暑い日が続くと恋しくなるのがビール。今回もソウルでビールを美味しく楽しむ方法をお教えしよう。
路地裏に突如として出現する生ビール天国
明洞(ミョンドン)の最寄り駅、乙支路入口(ウルチロイック)から一駅東に乙支路3街(ウルチロサムガ)駅がある。3番出入口から地上に出ると、明洞の華やかさとはまったく違う下町のような風景に驚くはずだ。
週末の午後、あるいは平日の夕方、3番出入口から歩道を西方向に進み、最初の角を右に曲がってしばらく行くと、もう一度驚くことになる。
そこには大箱のビアホールが何棟も連なり、店内だけでなく路上にまで並べられた簡易テーブルに陣取った若者がジョッキ片手に歓談するビール天国、通称ノガリ横丁が広がっているからだ。
なぜ明洞ではなく、隣町の路地裏にビアホール街があるのだろうか?
乙支路3街駅の西北側のブロックには80年代からビアホールが点在していた。
周辺の商店や工場で働くおじさんたちが昼間(!)、お茶代わりに生ビールを一杯やる店があったのだ。
腰を据えて飲むわけではないので、つまみはノガリ(鱈の幼魚)の干物を炙ったものだ。
そんな雰囲気は2011年頃まで残っていたが、韓国に懐古趣味の空気が流れ出すと、積年を感じさせる店が多いこのエリアに、地元以外の飲兵衛や若者たちが集まるようになった。
この一帯の最古参である「OBベオ」、それに続く古株「満船HOF」「ミュンヘン」の3店を中心に賑っていたが、コロナ禍の数年前から全体的に若返りが図られ、最近は若者客を中心としたビアホール街に変貌している。
かつてのような枯れた魅力はなくなったが、路上でおしゃべりしたり、ときには隣席の女子をナンパしたりしながらジョッキをぶつけ合う元気な若者たちの姿は一見の価値がある。
つまみは以前のノガリのような軽いものだけではなく、マヌルチキン(ガーリックチキン)や砂肝フライなどが主流だ。
乙支路3街のビアホールが集まっているエリアは、再開発によって半分以上が工事中の状態だ。残っているエリアもいつまでも今のままいられるとは思えない。
ソウル中心部の高層ビルの影に息づく奇跡の生ビール天国を今のうちに目撃しておこう。
ソウルの下町でフライドチキン&ビール
乙支路3街駅から500メートルほど北上し、鍾路3街駅から地下鉄1号線に乗って東方向に15分ほど進み、6駅目の清凉里(チョンニャンニ)駅で降りる。
ここはソウルの東の玄関口。東京でいえば上野駅のような存在だ。
駅の近くにはおしゃれとは縁遠い食堂街や市場が広がっている。数年前までソウルでも有数の風俗街があった。
鍾路や乙支路など旧市街の中心部には今も西洋的な洗練とアジア的な生活感が共存しているが、ここ数年の再開発で西洋的洗練が優勢だ。しかし、清凉里まで来ると、ソウルが紛れもなくアジアであることが実感できる。
地下鉄駅の北側に広がる市場には、フライドチキンの専門店が点在している。いや、フライドチキンではない。トンタクだ。トンタクとは鶏の丸揚げのこと。
私が子どもの頃は、市場の鶏屋で生きた鶏をさばいて丸揚げしたものを母に買ってもらい、家で夢中で食べたものだ。
チキン大国韓国では、韓流スターがCMに出るような大手宅配チェーンから個人経営の小さなチキン店まで業態は多彩だ。
ここ清凉里の伝統市場にあるチキン店は中高年の主人が切り盛りする店がほとんど。店先で揚げたものをテイクアウトしたり、店内でビールとともに食べたりする。
先日、私が入った「南原(ナモン)トンタク」もそんな店のひとつ。話し好きな女将のおしゃべりを聞きながらチキンとビールをいただいた。
この女将なら、たとえ言葉の通じない日本の旅行者でもかいがいしく世話を焼いてくれるので、楽しい時間を過ごせるだろう。
クラフトビールを買ってホテルで部屋飲み
20年くらい前まで、カフェでエスプレッソを注文すると、店員が「エスプレッソは量が少ないんですけど、大丈夫ですか?」と聞かれるようなコーヒー発展途上国だった我が国だが、今ではカフェ大国と呼ばれるくらいコーヒーも店もスイーツも多様に発達している。
ビールは15年くらい前は、スーパーやコンビニの冷蔵庫に国産品と外国産品が6~7種類しか並んでいなかったが、今では国産品だけで20種は下らない。
鍾路3街、梨泰院、江南などソウルの繁華街には手製麦酒(スジェメクジュ=クラフトビール)の専門店もできているが、けっして安くない。
飲み歩きの〆に個性的なビールを選びたいなら、宿の近くのスーパーなどでクラフトビールを買って、部屋でゆっくり味わうといいだろう。
(うまいめし/ チョン・ウンスク)