【岩佐歩夢インタビュー】「僕の夢はレッドブル、アストンマーティンでF1に乗ることではない」FIA F2終盤戦に向けて

 F1直下のレースカテゴリー『FIA F2』に参戦する岩佐歩夢(ダムス/レッドブル&ホンダ育成)は、今季13大会中10大会を終えてドライバーズランキング3位につけている。残るは3大会6レースとなるなか、サマーブレイクで一時帰国した岩佐に、FIA F2での戦いや課題、2026年からのホンダF1完全復帰を耳にした際の心境、そして同じレッドブル育成のリアム・ローソンが参戦する全日本スーパーフォーミュラ選手権などについて話を聞いた。

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──今回の帰国、シーズンもサマーブレイクということで休暇が目的かと思いましたが違うと聞き驚きました。

「FIA(国際自動車連盟)のルールでF1もFIA F2もサマーブレイク中はファクトリーが完全ローズドとなるので、ファクトリーにあるトレーニングジムが使えなくなりました。イギリス(レッドブル)、フランス(ダムス)のファクトリー近くにも一般向けのトレーニングジムはありますけど、一般の方も多くて混雑していますし自分のやりたい環境でのトレーニングは難しいです。日本にはトレーナーさんもいるので一旦帰国し、日本にいる間はトレーニングだけに集中し、サマーブレイク明けのザントフォールトとモンツァの2連戦に向けて準備をするという期間にしました」

「そういう理由なので、サマーブレイク中は休息というよりも普段よりハードです(苦笑)。シーズン中のレースとレースの間の期間のほうがぜんぜん楽ですね」

──今季FIA F2でのこれまでの戦いはどう評価していますか?

「正直、納得できる状態では来れていません。ただ、FIA F2参戦2年目ですが、まだまだ新たに得た学びもあるので、そういった部分も上手くマッチさせることができれば、サマーブレイク明けのザントフォールトとモンツァの2連戦、そして最終戦のヤス・マリーナという残る3大会をしっかりといいかたちで、チャンピオンシップも含めて戦えると思います」

──新たに得た学びとはどのようなものですか?

「具体的にはタイヤの部分やドライビング面の学びです。今年はFIA F2にもアグレッシブなドライバーが増えました。それだけに、戦い方も去年とまったく同じではいかないと感じています。そのためにも、よりしっかりと準備をして戦わないといけない、そこがキーポイントになると感じています」

──今季の前半戦を振り返って、一番の課題はどのような部分でしょうか?

「絶対に改善しなければいけないのは予選のパフォーマンスです。レースペースに関してダムスのマシンはセットアップで大外しをしない限りは常にいいですし、タイヤマネジメントの面から見ても悪くないです。もちろん、レースペースについても改善点はありますが、最重要視しているのは予選です」

──残すは3大会6レースですが、どのような心境で臨みますか?

「第11戦スパ・フランコルシャンを終えて、ドライバーズランキング3位という状況です。3位にいる限りは1位(テオ・プルシェール/ARTグランプリ/ザウバー育成)と2位(フレデリック・ベスティ/プレマ・レーシング/メルセデス育成)を追わなければなりません。当然攻めの姿勢で戦わなければいけませんし、前のふたりを抜くにはたくさんのポイントが必要です」

「そのためにも、スプリントレース(決勝レース1)よりも多くのポイントが得られるフィーチャーレース(決勝レース2)を獲りにいかないといけません。フィーチャーレースでの順位は予選のパフォーマンスが重要(スプリントレースは予選トップ10がリバースグリッドとなる。フィーチャーレースは予選順)ですので、予選からパフォーマンスを発揮し、1週末をまとめきることができれば、チャンピオンシップも上に行けると考えています」

──第10戦、第11戦とジャック・ドゥーハン(インビクタ・ビルトゥジ・レーシング/アルピーヌ育成)がフィーチャーレースで連勝したこともあり、第11戦終了時点で4ポイント差のランキング4位に接近していますが、どのように感じていますか?

「正直、ランキング下位のことはまったく考えていません。というのも、前のふたり(プルシェールとベスティ)を食っちゃえば後ろに抜かれることはありません。ドライバーズランキングでトップになることだけを目指していますので、下位のことを気にする必要はないかなと思っています」

2023年FIA F2終盤戦へ向けた思いを語った岩佐歩夢(ダムス/レッドブル&ホンダ育成)

■岩佐歩夢「FIA F2を3年戦うようじゃダメだと思っています」

──レースのこととは離れて、少し時制を遡ってお伺いします。5月にホンダが2026年からのF1完全復帰を発表しましたが、その時の心境はいかがでしたか?

「すごく嬉しかったです。僕自身ホンダはF1のイメージがすごく強いですし、ひとりのクルマ好き、モータースポーツファンとしても嬉しいニュースでした。ただ、僕個人のレース活動に大きく影響することなのかどうかはわかりませんでしたので、逆にそこは考えませんでした。ホンダのF1活動に関わらず、まずは自分がFIA F2で結果を残せなければ海外でレースを続けることはできません」

──2026年からはホンダはアストンマーティンとタッグを組むということで、今後レッドブルとの育成プログラムがどうなるのかという不安もありますか?

「僕はレッドブルとホンダのドライバーとして、双方からサポートを受けて今季FIA F2に参戦しています。僕の夢はレッドブルでF1に乗ることでも、アストンマーティンでF1に乗ることでもなく、F1でワールドチャンピオンになり、その立場に居続けることだけです。そのため、そこに関しては意識を置いていないですね。結局は自分のFIA F2でのパフォーマンスが重要です。パフォーマンスが良く、誰もから認められたらどこからでも声がかかるようなドライバーになれるはずです。そういうドライバーであることを今目指しています」

──レッドブルの次期F1ドライバー候補として、岩佐選手とリアム・ローソンの名が挙げられている状況です。同じレッドブル育成のローソンが参戦するスーパーフォーミュラはチェックされていますか?

「実は僕、スーパーフォーミュラのことをすごく追って見ています。というのも『SFgo(公式アプリ)』ではオンボード映像と各車のタイヤ温度を見ることができますが、あれがFIA F2での走りのヒントになるんじゃないかなと。そう思い『SFgo』で見たこと、感じたことをダムスと共有してたりもしますね。リアム云々は関係なく見ています(笑)」

「FIA F2(ピレリ)とスーパーフォーミュラ(ヨコハマ)のタイヤは見ている限り、キーとなる部分が異なります。FIA F2は表面の温度が限界に達してタイヤのマネジメントが厳しくなります。でもスーパーフォーミュラはタイヤ内部の温度がすごく高くなるといった違いがあります。個人的にリアムの強さ、他のクルマとは異なる点は、アウトラップの速さだと思います。あのアウトラップの走りはFIA F2での経験が活きているなとも感じますね」

「リアムに関しては文化も環境も異なる日本で1年目からああいうパフォーマンスを発揮していることはすごいと思います。ただ、ドライバーズパフォーマンスとして、彼に負けているという感覚は今のところはありません」

──レッドブルの育成ドライバーとしてFIA F2で3年目を戦いF1へ昇格を果たしたドライバーは記憶にありません。岩佐選手もそういった状況、FIA F2の2年目の今季についての覚悟は持っているかと思います。

「僕自身、今年の初めからFIA F2は今年までと決めて戦ってきました。自分としてはFIA F2で3年も戦っているようじゃダメだとも思っています。……もしかしたら3年目もあるかもしれませんが、そこは自分が決めることではありません。現状、僕は今年結果を出すのだという気持ちで戦っています」

サマーブレイク期間に都内のホンダ青山本社を訪れた岩佐歩夢。この日に合わせて展示されたレッドブル・ホンダRB19のショーカーを前に。

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 第11戦終了時点でランキング首位プルシェールとは34ポイント差、ランキング2位のベスティとは22ポイント差の岩佐は残る3大会6レースで十分に逆転タイトルの可能性を残している。それだけに、終盤戦の岩佐の戦いからは目が離せないものとなるに違いない。2023年のFIA F2、次戦となる第12戦は8月25日〜27日にオランダのザントフォールト・サーキットで開催される。

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