盆を狙う台風

 宮沢賢治の詩「雨ニモマケズ」の一節に「サムサノナツハオロオロアルキ…」(寒さの夏はおろおろ歩き)とある。冷たい夏は稲に冷害をもたらすが、自然相手ではなすすべもない。農家のやるせない思いを、賢治は詩に込めたのだろう▲梅雨寒(つゆざむ)が長引く低温の夏を「みどりの冬」と呼ぶらしい。夏の季語でもある。例えば20年前の今時分、列島は日々、雨や曇りの空に覆われ、とりわけ東北地方は記録的な低温が続いた。昔から「みどりの冬」は穂の生育を遅らせ、不作を招く▲近年も長雨、日照り不足の夏はあるにはあるが、「冷夏」の一語は見聞しない。「災害級の暑さ」に取って代わられた感がある▲「みどりの冬」はなくても「農家泣かせ」ならば他にもある。本県に接近した台風6号に続き、お盆の時期を狙い澄ましたように台風7号が列島へ迫り、大きな被害が案じられる▲激しい風雨で農作物を倒し、水浸しにする「農家泣かせ」どころか、「国民泣かせ」の台風だろう。本州に進んでいるが、全国どこであろうと、数知れない人の帰省や旅行に影響を与えるのは間違いない▲例えば本県へ里帰りを予定する人は、帰省できてもUターンできなくなる恐れがある。数知れない人の移動を遮り、おろおろさせる台風が、どうやらお盆の風景を一変させる。(徹)

© 株式会社長崎新聞社