3年半ぶりの台湾旅行。連載4回目は喧騒の台北中心部を離れ、郊外の北投温泉で湯につかった後、台湾でも有数の賑わいを見せる朝市に向かった。
北投市場が大変身
今回、台北での宿を北投エリアに決めた理由は温泉とランニング、そしてもうひとつ。お気に入りの朝市があるからだ。台北市内には朝市がたくさんあり、それぞれ特徴的なのだが、北投の市場は活気がすごい。
ランニングをして温泉につかり、すっかりお腹が減ったので、朝ごはんを物色すべく、小銭を握りしめて北投市場へ向かう。
世界各地で電子マネーの普及が進んでいるが、台湾はまだまだ現金のみという店が多い。家族経営の大衆食堂、夜市、そして朝市の朝ごはん屋さんでは50元、100元といった小銭が重宝する。
3年半前に北投市場に来たときはコンクリートの建物の1階が野菜と肉、2階が魚介と朝ごはんエリアというふうに分かれていて、建物の外には大小さまざまな屋台が軒を連ね、お惣菜やキッチン用品、さらには下着や靴下まで売っている総合市場だった。
3年半ぶりに訪れてみて驚いた。旧市場のすぐそばに、1階建ての細長いモールのような仮設建築がいくつもできていて、壁には大きく「北投中継市場」とある。
聞けば、旧市場は老朽化が進んだために改築工事をすることになり、2022年の秋からその名の通り、新市場と旧市場の「中継」市場としてオープンしたのだ。
建物ごとにA区、B区と表記されていて、それぞれが野菜コーナー、精肉コーナーなどに分かれている。
自動ドアをくぐると広い通路の両脇に店がずらり。中はもちろん冷房完備で、明るい照明に照らされた食べ物はどれも美味しそうだ。
伝統市場が急にスーパーマーケットになったようだ。仮設市場でこれだけきれいなのだから、新しい市場はどんな建物になるのだろう。
在来市場の枯れ味のある建物が消えてしまうのはちょっと残念だなとも思う。でも、一緒に市場を訪れていた蚵仔煎(オアジェン)屋台のヤン君は、新しい北投市場に感激していた。
市場で売る人も、買う人も、すっきりと整理された清潔な環境で新鮮な食材を手にするほうがいいに決まっている。
それに、中継市場とはいえ、肉をさばく店主や声を張り上げる売り子さんたちの熱気は衰えていいない。
誰もが新市場の完成を心待ちにしている。2024年5月頃にできあがる予定だとそうだ。こうご期待。
朝ごはんの店はD区
北投中継市場はA区が野菜、B区が精肉と生魚、C区が雑貨、そしてD区が美食と分かれている。私の目的はもちろん、一番奥にあるD区の朝ごはんだ。
明るい仮設市場のグルメエリアをひと回りしてみると、旧市場にあった店がそっくり移動してきている。これはうれしい。
そして、旧市場でも仮設市場でも、人気店の行列は相変わらずだ。
私は前回、旧市場を訪れたときには臨時休業中で食べることができなかった魯肉飯の店「矮仔財」の行列に並んだ。
土曜日の朝とあって、20人ほどが列を成しているが、今回はなんとしても食べたい。
並んでいる間に注文用紙が配られる。目当ては魯肉飯。煮玉子はプラスしたい。
でも同じ鍋で煮込まれている大腸もかなり美味しそうだ…。待てよ、やっぱり野菜もあったほうがいいかも。考えている間に自分の順番がやってくる。
この店のカウンターで異彩を放っているのが魯肉を煮込む寸胴鍋だ。赤黒く焦げたような鍋には濃厚な煮汁がグツグツと湯気を立て、その中で豆腐や肉が徐々に煮汁と同じ色に染まっていく。
鍋のフチにこびりついた黒い焦げや脂は、どれだけタワシでこすっても落ちないぐらい何層にも重なって、鍋の中身が間違いなく美味しいことを主張している。
ヤン君いわく、こういう店はけっして鍋を洗わないそうだ。
日本の鰻屋さんがタレを継ぎ足すのと同じように、煮込み汁は店の財産。
継ぎ足すことで不動の味が受け継がれ、さらに日々加えられる豚肉や卵のエキスが旨味を増していく。
待望の魯肉飯
やっと朝ごはんにありついた。白米の上に盛られた魯肉はこれ以上ないくらいの艶を放っている。
魯肉と同じ色に煮込まれた大腸はとろりと柔らかく、口に入れると噛む前に溶けてしまいそうだ。千切りのショウガが甘い味付けのアクセントになっている。
さすがの人気朝食店。私とヤン君は一人前だけ頼んで2人でシェアし、腹五分目といったところ。
北投中継市場のグルメコーナーには魅力的な朝ごはんが凝縮している。次は何を食べようか?
(つづく)
(うまいめし/ 光瀬 憲子)