喧々諤々の「倒産村」で醸成される信頼関係 ~ 西村あさひ法律事務所・横山弁護士、千明弁護士 インタビュー ~

2023年上半期(1-6月)の全国の企業倒産は4,042件(前年同期比32.0%増)と大幅に増加した。負債規模が大きい倒産も続発し、海外の取引先との調整や知財が絡む事件も多い。こうした状況を背景に、倒産や事業再生で幅広い知見を蓄積する西村あさひ法律事務所(千代田区)に注目が集まっている。
東京商工リサーチ(TSR)は、同事務所パートナーの横山兼太郎弁護士、千明諒吉(ちぎら りょうきち)弁護士に単独インタビューした。事業再生への想いや最近の倒産動向、枠組みが広がる私的整理への見解を聞いた。


―西村あさひ法律事務所へ入所した経緯は

(横山)司法試験に合格後、就職活動をする中で当事務所(※1)の面接を受けた。そこで松嶋英機弁護士(※2)より「法律への造詣はもちろんのこと、この世界では人間力が大切だ」と説かれた。元々、倒産や事業再生に興味があり「是非、取り組んでみたい」と思った。就職活動をしていた2005年当時は比較的景気も良く、それ以前と比べると倒産件数も再生案件も少なかった。
そうした中でも倒産や事業再生局面の会社は一定数ある。松嶋弁護士は常に「手一杯だよ」と仰っており、こうした時期に多く手掛けているところが倒産や再生を本当に取り組んでいる事務所だと感じた。
(千明)私は横山弁護士より前に入所し、企業買収や再編を担当していた。当時、「合併対価の柔軟化」(※3)の議論が活発で、海外からの投資呼び込みが政策の一つでもあった。少し時間が経ち、2008年のリーマン・ショックを経て景気悪化や流動性不足への対応が必要な企業が急増した。事業再生の取り組みには、M&Aやファイナンス対応はもちろんのこと、訴訟や不祥事、場合によっては刑事的な対応などハイブリッドでの取り組みが必要になる。

※1 当時は、西村ときわ法律事務所
※2 1943-2021年。ときわ総合法律事務所(のちの西村あさひ法律事務所)の開所者。山一證券の破産管財人、そごうグループの監督委員、破産管財人、ハウステンボスの会社更生申請代理人などを務めた
※3 消滅会社の株主に存続会社の株式以外を交付可能にする一連の議論。2006年の会社法の施行で実現された

入所の経緯を語る横山弁護士

当事務所は全分野をカバーしているが、倒産・事業再生をメインに担当し、中心的な存在である南賢一弁護士(※4)よりM&Aの部分で声がかかった。不採算やノンコア事業の売却など各企業の状態に合った活動をする中で、非常にやりがいを感じるようになった。
(横山)一つの事務所に様々な分野の専門家が集まっていることは、連携の面で非常に大きなメリットだ。ただ、事業再生案件は多数の利害関係人が絡むので、既存のクライアント等との関係で法的な面やビジネス面でコンフリクト(対立)に直面することがある。小規模な事務所だとこれが生じにくいという面はあろう。

※4 西村あさひ法律事務所パートナー。同事務所のみならず、倒産・事業再生の分野で実務家の中心的存在

―横山弁護士は昨年度、東京弁護士会倒産法部の事務局次長を務めた

(横山)2012~14年度にも会計として執行部に関わったが、その時と比べると研究会やシンポジウムの開催、書籍の執筆など活動が非常に増えた印象がある。東弁に限った話ではないが、いわゆる「倒産村」の弁護士に求められることが以前よりも増えているのだろう。新しい制度も生み出される中で、体系的な若手育成にも取り組んでいる。
(千明)こうした事務所を超えた取り組みが実務に大きく役立っている。案件に対応する際、連携したりカウンターパート(相手方)となる弁護士の人となりを分かっているかどうかは非常に大切だ。
(横山)倒産事件や私的整理では、債務者を中心に、債権者や株主、役員、従業員、スポンサーなど利害関係者が多く、様々な人と協議や交渉をする。主張すべきところは譲らずに「ガチンコ」でやるが「最後の落としどころはこの辺しかないことは分かっているだろうな」とか、「この主張を続ければ全体が成り立たなくなり、関係者全員にとって好ましい結果にならないだろう」などの感触が暗黙で見えてくる。様々な勉強会や案件での付き合いを通じて事業再生や倒産の専門的な知識・経験を身に付けながら、お互いに信頼や尊敬できる人間関係を醸成していく。それが俗に言われる「倒産村」という集団を形成しているのではないかと感じる。これは「なあなあでやっている」のとは全く違う。
例えば、中小企業活性化協議会を活用する私的整理のケース(※5)で、自身が中立的第三者である専門家アドバイザーである場合、たとえ債務者の代理人弁護士が「倒産村」の先輩弁護士であろうと、思ったことをきちんと伝えることに躊躇はない。公平・公正な視点できちんとレビューされていない専門家アドバイザーの調査報告書に金融機関は依拠できない。金融機関から見ても「倒産村」の弁護士は信頼できる存在である必要がある。

※5 ここでは、第2次対応・再生計画策定支援を念頭にしている

私的整理の法制化の私見を述べる千明弁護士

―新しい制度といえば、「私的整理の法制化」に向けた議論が活発だ

(千明)前提としてこれから申し上げるのは個人の意見であり、事務所としての見解ではないことに留意いただきたい。
ある合理的な再建案が出来た時に、合理性を欠く理由で少数債権者が反対した結果、「みんな不幸になります」というのは避けないといけないとの認識は世界共通だろう。ソブリン・デット(※6)のリストラクチャリング時は先鋭だ。ソブリンは倒産手続がないため、債券に多数決で物事を決める取り決め「Collective Action Clause」が重要になる。この手法はIMF(国際通貨基金)も推奨しており、ホールドアウト(※7)と呼ばれる少数債権者によって合理的な案がとん挫するのは非常にもったいないとの感覚がある。
ただ、債権者の立場では、多数決で物事が決まることに対する恐怖感はある。このバランスの中で全体の損失拡大をどのように防ぐかがポイントだろう。
一方で、横山弁護士とよく議論するのだが、今の日本の準則型私的整理手続は割と良く出来ていて、金融機関の理解も進んでいる。しっかりと合理的に進めれば全員同意を取れる。ただ、債権が一部譲渡されてファンドが持っているケースや、少数債権者が海外の金融機関で日本の倒産実務に慣れ親しんでいないこともある。これら債権者の反対で、商取引債権者を巻き込んだ法的整理へ移行すると企業価値は大きく毀損する。スポンサー候補者も法的整理の影響を懸念して「支援条件を引き下げます」となると目も当てられない。横山弁護士は「抜かずの宝刀」と表現しているが、そうした位置付けで交渉の後押し的な、最後の歯止めとなるような制度があると機能しやすいと思う。
ただ、「普通に多数決でいいんです」と伝わると、再生実務家の側でモラルハザードが起きる恐れがある。全員同意を目指せる案をきちんと作り、それぞれの損失が最小化するように進めるという前提をあきらめて、最初から多数決を狙いに行くと、全然違うやり方が生まれる。その意味で再生のやり方が劣化しないように努めないといけない。

※6 政府や政府機関が発行している債券の総称
※7 ホールドアウト債権者=当初に契約した通りの債務履行を求める態度を貫くことが特徴

―準則型私的整理の枠組みが拡充(※8)されており、私的整理の法制化を強く望む声ばかりではない

(横山)私的整理にしっかり取り組まれている方は、現在の枠組みの中で様々な工夫をして全行同意を取り付け成立させていることが多いのではないかと思う。腕のいい弁護士は紆余曲折はあれども、反対する債権者の要望も取り入れながら調整している。このため、業界の中には、私的整理の法制化の必要性を必ずしも強く感じていないという方もいるのかもしれない。

※8 例えば、2021年の産業競争力強化法の改正で事業再生ADRの成立を後押しする条項が規定され、2022年4月には「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の運用が始まった

―コロナ禍で膨らんだ「過剰債務」(※9)への対応を念頭に置いた政治主導の側面も感じる

(千明)債務整理の需要は間違いなく増えている。検討が始まった当時は、こうした状況が予見される中で、腕のいい弁護士がアドバイザーや金融機関を巻き込んで時間をかけて対応するだけでは、増加する需要に対して処理が間に合わないという感覚があったのだろう。
(横山)過剰債務の問題は、いわゆるコロナ関連融資に拠る部分もあるが、公租公課の積み上がりも大きい。これはどう頑張っても法律上、優先債権なので私的整理でカットするわけにはいかない。民事再生でも優先弁済が必要なので再生計画案が描けない。そうすると、(全事業を閉める)破産や事業譲渡後の破産になる。こうしたケースは今後増えるだろう。
(千明)すでにそうした状況にあるとも感じる。コロナが5類に移行して経済活動は正常化しつつあるが、ゼロゼロ(実質無利子・無担保)融資を受けた企業のうち、状態が非常に悪いところは破産に追い込まれている感覚だ。私的整理の模索も出来ず、破産以外に選択肢がない企業は、これからもっと顕在化してくるだろう。

※9 TSRが2022年12月に実施した企業アンケートによると、自社の債務の状況について、「コロナ前から過剰感がある」との回答は12.1%(4,686社中、569社)、「コロナ後に過剰感がある」は17.7%(832社)で、合計29.8%が「過剰債務」と回答した

―早期の事業再生や私的整理の成立では、金融機関の役割も大きいのではないか。地域や金融機関ごとに対応が大きく違うと聞く

(横山)それは間違いなくある。
(千明)金融機関の財務余力の問題もある。金融機関の規模によっては、債権放棄すると決算に大きく響くという場合もある。
(横山)それでも「それ(債権放棄を含む抜本再生)をやらないといけない」と話をしている。先延ばしても損失を繰り延べるだけだ。地域性でいうと、ある地域の中小企業活性化協議会に出向き、関係者の方に「この案件で抜本再生を考えている」と申し上げると、「この(金融機関の)顔ぶれで債権放棄案をまとめたら駅前に先生の銅像が立ちますよ」と言われたことがある(笑)。財務体力に関わらず、「債権放棄はノー」というところもある。
一方で、東京に拠点を置く金融機関は事業再生への理解や取り組みが相対的に進んでいる印象がある。また、信用金庫から協議会に出向や研修を受けに行き、ノウハウを持ち帰って、「トータルとして事業再生に取り組んだほうがいい」とのマインドに切り替わっている金融機関もあると聞く。

―個人保証に依拠しない融資慣行への取り組みが進む中、商取引での個人保証の取り扱いに悩んでいる企業もある

(横山)個別の契約内容次第の部分もあるし、債務者にとっての重要度や取引依存割合等にもよるだろうが、商取引の与信の担保として個人保証を付けているとすると、商取引債権者が私的整理に「ご招待」されることも場合によっては想定される。もちろん、商取引債権者であることを前提として「私的整理に付き合ってください」とのスタンスになるだろう。金融機関からすると、主要仕入先の態度が明確でないと、債権放棄の稟議は通せないこともあるだろうし、個人保証を外したことによって与信額が縮小すると、再建計画にも影響しうる。私的整理手続の中で主要仕入先の意向を確認するのか、手続外で確認したものを持ってきて下さいとなるのかは分からないが、議論の俎上にのぼることは多分に想定される。

―内々で進めている倒産や事業再生の進捗が漏れ伝わることがある

(横山)内々の債権者会議の内容がどこからか外部に漏れることは確かにある。私が過去担当した、とある私的整理では「のらりくらり」させて貰ったが、ずっとTSRに追われていた(苦笑)。
(千明)信用不安の記事が出ると、輪をかけて不安に思う人もいるので、むしろ「(資金手当てや再建に向けて)こうした取り組みをきちんと進めています」と正面からアナウンスするのはマイナスではない。「こんなに状態が悪いのに手をこまねいてズルズルやっているんですか?」と思われるより、「事業再生ADRを申請しました」と公表することが場合によってはプラスに働く。上場会社だと(ADR申請を)プレスリリースするケースもある。債務の支払いに窮した企業と映ることもあるが、分かる人が見れば「きちんと手当されている」となる。そうしたことを理解して貰えるように、丁寧に情報発信するメディアは重要だ。

外部とのコミュニケーションについても聞いた

―最近は信用不安のある企業や倒産企業への取材で、大手行のプレDIPやDIPファイナンス(※10)が出ることを「しっかり伝えて欲しい」と会社側から依頼されることもある

(横山)事業再生に定評のある金融機関が、プレDIPやDIPファイナンスを通じて案件に絡んでいると示すことは、関係する再生実務家や与信関係者に安心感を与えると認知されているのだろう。「分かる人が見れば」とは、そういうことだ。速報記事にポジティブな情報を一緒に出したいというニーズは、債務者サイドには大いにあるだろう。

※10 事業再生ファイナンスの一種。私的整理手続中を「プレDIP」、法的整理手続を申請後、計画認可決定確定までを「アーリーDIP」、計画認可決定確定後から計画完了までの「レイターDIP」と呼ぶこともある

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年8月10日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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