78回目「長崎原爆の日」 核抑止依存からの脱却決断を 鈴木市長が平和宣言 60年ぶり室内で式典

台風6号の接近で規模を縮小し屋内で営まれた平和祈念式典=長崎市、出島メッセ長崎

 被爆地長崎は9日、78回目の「原爆の日」を迎え、長崎市尾上町の出島メッセ長崎で「長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」が営まれた。台風6号接近に伴い、会場を例年の平和公園から60年ぶりに屋内に変更し、主催者の市関係者らに参列を限った。鈴木史朗市長は就任後初の長崎平和宣言で、ウクライナ侵攻で核の威嚇を繰り返すロシアだけでなく、米国など核保有国や核の傘に頼る国々に対しても「核抑止への依存からの脱却を勇気を持って決断すべき」と強く訴えた。
 式典は安全確保のため、参列者を鈴木市長や市議、「平和への誓い」を読み上げた被爆者代表の工藤武子さん(85)ら42人に限定。岸田文雄首相や各国大使らを招待せず、被爆者や遺族の一般参列も中止した。

 鈴木市長は宣言の冒頭、被爆者運動をけん引した故谷口稜曄(すみてる)さん=享年(88)=の壮絶な被爆体験や、生前に「忘却が原爆肯定へ流れていく」と危惧した言葉を紹介。そうした被爆者たちの証言は、78年にわたり核戦争を押しとどめた「人類共通の遺産」だとして、被爆地を訪れて実相を知るよう世界に呼びかけた。 5月に広島で開かれた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)について、首脳による原爆資料館訪問や被爆者との面会を一定評価。一方で、発表した核軍縮文書「広島ビジョン」がG7側の核抑止力を正当化した点を批判し、「安全を本当に守るためには核兵器をなくすしかない」と強調した。
 米国の「核の傘」に頼る日本政府には、一刻も早い核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加や、署名・批准を要請。政府の反撃能力(敵基地攻撃能力)保有や防衛費増額を念頭に、憲法の平和理念堅持や、軍事的緊張が高まる北東アジア地域の「軍縮と緊張緩和に向けた外交努力」を求めた。
 国の指定地域外で長崎原爆に遭った「被爆体験者」の早期救済も要望。ビデオメッセージを寄せた大石賢吾知事も「広島で黒い雨に遭った方々と同じ事情の被爆体験者に救済の道を」と訴えた。岸田首相は収録映像で「核兵器のない世界」実現の決意を語った一方、被爆体験者救済や核兵器禁止条約には触れなかった。国連のアントニオ・グテレス事務総長のあいさつは司会者が代読した。
 式典では鈴木市長が原爆死没者名簿3冊を新たに奉安し、累計奉安数は計19万5607人分となった。市は9日、台風接近に伴い、長崎原爆資料館など平和関連施設の閉館時間を午後3時に早めた。

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