90年代のR&B名盤!ジャネット・ジャクソンとジャム&ルイスの “ヒップホップ・ソウル”  リリース30周年、ジャネット5枚目のアルバム「janet.」

ワールドツアーや新アルバムへの意気込みはいまだ衰えていないジャネット・ジャクソン

2023年5月、57歳になったジャネット・ジャクソンは、まだまだ現役シンガーとしてのスタンスを崩していない。ここ数年は新しい動きが聞こえてきては消え… となっているものの、ワールドツアーや新アルバムへの意気込みはいまだ衰えていないようだ。

大衆音楽史上、20世紀中に出現した女性シンガーの中では、マドンナ、マライア・キャリー、ホイットニー・ヒューストンらと並ぶポップディーヴァとして、実績、人気ではトップの座に君臨しようかというジャネット・ジャクソン。兄マイケルの存在を鑑みれば、このジャクソン兄妹は世界一有名な兄妹なのかもしれない。

リリース30周年、ジャネット5枚目のアルバム「janet.」

今年2023年はジャネット5枚目のアルバム『janet.』(1993年)のリリースから、ちょうど30周年となる。ジャネットのアルバムは、プロデューサーチーム、ジミー・ジャム&テリー・ルイス(ジャム&ルイス)にとっても出世作となった『コントロール』(1986年)、全米ナンバーワンを連発して日本でも “ジャネ子” 現象を巻き起こした『リズム・ネイション1814』(1989年)、さらには挑戦的にハウス・ヒップホップを採り入れた『ヴェルヴェット・ロープ』(1997年)あたりが印象に残っている人が多いかもしれない。

しかし実はワールドワイドで1400万超のセールスを記録してジャネット史上最も売れたアルバムだったのが、このちょうど30年前の『janet.』だったのだ。おそらくジャネットのアルバムの中では、コアファンから一般層たるグレーゾーンへと最も訴求したのが、この『janet.』なのである。

『コントロール』で大衆音楽シーンへの鮮烈な第一線登場を実現、『リズム・ネイション』はトップディーヴァたる立ち位置を盤石にした作品だった。『コントロール』から二人三脚を果たしているジャム&ルイスがトッププロデューサー / トップヒットメイカーの位置に君臨している時期にリリースされたというのが、実はこのアルバムが最大セールスをあげた最も大きな要因だったのかもしれない。

ジャム&ルイスはジャネットの2枚のアルバム『コントロール』『リズム・ネイション』からの数々のメガヒットによって、1990年代に入るころにはプロデュース依頼が殺到、ジャネット以外の多くのアーティストによるヒットを量産することになる。

一説によるとこの時期にプロデュース依頼すると少なくとも1年待ちとか、1曲のプロデュース料がおよそ1,000万円とか、まことしやかに囁かれたものだが…。

ジャム&ルイスはこれら外部プロデュースを粛々とこなしていた。特に1980年代終盤から1990年代前半期の彼らのプロデュース作品は驚くほど多量で、しかもそれらはことごとくがナショナルヒットを記録するという、まさしく神懸かりな時期だったと言っていいだろう。ジャム&ルイスが最も神懸かりだった時期にリリースされたジャネット・ジャクソンのアルバム、それが『janet.』だった。

ジャム&ルイス・ワークの集大成的な作品

アバンギャルドな革新性と普遍的ポップのバランスが絶妙なデジファンク集『コントロール』、世を席巻するニュー・ジャック・スウィング・ブームを傍目で見ながら新たなダンスミュージックの意匠を巧みに採り入れた『リズム・ネイション』を経て、『janet.』はいわばジャム&ルイス・ワークの集大成的な作品を目指していたようだ。だからといって当作が、新進のコンテンポラリー感を備えていなかったのかといえば、それはまったくそんなことはなくむしろ真逆だった。それは93年の時点で最もトレンディだった “ヒップホップソウル” の意匠を纏っていたことで、如実に物語っているのではないだろうか。

アン・ヴォーグの出現(1990年)を萌芽にして、メアリー・J.ブライジの登場(1992年)で決定的となった “ヒップホップR&B” のムーヴメント。この90年代の10年間に常にR&Bシーンのメインストリームにあったムーヴメントは、1993年に入るころには特に女性R&Bアーティストのほとんどがアプローチするような一大現象となったものだ。ネタ感(サンプリング)のある、ゴージャスでキラキラしたヒップホップトラックにソウルな歌唱が乗るという、まあ簡単に言えばそういうものだが、これは掛け値なしに1990年代最大のムーヴメントになっていた。

ジャネット史上最大のヒットソングとなった「それが愛というものだから」

アルバムからの先行シングルにしてジャネット史上最大のヒットソングとなった「それが愛というものだから(That’s The Way Love Goes)」(93年8週1位!)1曲だけでも、ジャム&ルイスの鼻息がいかに荒かったのかが窺い知れる。

ジェイムス・ブラウン「パパ・ドント・テイク・ノー・メス」及びハニー・ドリッパーズ「インピーチ・ザ・プレジデント」という、超がつく定番のブレイクビーツをさりげなくサンプリング、スモーキーかつゴージャスなどこまでもアーバンヒップホップトラックに仕上がっており、これはもう93年の時点で考えうる最も理想的 “ヒップホップ・ソウル” の呈示といっていいものだった。すでに新人とは呼べない中堅アーティストが “ヒップホップ・ソウル” に参戦するにあたって、最も理想的なトラックをジャム&ルイスがジャネットにあてがったのだ。

ジャム&ルイスにとってもサンプリングを前面に押し出したほぼ初めての作品だったが、こんなことはさらりと高次元レベルでできるということを、まるで誇示するかのように感じたものだ。そしてこの曲は当然のように全世界でメガヒットを記録した。

インタルードを多用してCD可能時間ギリギリまで収録した、その後のR&Bアルバムのトレンドまでをも鑑みれば、ジャネット・ジャクソン『janet.』は、1993年のコンテンポラリー感を実に十二分に充満させた作品だったし、世界で最も売れたアルバムというのも妙に納得してしまう。本作からは「それが愛というものだから」に加え、「イフ」、「アゲイン」、「ビコーズ・オブ・ラヴ」、「どんなときも、どこにいても(Any Time, Any Place)」等のヒットが生まれている。

カタリベ: KARL南澤

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