警察の「誤認逮捕」長期勾留で“休職”の理不尽…会社への経緯報告は? 「給与」は補償される?

“誤認逮捕”中の給与はどうなる?(EKAKI / PIXTA)

大阪府警は7月10日、SNS上で知人女性を脅したなどとして逮捕した20代の男性について、誤認逮捕だったことを発表した。

報道によると、4月12日、Instagram(インスタグラム)上で知人の20代女性に対し危害を加えるメッセージを送ったなどとして、脅迫や強要未遂の疑いで大阪府警が男性を逮捕した。5月2日には、女性のわいせつ画像をインスタグラムで女性の友人らに送ったとするリベンジポルノ防止法違反の疑いで再逮捕。男性はいずれの容疑も一貫して否認していた。

メッセージや画像は何者かが男性になりすまして送ったとみられ、逮捕時に送信者のIPアドレスの照会は済んでいなかったものの、被害女性が男性から送信されたものだと訴えたことや、女性を守る緊急性を重視したことが逮捕の決め手となったという。男性は5月23日に処分保留で釈放されるまで、42日間身体拘束された。

取り調べを行った警察官からは「犯人はあなたしかいない」、大阪地検の検察官からは「100%犯人だと思っている」などと言われていたというが、釈放後の捜査によって男性のアリバイが明らかになり、7月10日、府警が誤りを認め男性に謝罪、事態を公表した。

逮捕後から会社を休職せざるを得なくなった男性は、警察に対し取り調べを担当した署員による直接の謝罪と「家族や会社への説明」を求めているという。

誤認逮捕「家族や会社への説明」警察に義務はない?

今回のケースのように、たとえ逮捕が誤りであった場合でも「家族や会社への説明」は、自分で行わなければならないのだろうか。また、逮捕されたことで“クビ”になってしまった場合、疑いが晴れれば復職できるのか。さらに、休職を余儀なくされた日数分の給与は、補償されるのか。

これらの疑問について、誤認逮捕が起きた大阪で、刑事事件と労働問題の対応に注力する永濱佑一弁護士に聞いた。

──不当に逮捕されていた男性は、警察に家族・会社への説明を求めています。通常、警察は逮捕が誤りであっても本人の家族や会社に対して説明する義務を負わないのでしょうか?

永濱弁護士:法的な意味での説明義務はありません。警察に「私の誤認逮捕について、経緯を説明してください」と言っても断られる可能性が高く、断られたとしても、法的にそれを請求することはできません。家族や会社には、「自分は事件とは関係ないんだ」と自分で弁明しないといけないですね。

逮捕されたら“即クビ”ではない

──そもそも逮捕されてしまった時、会社に対する報告は誰がするのですか?

永濱弁護士:私生活上のことで逮捕された場合、逮捕されたことを会社に伝える義務はありません。もっとも、何も言わずに無断欠勤するわけにもいきません。会社に逮捕されたことを伝えるかというのは非常に難しい問題で、場合によっては、逮捕のことは言わず、家族から会社に連絡してもらうなどして、休職か有給休暇を使い、休みを取るケースもあります。

──正直に「逮捕されてしまって出社できない」と伝えたら、すぐに解雇されてしまうというようなことが起こり得るのでしょうか。

永濱弁護士:事実上は考えられると思いますが、解雇が無効になる可能性があります。今回のケースのように誤認逮捕の可能性もあり得ますので、逮捕を伝えられた会社は、本人に会うことができる場合は会って、または弁護人から事実確認を行うべきだと思います。本人が犯罪の事実を認めていれば、刑事処分の内容を踏まえて会社での処分を判断するということになると思います。犯罪をしたから当然解雇できるというわけではなくて、それが会社にどういった影響を与えるのか等を評価して解雇できるかどうかが決まります。逮捕されて罪を認めていたらすぐに解雇できる、というわけではないですね。

──万一逮捕によって解雇されてしまったものの誤認逮捕がわかった場合には、復職はできるのでしょうか。

永濱弁護士:解雇は無効になり復職できる可能性が高いと思います。ただ現実問題として、一度解雇された会社には本人としても戻りたくない、戻っても働きづらいという場合もあり、復職が可能かというとまた別の課題はあると思います。

休職を余儀なくされた場合の「給与の補償」は?

──今回誤認逮捕されていた男性は休職を余儀なくされたそうですが、誤認逮捕だったことがわかっても、その間の給与の補償はなされないのでしょうか。

永濱弁護士:休職の制度が会社によって違うので、その会社の制度内容によると思いますが、基本的には休職中は無給としている会社がほとんどです。休職している理由も、会社に責任があって休職している訳ではありませんので、そういう意味でも、会社が給与を補償することはないと思います。

──では「誤認逮捕されなければ働いていた期間」の給与は、逮捕した警察に損害賠償を請求していくことになるんでしょうか。

永濱弁護士:そうですね。国家賠償請求という形で請求することになると思います。あとは、「被疑者補償規程」というものがあります。勾留されていた人が「罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由」がある場合に限っては、補償金が支払われます。具体的には1日あたり1000円以上1万2500円以下の割合による額の補償金です。

──今回のように誤認逮捕された人は補償されるのでしょうか。

永濱弁護士:「罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由」は実はハードルが高いです。「起訴されなければもらえる」訳ではなく、起訴されなくて、かつ、その人が罪を犯してないという明確な証拠などがないといけません。今回に関しては、釈放後に男性のアリバイがわかり、警察も誤認逮捕を認め謝罪をしているということなので補償される可能性はあると思います。

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