社説:コロナ受託不正 健康不安顧みぬ悪質さ

 新型コロナウイルスのワクチン接種の予約に何度かけても通話がつながらず、途方に暮れたことを思い出す人が多いのではないか。

 コールセンター業務を請け負った業者による過大請求が、次々に発覚している。

 大手旅行会社の近畿日本ツーリストは、応対人員を水増ししたとして、詐欺容疑で元支店長ら4人が逮捕された。高浦雅彦社長は8月末での引責辞任を表明したが、組織的な関与がなかったか、全容解明が求められる。

 他業者分を含め、京都市など全国の自治体で過大請求の被害が出ている。人々の健康不安を顧みず、公費を食い物にしたと言わざるを得ない。自治体側のチェックの甘さも問われよう。

 近ツーは、大阪府東大阪市から受託したコールセンター業務で、オペレーター数を水増しして計約2億3千万円を過大請求し、詐取したとされる。

 市から指定された人数より少なく再発注し、当時の支店長らが再委託先に指示して実績報告を改ざんさせていたという。静岡県内の2市では水増しや架空の業務で計5200万円を過大請求したとされる。極めて悪質だ。

 おととい記者会見した同社は、過大請求が全国の最大約50自治体向けで計9億円に上るとの点検結果を公表した。社の聞き取り調査に担当社員は「人件費を削減して利益を上げたかった」と動機を話したという。水増し手口が組織に広がっていた疑いが拭えない。

 人材派遣大手のパソナや電通グループ子会社が受託したコールセンター業務でも、過大請求が明るみになっている。

 コロナ禍では、需要が激減した旅行・イベント業界が、巨額の公費がつぎこまれたコロナ関連事業などでの穴埋めに動いた。近ツーは2020年4月から3年間で762の自治体、企業などから2900件超を受託したという。

 過大請求の多くで、受託業者が下請けに再委託していた実態は見過ごせない。かねて公的事業の「丸投げ」が問題となっており、業務管理を曖昧にし、コスト高を招く温床にメスを入れねばならない。

 自治体も監督責任を免れない。京都市でもワクチンのコールセンター受託業者が5800万円超を過大請求していた。市は簡単な「完了届」で済ませ、個々の勤務実態を確認していなかった。

 感染急拡大で繁忙を極めたとはいえ、人命に関わる重みと責任に応えられたか、検証が不可欠だ。

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