【リニア】川勝知事の“妨害”が止まらない!|小林一哉 とどまるところを知らない川勝知事のリニア妨害。今度、川勝知事が難癖をつけ始めたのは――。

激しい批判も馬耳東風

『すごいぞ!リニア』をもっとPRすべきだ(JR東海提供)

リニア南アルプストンネル静岡工区の着工を認めない川勝平太知事の妨害はとどまることを知らない。
今度は、JR東海のリニアトンネル工事に不可欠である最大規模の残土置き場「燕沢(つばくろさわ)」について、「計画地を見直せ」という言い掛かりだ。

「県境付近の湧水の全量戻し」、「山梨県の調査ボーリングをやめろ」の無理難題に続いて、残土置き場に計画変更を迫っている。

許可権限を握る川勝知事が何らかの懸念を持ち出して難くせをつければ、事業者のJR東海はすべての懸念にひとつずつ回答していかなければならない。

JR東海の十分な説明があったとしても、静岡県が納得しないことは目に見えている。いくら懇切丁寧な説明だとしても、意図的な質問を続ける限り、議論は終わらない。

川勝知事の求めてきた「県境付近の全量戻し」が、田代ダム案によってようやく解決に向かうと同時に、「燕沢の残土置き場をやめろ」をリニア妨害の新たな材料として出してきたかっこうだ。

このように、リニア妨害の新たな材料をつくり出そうと思えば、際限がない。JR東海は、川勝知事になす術もない状態である。

リニア計画の早期実現を進めたい政府や有力な政治家に期待できるのか? はっきりと言って、これは非常に難しい。国家的プロジェクトと言っても、JR東海だけの民間主導の事業だけに政府もなかなか手が出せないのだろう。

また川勝知事への厳しい批判をウエブメディアやSNSなどが続けていても、川勝知事には馬耳東風であり、表面的には何らのダメージも与えていない。

最良の方法は、より多くの世論を味方につけることだが、リニア計画の推進に期待する若い人たちの声はほとんど聞かれない。国民のほとんどはリニア計画に関心を持っていないようにさえ見える。

“御用学者”たちが一斉に批判

JR東海は一体、どうすればいいのか?

今回の焦点となった燕沢の残土置き場は、トンネル工事で発生する約370万立方メートルの大半、約360万立方メートルを安全な盛り土の構造物として処理する計画である。

JR東海は2017年1月に安全性、安定性を重視した上で、燕沢付近を中心とする残土置き場計画を発表した。

2018年夏から、静岡県が設置した県地質構造・水資源専門部会で燕沢の残土置き場計画についても議論してきたが、これまで燕沢が残土置き場にふさわしくないなどの意見は一切、なかった。

昨年8月、川勝知事がJR東海提案した取水抑制案に関わる田代ダムを視察した際、まず、燕沢付近で残土置き場計画の説明を受けた。

そこで川勝知事は「ここは深層崩壊が起きる危険性の高い場所である。深層崩壊について検討されておらず、残土置き場にふさわしくない」などと燕沢を頭から否定してしまった。もともとは田代ダムの視察を目的にしていたから、新聞、テレビは燕沢付近での知事発言などを取り上げなかった。

しかし、この視察以後も、定例会見の度に、川勝知事は「リニアの発生土は370万立方メートルである。熱海土石流で多くの方が犠牲になられたが、その60倍を上回る発生土だ。これを燕沢に積み上げるというのだ。

燕沢は、国交省の深層崩壊の最も頻度の高い場所に指定されている。燕沢を発生土の置き場にするのは、いまの最大の課題」などと燕沢の残土置き場を否定する発言を繰り返してきた。

田代ダム案のJR東海、東京電力RPの協議が始まり、近いうちに決着が見込まれる時期になって、昨年来の「燕沢の残土置き場」を新たな問題にしたのだ。

県地質構造・水資源専門部会が2023年8月3日に開かれ、燕沢の残土置き場に関する課題がテーマとなった。

静岡県の“御用学者”たちが一斉に、燕沢の位置選定に問題があるなど何の根拠もない理由を挙げて、「燕沢の残土置き場をやめろ」を求めたのだ。

「すごいぞ!リニア」を盛り上げよ

10周年を迎えた富士山の世界文化遺産登録を記念した静岡県の看板(筆者撮影)

受け身であるJR東海は、燕沢の残土置き場に問題がないことを丁寧に説明したが、簡単には解決しないだろう。

たとえ、燕沢の残土置き場の問題が解決に向かったとしても、また違う新たな問題が起きる可能性のほうが高い。

どうすればいいのか?

リニア計画実現へ向けて大きな世論をつくらなければ、いつまでたっても問題は解決しないのだ。
筆者の素朴な疑問は、「なぜ、新幹線ではなく、リニアなのか?」「リニアは本当に必要なのか?」「リニアのどこがそんなにすごいのか?」である。

JR東海の通り一遍の説明では、どうも納得できないのだ。

2025年開催の大阪万博の海外パビリオン建設の遅れなどが指摘される中で、大手広告代理店の電通の離脱が万博開催に大きな影響を与えていると報道された。電通の力がいかに大きいのかを認識させられた。
全く知られていないが、電通と言えば、富士山を世界文化遺産に登録させた最大の功労者が何と電通である。

筆者は、1992年当時から富士山の世界遺産運動に関わってきた。もともとは、富士山の過剰利用などの問題を取材していく中で、世界遺産登録を目指す運動とすることで、富士山の保全を国民全体の問題にしようとした。

1995年9月15、16日に、「富士山の文化的景観の可能性」などをテーマとする富士山国際フォーラムを静岡県で開催した。

ユネスコ世界遺産センター所長、世界自然遺産を審査するIUCNの責任者、世界文化遺産を審査するICOMOSの責任者らをフランス、スイス、オーストラリア、スペインなどから招請して、富士山の世界遺産について議論することで、この運動は一応の決着をした。

結論は、「富士山は世界遺産にふさわしいが、日本はユネスコからの財政支援を受けないのだから、国内の環境問題さえ解決すれば、世界遺産登録に何ら問題ない」だった。当然、環境問題の解決のハードルは非常に高かった。

その後、約10年がたち、電通が2004年頃から、静岡新聞社、山梨日日新聞社に声を掛けて、新たな富士山の世界文化遺産登録推進運動をスタートさせた。認定NPO法人富士山を世界遺産にする国民会議を中曽根康弘元総理大臣、文化庁、静岡県、山梨県の両知事ら各界の代表者を発起人として設立した。

当然、電通は文化遺産にすれば環境問題保全へのハードルが低くになることを承知して、電通主導のさまざまな活動を行った。

2013年6月、富士山はめでたく世界文化遺産に登録されている。実際には、環境問題の解決など全く行わなかったが、それでも世界文化遺産に登録されたのは、電通の貢献が大きい。民間企業だから、世界遺産をタネに儲けることも忘れなかった。

世界遺産登録という目的は達成されたのだから、川勝知事をはじめ地元は万万歳である。(※世界遺産登録の報に、実際、川勝知事はバンザイした)

JR東海は電通の力を借りたほうがよいのではないか。

電通が触媒となり、さまざまな人をつなぎ、リニア計画推進のさまざまなPRをしていけば、リニアへの理解が深まり、世論は盛り上がるはずだ。

静岡市立図書館で、「リニア」で検索すると、反リニアの書籍しかヒットしないのだ。『すごいぞ!リニア』といった子供向けの書籍を読んでみたいが、残念ながら、そのような書籍は出版されていない。

JR東海が本当にリニア計画の早期実現を目指すならば、電通の力を借りたほうがいい。『すごいぞ!リニア』を盛り上げる電通の力に期待したい。

購入→http://amzn.to/3Jr21AJ

小林一哉(こばやし・かずや)

© 株式会社飛鳥新社