社説:マイナカード 一本化の延期を求める

 国民の不安は高まるばかりではないか。

 政府が公表したマイナンバー総点検の中間報告で、保険証とのひも付けミスが新たに1069件確認され、計8441件になった。

 公務員の年金情報でも118件の誤りが判明した。障害者手帳では約2割の自治体で処理が不適切だった。他人に医療情報を閲覧される保険証のミスが5件あり、住民税情報が閲覧される事案も新たに見つかった。

 政府は今月下旬に個別データの点検に本格着手するという。あってはならない個人情報の漏えいを含め、ミスやトラブルはさらに拡大しそうである。

 マイナカードへの保険証一本化には世論調査で8割近くが延期や撤回を求めており、カードの自主返納も増えている。少なくとも再発防止策が徹底されるまで、一本化は凍結すべきだ。

 だが岸田文雄首相は4日の会見で、来年秋の一本化方針を当面は維持する考えを示した。

 その上で、保険証の代わりに発行する「資格確認書」の有効期限を最長1年から5年に延長し、該当者には申請がなくても一律交付するという。

 ならば今の保険証でよい。多くの国民の受け止めだろう。多額の経費をかけ、さらに現場の負担を増やすだけではないか。

 総点検についても11月末までに行うよう指示し、再発防止策としてひも付けのガイドラインを9月中に策定するとした。

 自治体からは、夏休み返上での点検になるとの声も上がっている。政府の都合で期限を押しつけるのは身勝手に過ぎよう。

 人為的なミスを完全になくすことは難しい。求められるのは、ミスが起こることも前提にしながら混乱を抑え、情報流出という最悪の事態を防ぐ体制とシステムの構築にほかならない。

 河野太郎デジタル相は「同姓同名の人がいるとの認識が各機関で薄かった」とし、岸田氏は「これまでの普及の進め方に瑕疵(かし)があったとは考えていない」と語った。

 いずれも、まるで人ごとのようだ。そうした態度こそが制度への不信感を増幅していると気づかなくてはならない。

 任意のカード取得を事実上義務化したことが、混乱の主因である。一本化延長には、成立したばかりのマイナンバー法の再改正が必要になる。

 体裁にこだわり、ちゅうちょすべきではない。

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