「死にたいは生きたいの裏返し」難病・ALSと生きる女性の揺れる思い【現場から、】

全身の筋肉が徐々に痩せ、力がなくなっていく難病・ALS。静岡県富士宮市に住む女性は、この病気と闘いながら、自らグループホームを立ち上げました。「死にたい」と「生きたい」の狭間で揺れる患者の思いを取材しました。

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富士宮市に住む、清しお子さん(69)。7年前、難病・ALS=筋萎縮性側索硬化症と診断されました。ALSとは全身の筋肉が徐々に痩せ、力がなくなっていく病気です。全国に1万人、県内に260人の患者がいますが、原因は不明で根本的な治療法は見つかっていません。

<孫・萌衣さん(22)>
「辛そうなときでもずっと笑顔だったので私も頑張らないとと、いつも思っていたんですけど、しおばぁがどんどん元気になっていくので、負けていられないなと思う。ずっと笑顔でいて欲しいなと思います」

<清 しお子さん>
「泣かされちゃうね~こういうふうに言われると」

難病中の難病と言われるALSと闘いながら清さんが明るい理由は、まだやらなければいけないことがあるからだと話します。

2021年、清さんは医療的ケアに特化したグループホーム、「ケアサポート志保」を立ち上げました。ALSを発症すると、やがて人工呼吸器をつける選択を迫られます。しかし、24時間の介護が必要になることなどから、家族への負担を考え、つける選択をする人はわずか2割。清さんは、生きることを諦めてしまう人を減らしたいという思いから自らこの施設を立ち上げたのです。清さんは、施設の代表を務めながら入居する患者を励まし続けています。

<清 しお子さん>
「大きくて温かい心に触れられたことは私にとってはこの病気の神様が与えてくれたからだと、そう考えることにしています。決して不幸ではありません」

しかし、清さんのように希望を持ち、生きる選択ができない患者もいるのが実情です。2020年7月、ALS患者やその家族に大きな衝撃を与える事件が起きました。4年前、京都市内の自宅で亡くなったALS患者の林優里さん。林さんからの依頼を受け、薬物を投与し殺害したとして、2人の医師が嘱託殺人の疑いで逮捕・起訴されたのです。林さんのSNSには、病気への絶望感が綴られていました。

<林さんのツイッター>
「操り人形のように介助者に動かされる手足。惨めだ。こんな姿で生きたくないよ。安楽死させてください」

しかし、現在行われている裁判で主治医の証言から新たな事実が明らかになりました。

<主治医の証言>
「林さんは死にたいと伝えてきたが、別の話では笑い合ったり楽しんだりしていた。片側では生きたいと思い、生きるための最大限の努力をしていた」

女性は、治験に関する情報を懸命に集めていたといいます。

この事件について、清さんはこう話します。

<清しお子さん>
「一番最初にこの病気を宣告されたときは3日ぐらいかな。泣いて泣いて泣いて、悔しくて悔しくて。そのことを思い起こせば、死にたい死にたいと思う気持ちがわからないわけではないです」

患者は、「死にたい」と「生きたい」の狭間で揺れています。

<夫 雅英さん>
「最初は延命治療はしないでくれと言っていたが、途中から考えが変わって面倒を見てくれるところがないから自分でやりましょうと、医学の進歩がすごいから、IPS細胞とかいろいろできてきているから、これから先、生きていれば治る薬も出るじゃないかということで、それを希望にこの施設をやってるからさ」

<清 しお子さん>
「半分は生きたいと思うからこそ、死にたいという言葉も出てくるんだと私は思うのね。その死にたいという言葉は裏返しで、生きたいから誰か手を貸してと。生きる目標を誰か私に見つけさせてください、与えてくださいと聞こえます。そのためにも、ここが誰かのためにそう役に立てれば、とても嬉しいですよね」

ALSは体が動かせなくなるものの、意識は正常のため、特に残酷な病気とされています。ただ、治療薬の研究は着実に進んでいます。

慶応義塾大学の研究チームは、iPS細胞を使った研究で見つけた治療薬の候補を患者に投与した結果、病気の進行を約7か月遅らせる効果を確認したと、6月に発表しました。2024年、規模を拡大した最終段階の治験を始め、治療薬としての実用化を目指すとしています。清さんは、ALSが、いつか必ず治る病気になると信じているので、グループホームが、生きる目標を持ってもらう場所になることを願っています。

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