日大アメフト不祥事記者会見の評価

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・林理事長は自身のネガティブなイメージを立て直すことが出来なかった。

・大学も、隠蔽疑惑などを払拭することは出来なかった。

・「目的の明確化」、「分からないことは言わない」などの鉄則を守っていなかった。

日大アメフト部違法薬物事件の記者会見が8月8日に行われた。筆者も中継で見ていたが、危機管理の観点からいくつか感じたことがある。

まず、不祥事の記者会見というものには鉄則がある。1つ目は、何のために会見を開くか、その「目的を明確にしておくこと」だ。

2つ目は、出席者の間で「平仄を合わせておく」ことだ。人によって違う事を言うと、記者の追求を招き、会見が泥沼化する。

3つ目は、「分からない(不確かな)ことは言わない」、ということだ。その時点で明確でないことを憶測で言ってはならない。事実関係で齟齬が生じ、後から嘘をついたことになることは避けねばならない。

1つ目の「目的の明確化」だが、今回の会見は、林真理子理事長と大学側とそれぞれに目的があったと思う。

林理事長は、本不祥事に関して「『蚊帳の外』でたんなる『お飾り』にすぎない」、との批判を払拭することが目的だった。大学としては、「不祥事を隠蔽しようとしたとの批判をかわすこと」が目的だった。

結論からいえば、林理事長はこの目的を完遂できなかった。「お飾りとの批判は大変残念」などと繰り返したが、世間が聞きたいのは、「お飾りという批判は当たらない、その理由」であった。本件に関し、自分はどう行動し、どのような結果を導き出したかを語らないことには、お飾り批判は払拭できないのは明白だ。それどころか、大学側の判断は正しかった、と言い切った時点で、大学擁護の立場を鮮明にしてしまった。大学と一体となったことで、自身のネガティブなイメージを立て直す機会を失ったと言えよう。

大学はどうか?検事出身の澤田康広副学長に任せっきりで、酒井健夫学長の出番がほとんどなかったのはともかく、澤田氏はとにかく良くしゃべった。大学の対応は正当であり、隠蔽などはなかったという主張を繰り返した。しかし、その目的は達成されなかった。

澤田氏は警察関係者に相談したというエピソードを披露したが、後に警視庁幹部に「日大出身の警察官への個人的なもので、立証困難との見解は伝えていない」と事実関係を否定されてしまった。それ以外にも、大麻と思われるものを吸った一人の部員から申告があった、としたものが、後に複数の部員が関与していたとの疑惑が浮上した。会見で話した内容が不確かなものであり、後で事実関係が否定されることは最悪で、不祥事会見では絶対避けねばならないことである。一連のこうした不備をみると、会見の目的がちゃんと話し合われていたのか、疑問に思う。

2つ目の「平仄を合わせる」だが、これは林理事長が副学長の発言を全て肯定していたことから、出来てはいた。しかし、それは林理事長が大学側の説明を鵜呑みにしていた、ということにほかならず、こちらも評価できるのではなかった。

3つ目の「分からないことはいわない」だが、述べてきたように、会見で話したことは実は不確かだったことが明らかになった。会見前に、その説明で破綻がないか、後日、話した内容がひっくり返るようなことはないか、チェックを十分にしたのか、疑問に思う。

通常、不祥事会見では、想定質問に対し回答案を作成する。複数の危機管理専門家がチェックし、その回答で会見を乗りきることが出来るかどうか議論し最終回答案を策定する。その時点で、不確定要素が多い点は「聞かれても回答しない」との決断を下すこともある。その上で、誰が回答するかを決めるのだ。

今回の会見はそうしたプロセスをちゃんと踏んでいなかったのではないだろうか。複数の専門家の目が入っていれば、あのような会見にはならなかったと思う。

最後にもう一つ。女性司会者(広報課長との話だが)の、「新商品発表会のような進行ぶり」は、不祥事会見にはふさわしいものではなかったことを申し添える。

トップ写真:記者会見に臨むテレビクルー(イメージ。記事とは関係ありません)出典:mnbb/GettyImages

© 株式会社安倍宏行