[農家の特報班]新常識「真夏に焼き芋」 「冷やし」人気拡大、相次ぎイベント

イベントでは、冷やし焼き芋やソフトクリーム、ブリュレなどさまざまなメニューが提供された

イベントでは、冷やし焼き芋やソフトクリーム、ブリュレなどさまざまなメニューが提供された

寒い季節の味覚というイメージが強いサツマイモ。だが今年、真夏にサツマイモを楽しむイベントが相次いで開かれる。本紙

「農家の特報班」

が探った。

来場者1万人超 スイーツや飲料も魅力

7月15、16の両日、静岡県島田市で開かれた「2023KADODE大井川で冷やし芋フェス!」。両日とも県内の最高気温が30度を超える真夏日となる中、屋外の会場に2日間で計1万1000人を超える人が訪れた。

お目当ては、サツマイモだ。焼き芋を冷蔵・冷凍した「冷やし焼き芋」、芋を使ったアイスやブリュレ、モンブラン、冷たいドリンク――。芋の専門店以外も含めて延べ74店が出店し、有名店には長い行列ができた。

「夏にサツマイモ、珍しくないですか?」「え、そうですか?」

記者は何人かの来場者に尋ねたが、多くは否定された。同県焼津市の40代女性は「冷やし芋が大好き」と、持ち帰り用の保冷バッグ持参で来場。浜松市から両親と訪れた大木たいすさん(35)は「温かいお芋も冷たいお芋もおいしい。バリエーションが増えてうれしい」と話す。

主催企業のロト(掛川市)は、夏も需要を喚起したいと開いた。暑さが厳しい午後の集客は課題だが、人口9万6000人の島田市でこれだけの人が訪れるイベントは珍しいという。「予想以上の人気。ファンの勢いを感じる」と同社の佐田芽生さん(30)は話す。

冷やし焼き芋やスイーツを多くの人が楽しんだイベント(静岡県島田市で)

7、8月には他に少なくとも二つのイベントがある。全国的な焼き芋ブームが2000年代から続くとされるが、サツマイモは夏が端境期。加熱が必要なため、暑い時期は消費が減りやすい。さつまいもアンバサダー協会の橋本亜友樹代表理事は、夏もイベントを開けるようになった背景には、冷やし焼き芋の需要拡大があるとみる。

“ねっとり系”最適

近年人気の「べにはるか」など“ねっとり系”品種は、冷やし焼き芋でも食感が保たれ、冷やすと甘味をより感じやすくなるとされる。冷凍や貯蔵施設の整備で周年供給・長期熟成が可能になり、コンビニエンスストアなどでの商品化もあって、冷やし焼き芋の人気はここ1、2年で急速に広がったという。

サツマイモの濃厚な甘さは、冷たいスイーツの原材料にも向く。通年で営業する専門店が増えており、今後、夏場の需要創出のためにもイベントは重要な存在となりそうだ。

しかし橋本さんは、夏のイベント定着には「冷やし焼き芋だけでは難しい」とみる。適した品種が限られ、秋冬のイベントで人気の「食べ比べ」をしにくいためだ。夏は競合イベントも多い。冷たいスイーツに加え、サツマイモを使ったビールなど、夏向けメニューの充実が必要とみる。

「元祖」は酒と“ペアリング”提案

真夏のサツマイモイベントは、昨秋~今春に全国で少なくとも35件のイベントが開かれたことに比べると、まだ珍しい存在だ。主催者は、新たな需要につながる夏イベントの定着を目指し、工夫を凝らす。

東京・新宿住友ビル三角広場で8月17~20日に開かれる「夏のさつまいも博2023」。毎回数万人が訪れる2月の人気イベントの夏版だ。夏は昨年8月にさいたま市で開いたのが第1回で、夏のサツマイモイベントの「元祖」とされる。

同博実行委員会委員長の石原健司さん(37)は「サツマイモは秋冬のイメージが強い。8月に開き、食べる場面を増やすきっかけにしたかった」と話す。昨年は初開催で集客に不安もあったが、3日間で1万5000人が訪れた。今年は専門店24店が出店。暑さを考慮した屋内会場で、入場料は当日800円、2時間の入れ替え制で3万人強の来場を見込む。

最終日を除き、午後6時からは「夜のさつまいも博」として開く。サツマイモに合う日本酒・焼酎を提供する初の取り組みだ。「お酒を飲みながらサツマイモを食べる場面はなかった」(石原さん)と、「ペアリング」による新たな楽しみ方を提案。サツマイモは女性人気が高く、男性を呼び込む狙いもある。

2022年8月の「夏のさつまいも博」。多くの人が訪れた(さいたま市で)

「お芋好き」以外にも目配り

7月29、30日には、静岡市で「夏のおいもフェスSHIZUOKA2023」が開かれた。冷やし焼き芋、芋を使ったかき氷などの冷たいスイーツ、料理、ドリンク、芋以外を提供する「芋休め」を含め80店以上が出店。8000人が訪れた。

「お芋は夏もおいしいとアピールしつつ、お芋好きでない人も楽しめるようにしたかった」と、主催したnonii(同市)の片寄裕介さん(28)。音楽やダンスのステージなど、幅広い層を意識した催しも用意した。

音楽ステージなども用意した「夏のおいもフェスSHIZUOKA2023」(静岡市で)

ただ、来場者数は2月に同会場で行ったサツマイモのイベントを下回った。会場は屋外で、来場者アンケートの満足度は高かったものの、片寄さんは「暑過ぎた」ことで客足や滞在時間が伸び悩んだとみる。両日とも同市の最高気温は32度を超えた。夏のイベントは暑さ対策が課題となりそうだ。 岡部孝典

「農家の特報班」

(略称のうとく)に取材してほしいことを、LINEでお知らせください。友だち登録は

こちら

から。

公式ツイッター

も随時更新中です。

のうとく調査報道

・「LGBT法」施行1カ月 「孤立が怖い」居場所を
・農薬を除去?「ホタテパウダー」怪しい効果
・フリマアプリ 後絶たぬ違法取引なぜ

▽もっと見る

のうとくQ&A

・「国産国消」ではなく「国消国産」なのはなぜ?
・ブドウで常温煙霧に使える農薬が増える見込みは?
・暗渠、明渠ってどういうもの?

▽もっと見る

のうとくアンケート

・あなたの「暑さ対策」を教えて…必需品は?
・牛乳「日常的に飲む」76% 朝派が最多、夫婦の仲直りにも?
・石川選手に感謝のメッセージ続々 憧れ、誇り、農家の励み

▽もっと見る

© 株式会社日本農業新聞