エステ店で脱毛施術後「やけど」被害多発も…医師が「ある意味“必然”」と指摘するワケ

背中一面にやけどの痕が残ったケースもあるという(画:Minami)※イメージ

近年、男女問わず脱毛する人が増え“空前の脱毛ブーム”とも言える状況だが、一方でトラブルも多発している。

今年6月には、大阪のエステ店で客に全治2週間程度のやけどを負わせた経営者の女とアルバイトの女が、医師法違反と業務上過失致傷の疑いで書類送検された。脱毛には医師免許のいらない「美容脱毛(エステ脱毛)」と医師免許の必要な「医療脱毛」があるが、女らは医師免許を持たないにもかかわらず、医療行為に匹敵する脱毛行為をしていたという。

医療脱毛とエステ脱毛の違い

医療脱毛の場合、レーザー光線などを毛根部分に照射し、毛乳頭や皮脂腺開口部等を破壊することで半永久的に毛が生えてこないようにする。高い効果は得られるものの、肌にかかる負担は大きいとされている。

一方、エステ脱毛の場合は毛乳頭や皮脂腺開口部等を破壊しない範囲で施術することから、肌への負担は少ないものの、医療脱毛に比べて効果は薄いという。

国民生活センター「くらしの危機 Number338 脱毛施術による危害」より

両者の線引きは、厚労省が2001年に通知した「医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて」(※)に基づいている。

※ 医師免許を有しない者が「用いる機器が医療用であるか否かを問わず、レーザー光線又はその他の強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射し、毛乳頭、皮脂腺開口部等を破壊する行為」を業として行えば、医師法第17条に違反するとしている。ただし同通知で「医療行為である」と示された①脱毛 ②入れ墨 ③シミやシワの表皮剥離 に関する見解のうち、②入れ墨 については2020年に最高裁で「医療行為ではない」と厚労省通知を否定する判断がなされており、①脱毛 ③シミやシワの表皮剥離 に関する見解については、現段階で司法の判断が下されているわけではない。

以下は国民生活センターに寄せられた、2016年度から2022年度の「脱毛後の身体的トラブル」に関する相談件数を示したグラフだ。エステ脱毛は肌への負担が少なく、医療脱毛は医師が施術しているにもかかわらず、両者とも毎年度トラブルが一定数発生していることが分かる。

国民生活センターへの取材をもとに弁護士JP編集部が作成

脱毛やけど「ある意味“必然”」

エステ店や医療機関で「理想通りの脱毛ができた」というケースはもちろん数多くあるはずだが、なぜトラブルは多発するのだろうか。美容医療に詳しい細川亙医師(大阪みなと中央病院院長/同病院美容医療センター長)は、以下のように指摘する。

「まずエステ脱毛については、2001年の厚労省通知をしっかり守っていれば、やけどは起こらないはずです。厚労省の通知は『毛根にやけどを起こして半永久的に生えてこなくする』という施術を、医師免許がない人はやってはいけないというもの。

よって、エステ脱毛でやけどが起こる原理になっていたらおかしいのですが、しっかり脱毛しようと、厚労省の通知を守らずに強い光を照射すれば、そこそこの頻度でやけどが起こるのは、ある意味“必然”だと言えます」(細川医師)

一方、医療脱毛についても「医者免許を持っているから安全かと言えば、まったくそんなことはない」と断言する。

「先に述べたように、医療脱毛は『毛根にやけどを起こす』という原理です。皮膚の表面に冷気をかけながら照射するなど、やけどが起こらないような対策をしたとしても、起こるときは起こるというのが前提になります。

また毛根に到達する光のエネルギーは、施術を受ける人の肌のトーンや部屋の温度など、さまざまな要素に左右されます。厚労省の通知は、単に医師免許を持っている人たちの権益を守っているだけであって、脱毛施術そのものは『医師免許があるから安全』というよりは、『いかに施術経験があるか』がものを言うと思います」(細川医師)

脱毛やけどのリスクを下げるには?

7月19日には、メンズ脱毛クリニックの契約をめぐるトラブルの集団訴訟が話題となったが、脱毛によるやけど被害でも集団提訴は起こり得るのだろうか。

「普通はやけどが起きたら再発しないように対策すると思いますので、契約トラブルとは違い、集団訴訟が起こる状況は考えづらいように思います」(細川医師)

前述の国民生活センターへの相談件数が、ここ数年で大きく変動していないのも、「やけどは一定数起こり得る」「やけどが起きれば再発防止対策をする」という背景があるからかもしれない。

細川医師は、脱毛によるやけどのリスクを下げる方法として「照射を非常に弱いレベルから始めて少しずつ出力を上げていくというやり方は、予防策として使えるかもしれませんが、どうしても1回の効果は薄れてしまいます。効果を求めるのか、安全を求めるのか、二者択一です」と言う。

インターネットには「医療脱毛 美容脱毛 どっちがいい」といったキーワードがあふれているが、いずれにも「100%の安全」はないことを知った上で、施術を受けるべきであろう。

© 弁護士JP株式会社