年収の壁対策10月開始 首相県入り、企業支援表明

  ●最低賃金増に合わせ

 岸田文雄首相は10日、富山入りした。富山市での車座対話で、配偶者に扶養されるパート従業員らが社会保険料負担発生を避けるために働く時間を抑える「年収の壁」への対策で、手取り収入の減少分を穴埋めした企業を支援する制度を10月から始めると表明。「就業調整されている方に幅広く対応できるよう、ふさわしい予算の規模感を視野に入れ、10月から適用すべく調整している」と語った。政府は従業員1人当たり最大50万円の助成を検討中だ。

 国の審議会は2023年度の最低賃金の全国平均を時給1002円に上げる目安額を決定。初めての千円超えとなった。都道府県ごとの最低賃金の増加幅は8月中にも出そろう見込みで、10月ごろから適用される。最低賃金増に伴い収入が増え、働く時間をその分減らす動きが広がる可能性を踏まえ、対応する。

 企業支援制度は当面の措置とし、9月までに金額を含めパッケージとしてまとめる。年収の壁の抜本的見直しは、25年の法案提出を目指す年金制度改革の中で議論する。

 現在は従業員101人以上の企業で働くパートの場合、年収106万円以上になると配偶者の扶養から外れ、厚生年金などの保険料が発生して手取りが減る。人手不足に悩む企業から対策を求める声が上がっていた。

 10月から始める企業支援制度は、従業員の労働時間を増やしたり賃上げしたりすれば対象とする方針。3年以内に労働時間を延長する計画を策定し、実際に延長した場合も含める方向。扶養に入っている人だけでなく、単身者にも適用する見通しだ。

 富山市での車座対話に出席した鋳物メーカー「能作」(高岡市)の能作千春社長は、同社の女性従業員の半数がパート社員と説明した上で「どうしても就業時間が拘束され、『年収の壁』が強く課題に感じている。多様な人員が生き生きと仕事ができるようにしてほしい」と求めた。

  ●富山、射水の2社を視察

 岸田首相は富山市の立山科学、射水市のハリタ金属射水リサイクルセンターを視察し、新田八朗知事らと意見交換した。廃棄物を資源として再生し、経済活性化につなげる循環型経済の構築に意欲を示し、「9月には経済産業省と環境省を中心に産官学パートナーシップを立ち上げ、取り組みを加速させる。関係者を官邸に招き、車座対話を実施したい」と述べた。

 現役の首相が富山入りするのは、2018年8月27日の安倍晋三氏以来5年ぶりとなった。

 ★年収の壁 会社員や公務員に扶養される配偶者がパートなどで働いて一定以上の年収になると、厚生年金や健康保険の社会保険料が発生したり税の優遇が小さくなったりして、手取りが減る状況を指す。この一定の年収額が「壁」と呼ばれ、働く時間の抑制を招き、企業の人手不足の一因になっている。保険料は勤め先の従業員数などに応じて年収106万円や130万円で発生。106万円の壁を超えて働いた場合は、年収を約125万円まで増やせば手取りが106万円に達する。また年収が150万円を超えると、所得税の配偶者特別控除を満額受けられなくなる。

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