ハードボイルド小説を実写化 綾瀬はるか主演『リボルバー・リリー』

©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ

冷徹非情な美しき諜報員を綾瀬はるかが熱演!

かつて東アジアを中心に3年間で57人の殺害に関与し、各国大使館から「最も排除すべき日本人」と呼ばれた冷徹非情な美しき諜報員・小曾根百合。彼女は消えた陸軍資金の鍵を握る少年・細見慎太と出会い、陸軍の精鋭から追われる。

映画『リボルバー・リリー』は、ハードボイルド作家・長浦京が第19回大藪春彦賞を受賞した同名小説(講談社文庫)を実写化。ドラマ「精霊の守り人」シリーズなどで激しいアクションを披露した綾瀬はるかが、小曾根百合を演じる。綾瀬は本作で初めてガンアクションに挑んだ。

共演は小曾根百合をサポートする弁護士・岩見良明に長谷川博己、行動を共にする少年・慎太に羽村仁成(Go!Go!kids/ジャニーズJr.)、慎太の父・細見欣也に豊川悦司。さらに橋爪 功、石橋蓮司、阿部サダヲ、野村萬斎といったベテラン勢が脇を支える。

<STORY>

関東大震災の翌年、小曾根百合は旧知の人物が一家惨殺事件の犯人と報じられた新聞記事を見て、現場に向かう。帰りの列車の中で陸軍から追われている少年を助けると、彼は一家惨殺事件で唯一生き残り、父親から「“小曾根百合”のところにいけ」と言われていたことを知る。少年はなぜ追われているのか。彼の父親はなぜ自分を頼るように告げたのか。状況が見えない中、2人は行動を共にし、巨大な陰謀の渦に吞み込まれていく。命を賭した戦いの果てに2人を待ち受ける宿命とは…。

©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ

行定勲監督が初めてアクション作品に挑む

本作は紀伊宗之プロデューサーの「ダークヒロインを誕生させたい」という思いから始まった。紀井氏は長らく途絶えていた東映のアウトロー路線を『孤狼の血』で復活させた人物である。

今回、監督を依頼したのは人間関係をじっくり見据えて描くことに定評がある行定勲監督。恋愛作品を多く手掛けてきたベテラン監督にあえて初めてのアクション作品に挑ませた紀伊氏の決断に驚いたが、行定監督は「“アクション”とは“コミュニケーション”という意識で向き合いました」といい、見事にその期待に応えた。

振り返ってみれば、紀伊氏はバイオレンス・アクションで海外でも人気の三池崇史監督にとって初めてのラブストーリーとなる『初恋』を企画プロデュースしている。同作はカンヌ国際映画祭2019「監督週間」に選出された。意外な人選に長けた人物といえるだろう。紀伊氏は2023年4月に東映を退職し、映画、映像の製作および制作請負と付随する事業全般を行うK2Picturesを今年8月に立ち上げたばかり。独立後の作品として注目されている。

綾瀬はるか「ガンアクション」に挑む

主演は『レジェンド&バタフライ』の濃姫役の記憶も新しい綾瀬はるか。諜報員として類い稀なき能力を持つ人物をいつもの笑顔を封印して演じ、キレのある動きを見せる。アクション練習に1カ月以上の時間を掛けた上に、撮影中も練習を重ね続け、殺陣の大半を自ら演じた。行定監督が百合に与えた合気の達人という設定の通り、列車の中で、陸軍の精鋭を相手に素手で立ち向かう姿は惚れ惚れする。

綾瀬はるかは初めてのガンアクションにも挑んだ。クライマックスにはS&W社の「M1917リボルバー」とベレッタ社の「M1915」の2丁拳銃の射撃シーンもある。凛として狙い澄ませて敵を撃つ姿は本当に美しい。

本作は東映が巨額な制作費を掛けたアクション大作だが、東映大泉撮影所に作られたセットも見応えがある。百合が銀座の洋装店から表通りに出ると路面電車が走り、松坂屋が見える。当時をリアルに知るわけではないが、思わず、その頃に戻ったかのようなノスタルジーを感じずにはいられなかった。

クライマックスは銀座から日比谷公園を抜けて、その先にある海軍省に向かう。銀座の地理が頭にあれば、“あの辺りなのではないか”という気持ちで画面に引きずり込まれるだろう。

原作を大胆にアレンジ

実写化にあたり、行定監督は原作を大胆にアレンジして重要な人物2人を1人に統合。ハードボイルドな作品を”1人の女性の人間ドラマ”へと昇華させた。

撮影の準備が始まった頃、ロシアとウクライナの戦争が始まったという。本作は大正時代を舞台にした作品だが、行定監督は「戦う映画が玩具のように見えてはならない。戦うということに苦悩する百合をどう描くか。撮影中も編集中もずっと自問自答を繰り返していました」とコメントしている。

作品の中では百合に「戦いはいつも矛盾だらけでした。そこで導き出せた答えは1つとして正しいことはなかった」と言わせた。ほかのキャラクターにも「諜報や軍事力での政治的支配ではなく、経済で蔭から平和的に統治すべき」「戦争を回避し、経済力で国を成長させる」といったセリフがある。

今の時代に対する行定監督の強いメッセージを、スクリーンからぜひ感じ取ってほしい。

文:堀木三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

<作品データ>
『リボルバー・リリー』
監督:行定 勲
原作:長浦 京『リボルバー・リリー』(講談社文庫)
出演: 綾瀬はるか、長谷川博己、羽村仁成(Go!Go!kids/ジャニーズJr.)/シシド・カフカ、古川琴音、清水尋也/ジェシー(SixTONES)、佐藤二朗、 吹越 満、 内田朝陽 、板尾創路、橋爪 功/石橋蓮司/阿部サダヲ、野村萬斎、豊川悦司
配給:東映
©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ
公式サイト:https://revolver-lily.com/2023年8月11日(金)全国公開

堀木 三紀

映画ライター/日本映画ペンクラブ会員

映画の楽しみ方はひとそれぞれ。ハートフルな作品で疲れた心を癒したい人がいれば、勧善懲悪モノでスカッと爽やかな気持ちになりたい人もいる。その人にあった作品を届けたい。日々、試写室に通い、ジャンルを問わず2~3本鑑賞している。(2015年は417本、2016年は429本、2017年は504本、2018年は542本の映画作品を鑑賞)

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