爪痕残る港に10年ぶり新船 蛸島の北濱さん

新たな「久栄丸」を前に大漁を願う北濱さん一家=珠洲市の蛸島漁港

 県漁協すず支所の底引き網漁船団に10年ぶりに新造船が加わった。珠洲市蛸島町の北濱寧(やすし)さん(49)の「久栄(きゅうえい)丸」(9.7トン)で、長男の稜人(りょうと)さん(24)が漁師を継ぐことを決めたため、船を更新した。10日昼、5月5日の最大震度6強の爪痕が残る蛸島漁港に大漁旗をなびかせ船が姿を現すと、漁業関係者や親戚、知人らが岸壁に繰り出し祝福。「親子船」は9月の出漁を心待ちにしている。

 漁業歴31年の北濱さんは祖父から数えて3代目の漁師だ。水産資源の減少や燃料費高騰、後継者不足など、漁業を取り巻く環境は厳しさを増しており、40年ほど前は二十数隻あったという蛸島漁港の底引き網漁船団は今や半減した。

 そんな中、5年前から稜人さんが漁を手伝うようになり、4代目を目指すと決意したことから、船の新造を決断した。

 親子は9月からハタハタやメギスを追い、冬場は県産ズワイガニの雄「加能ガニ」を狙う。北濱さんは加能ガニの最高級ブランド「輝(かがやき)」を水揚げしたことがあり「新たな船で再び輝をとりたい」と意気込む。稜人さんは新しくなった船を眺め「早く一人前の船頭になって、この船で漁に出たい」と話した。

 奥能登地震を受け、蛸島漁港では岸壁の一部が沈み、給油設備のパイプがゆがんだ。パイプは応急処置が施されたが、本格復旧は見通せない。久々の明るい話題に漁港関係者には祝福ムードが広がっており、北濱さんは「祖父から継いできた漁業が稜人たちの手によって、これからも続いていってほしい」と願った。

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