カタツムリが主役の本。「たかがカタツムリ」のようにみえるが「されどカタツムリ」。
著者は、喜界島から与那国島までの主な島を調査で訪れている。聞き取り調査もそうだが、喜界島、与論島、北大東島を訪問し、実際にカタツムリ化石を探すところも書かれている。
読者は居ながらにして島の自然や文化に触れることができる。それだけではない。内容については、理系・文系と多くの文献を利用して分野を広げ、中身を深く掘り下げている。
また、これらの文献を巻末に示しているのもありがたい。ヤマト(本土)についても同様で、詳しく記述している。全体的には専門書のようにみえるが、読みやすい文体で、それを感じさせない。
内容はカタツムリざんまいではあるが「異世界をまたぐカタツムリ」が目をひく。カタツムリは広い意味で「虫」に含まれるという。沖縄のアブシバレー(虫送り)にカタツムリが含まれている。別の世界に送り出すというのだ。それだけではない、ジュゴンやナナフシ、妖怪など各地の異世界の民俗的内容も斬新で見逃せない。実際にカタツムリを食べた体験報告も貴重だ。
この本には、カタツムリの他に多くの動植物が登場する。これらは確かな生物の分類に基づいている。理科系ではあるが、中身は人と自然との関係を記した民俗的な内容である。
著者はこれを理科系のミンゾク学、略してリカミンと紹介している。
2010年、ユネスコと生物多様性条約事務局から生物多様性と文化多様性とをリンクする共同プログラムが発表された。生物多様性を保全するためにも、人類生存のためにも「自然と人」のつながりが重要ということだ。
関連して、最近では生物文化多様性という概念も注目されるようになった。紹介したリカミンもその流れの一環といえよう。
この本ではカタツムリをとおして自然と人とのつながりを記述しており、まさに生物文化多様性を具体化した本だと思われる。国内だけでなく、世界へ発信したい本のひとつといえそうだ。
(当山昌直・生きもの屋)
もりぐち・みつる 1962年千葉県生まれ、沖縄大教授。著書に「琉球列島の里山誌」「ゲッチョセンセのおもしろ植物学」「沖縄のいきもの」など多数。