【F1チーム代表の現場事情:アルピーヌ】激動の3週間を経て離脱が決まったサフナウアーの最後の仕事

 大きな責任を担うF1チーム首脳陣は、さまざまな問題に対処しながら毎レースウイークエンドを過ごしている。チームボスひとりひとりのコメントや行動から、直面している問題や彼のキャラクターを知ることができる。今回は、ベルギーGPの週末、アルピーヌのチーム代表のポジションから外れることが発表されたオットマー・サフナウアーに注目した。

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 マイアミGPの週末、当時のアルピーヌCEO、ローラン・ロッシが、チームの成績に不満を述べ、オットマー・サフナウアー代表とチームを公然と批判して以来、アルピーヌF1チームは混沌とした時期を過ごしてきた。そしてサマーブレイク前のベルギーGPで、劇的な変化が起きた。

 ロッシの発言直後にはサフナウアーの離脱は避けられないと予想されたが、最初に外れたのはロッシの方だった。7月10日、ブルーノ・ファミンが、ロッシCEOの直属として、アルピーヌ・モータースポーツの副社長に就任。20日にはアルピーヌブランドのCEOがロッシからフィリップ・クリーフに変更されることが発表された。ロッシはグループの変革に関連した特別プロジェクトに注力していくとのことだった。

2023年F1第9戦カナダGP オットマー・サフナウアー代表(BWTアルピーヌF1チーム)&ローラン・ロッシCEO(アルピーヌ)

 ロッシが外れたことで、サフナウアーへのプレッシャーが軽減され、彼のポジションは安泰になるかと思われた。しかし、そうではなかった。

 チーム経営陣と新たなボスとの話し合いのなかで、できるだけ早く好ましい結果を出すという目標を掲げる意向が固められた。2021年にロッシは、100戦プロジェクトとして、4年間で表彰台の常連になることを目指すと述べていた。しかしルノー幹部は、進歩のさらなるスピードアップを求めることを決めた。アストンマーティンとマクラーレンが数カ月で大きな前進を遂げたことから、自分たちにもそれが可能であると考えたのだ。

エステバン・オコン(アルピーヌ)

 2022年にはアルピーヌは、アストンマーティンとマクラーレンより上位に位置していたが、今年アストンマーティンは何度も表彰台を獲得、マクラーレンはこの数戦でフロントロウを争う力を見せた。ベルギーGP終了時点でアルピーヌはコンストラクターズ選手権6位に沈んでいる。

 より早期にチームを大きく前進させるという目標は非現実的であるとして不満を持ったサフナウアーは、ベルギーGP前の木曜夜の時点で、チームから去るしかないと考えに至っていた。

 そのころ、チーフテクニカルオフィサーのパット・フライは、ウイリアムズで同様のポジションに就くことがすでに決まっており、ウイリアムズはこの契約を発表する準備を進めていた。F1関係者のなかでその情報が広まり始め、アルピーヌの体制変更、他のスタッフの去就について、関心が高まってきた。サフナウアーとスポーティングディレクターのアラン・パーメインはチームとの合意の上での離脱が決まっていたが、それがいつ発表されるのか、チームメンバーたちにも分からない状況だった。

 経営陣は、チームがベルギーGPを通常どおり戦えるよう、正式発表を週末を終えた後に行いたいと考えていたが、結局それが不可能になり、FP1の直後に公表することとなった。

2023年F1第13戦ベルギーGP アルピーヌF1チームのモーターホーム

 契約上の取り決めにより、サフナウアーが語れることに制限はあった。しかし、チームの将来をめぐる意見に相違があり、彼とルノーの期待が一致しないことがきっかけであったことは明言した。一方サフナウアーは、今後1年にわたり他のF1チームで働くことはできないとする契約にサインしたものの、チーム以外のF1関係の職務に就くことはできることも明かした。サフナウアーはいずれF1の仕事に復帰したいと述べている。

2023年F1第13戦ベルギーGP アルピーヌF1チーム代表オットマー・サフナウアー

 ベルギーGPはこのように困難な状況のなかで戦わなければならなかったが、サフナウアーは非常にプロフェッショナルな態度でチームをリードし、立派に仕事を成し遂げた。スプリントではピエール・ガスリーが3位を獲得、これは彼が今年チームに加入して以来初めてのトップ3フィニッシュだった。日曜決勝ではエステバン・オコンが大きくポジションを上げて8位を獲得、ポイントを稼いだ。

2023年F1第13戦ベルギーGP スプリントで3位を獲得したピエール・ガスリー(アルピーヌ)

 これらの結果は、アルピーヌが物事がうまくいった場合には良い結果を出す力があることを示している。サフナウアーはアルピーヌに加入して以来、そういう状況を何度か実現させてきた。彼はチーム代表としての評価を落とすことなく、いずれ何らかの形でF1の仕事に戻ってくる可能性を保って、アルピーヌから去ったのだ。

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