歌手AIさんがウクライナカラーのリボンに確信した平和へのヒント ロシアルーツの生徒が示した勇気「大切なのは相手を思う気持ち」【思いをつなぐ戦後78年】

歌手のAIさん(ⓒKENGO MIYAMOTO)

 2000年のデビュー以来、パワフルな歌声に乗せ、愛や希望を届けてきた歌手のAI(アイ)さん。5月に被爆地・広島で開かれ先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に合わせ、被爆者やさまざまなルーツを持つ学生らと協力し、平和を訴える映像「Lasting Peace LIVE from Hiroshima」(https://www.youtube.com/watch?v=n2WwJ0RCRUY)をインターネットで配信した。ロシアのウクライナ侵攻から1年半近くがたち、世界の分断が深まる中、どんな思いを企画に込めたのか。(共同通信=野口英里子)

 ▽日常こそ「平和」
 米国人の母から、自分は衣食住のある恵まれた環境にいることや、「良いことをすれば、良いことが返ってくる」ということを教えられて育ちました。幸福、平和がテーマの楽曲が多いのは、そうした家庭環境の影響かもしれません。長女にも「平和」と名付けました。

 私にとって平和とは、何もおびえることなく眠れたり、コーヒーを飲んだりできることです。平和でなければ、何も始まりません。それなのに、世界では争いが絶えない。当事者に「何が問題なの」と理由を問いたいけれど、知り合いでもないので、難しいですよね。

 これまで、平和に関する発言をすると「大きな話だ」と敬遠されることもありました。でも、新型コロナウイルス禍を経て多くの人が「あり得ないことがあり得る」ことに気付いたのではないかな。5月の広島サミットは、さらに平和の尊さを発信するチャンスだと思った。そこで、ライブパフォーマンスをインターネットで配信しました。

原爆ドームの前でパフォーマンスする歌手のAIさん(右から4人目)と学生ら=広島市の平和記念公園(ⓒKENGO MIYAMOTO)

 ▽被爆者の言葉を世界に届けたい
 約30分の映像には、地元の学生らと一緒に平和記念公園などで歌う様子と、さまざまなルーツを持つ学生6人と私が広島で被爆した3人の証言を聞き、みんなで「平和を保つためにはどうすればよいか」をテーマに意見を交わす様子が収められています。

 歌だけにしなかったのは、戦争を体験した方の話こそ、人の心を動かすと考えたから。昨年、友人の紹介で、広島で原爆に遭ったおじいさん、おばあさんと広島市で面会し、当時の体験を初めて直接聞きました。幼い頃に読んだ漫画「はだしのゲン」の場面と重ね合わせながら、涙が止まりませんでした。「人を傷つけてはいけない。戦争はいけない」と再認識しました。今回の私の役目は、彼らの言葉を世界に届けることでした。

広島の被爆者の話を聴く歌手のAIさん(右端)(ⓒKENGO MIYAMOTO)

 ▽「自分の子どもに武器を向けられますか」

歌手のAIさん(ⓒKENGO MIYAMOTO)

 議論には、ロシアとウクライナ、それぞれにルーツがある生徒も参加しました。印象的だったのは、ロシアにルーツを持つ子がウクライナ国旗の色である青と黄色のリボンを髪に結んできたこと。相手を思う気持ちが表れていた。勇気を振り絞ったのだと思います。平和のために必要なのは「これだ」と直感しました。

 つまり、「何人だからこうだ」と国籍で判断したり、「誰が悪い」と矛先を向け合ったりするのではなく、一人一人が違う人間だと認識した上で、相手の立場に立って考え、行動することが大切なのではないでしょうか。武器を持っている人には、「自分の子どもにそれを向けられますか」と問いかけたい。「自分がされたら嫌なことを他人にするのはやめよう」と、一人一人が身近な人に呼びかけていくだけでも変わると思います。

 社会の問題は人間がつくり出したもの。だから、私たちの手で解決したり、予防したりできるはず。そんなメッセージをこれからも発信していきたいです。そのためにはまず、自分の心が平和でなければいけない。人にやさしくできる人間でありたいです。
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 1981年米ロサンゼルス生まれ、鹿児島市育ち。2000年にデビュー。「Story」や「ハピネス」など多くのヒット曲がある。

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