覚は氷山の一角ではないか。

 企業向け損害保険が寡占市場なのも談合の温床とされる。広範な企業のリスクを引き受けられる損保は限られ、大手4社が全契約の9割を握っている。

 共同保険では、保険料や保険金の配分が最も多い幹事社が契約手続きなどを代行する。日常的に連絡を取り合う中、入札時の保険料の引き下げ競争を避けたいという思惑が一致したとみられる。

 大手損保はビッグモーター問題でも、自動車保険の割り振りを見返りに事故修理をあっせんし、不正を見抜けなかったどころか、一部癒着も疑われている。

 これら水増しされた保険料コストは、最終的に消費者に転嫁されることを忘れてはならない。不正をはびこらせない健全な競争の仕組みづくりと監視の強化が求められよう。

© 株式会社京都新聞社