2023年3月期決算 金融再生法開示債権比率は1.27%、貸倒引当金積み増し48行に減少

~ 国内106銀行「金融再生法開示債権」の状況調査 ~

国内106銀行の2023年3月期(単独)の「金融再生法開示債権(以下、開示債権)」は8兆6, 220億円(前年比0.5%減)と、5年ぶりに減少した。「開示債権比率」(債権合計に対する開示債権の割合)は1.27%(前年1.36%)で、0.09ポイントダウンした。
倒産や債務整理などによる債権回収不能に備えた「貸倒引当金」は4兆714億円(前年比6.0%減)で、5年ぶりに前年を下回った。

106行のうち、開示債権が前年を上回ったのは大手行3行(前年6行)、地方銀行41行(同36行)、第二地銀27行(同26行)の合計71行(同68行)で、地方銀行の増加が目立った。
貸倒引当金の積み増しは、大手行ゼロ(同6行)、地方銀行25行(同40行)、第二地銀23行(同25行)の合計48行(同71行)で、全業態で前年を下回った。
ただ、貸倒引当金は大手行が2兆697億円(前年比9.4%減)、地方銀行が1兆6,298億円(同2.9%減)、第二地銀が3,717億円(同1.0%増)と、大手企業や地場優良企業が多い大手行・地方銀行と、中小・零細企業に取引先が多い第二地銀とで対応に違いが生じている。
コロナ禍の資金繰り支援策で抑制された企業倒産は、2022年4月から16カ月連続で前年同月を上回り、増勢を強めている。実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の利子補給も終了し、返済はピークを迎えている。そこに合わせるように、円安やウクライナ情勢などで原材料や資材価格の高騰、人件費上昇などが加わり、「開示債権」や「貸倒引当金」の推移が注目される。

※本調査は、国内106銀行の2023年3月期決算(単独)で、「金融再生法開示債権」(破産更生債権及びこれらに準ずる債権、危険債権、要管理債権)、および各銀行の「貸倒引当金」を集計し、分析した。
※銀行法の改正により2022年3月期から貸出金のほか、外国為替、未収利息、仮払金、支払承諾見返などを対象に、リスク管理債権が金融再生法開示債権に一本化された。
※1.大手行は埼玉りそなを含む7行、2.地方銀行は全国地銀協加盟行62行、3.第二地銀は第二地銀協加盟行37行。


開示債権 前年比0.5%減、5年ぶり減少

106行の2023年3月期の「開示債権」は合計8兆6,220億円(前年比0.5%減)で、2018年同期以来、5年ぶりに前年を下回った。
「開示債権比率」は1.27%(前年1.36%)だった。2021年3月期1.27%、2022年同期1.36%と、コロナ禍による市場縮小で企業業績が悪化し、開示債権比率は上昇していた。しかし、経済活動が本格的に再開した2023年同期は3年ぶりに低下に転じた。
開示債権比率の最大は、スルガ銀行の10.48%(前年12.63%)で、唯一、10%を超えた。
次いで、南日本銀行5.21%(同5.29%)、豊和銀行4.85%(同4.49%)、きらやか銀行4.21%(同2.44%)、東日本銀行4.10%(同4.60%)と続く。上位10行では、地方銀行が1行(同3行)、第二地銀が9行(同7行)と、圧倒的に第二地銀が多い。
最低は、SBI新生銀行の0.28%(同0.66%)で、1%未満は7行(同7行)だった。

業態別 開示債権は大手行だけ減少

業態別の「開示債権」は、地方銀行が4兆3,419億円(前年比0.9%増、前年4兆3,022億円)、第二地銀が1兆1,612 億円(同6.8%増、同1兆868億円)で、それぞれ前年を上回った。一方、大手行は3兆1,187億円(同4.8%減、同3兆2,788億円)で、唯一、前年から減少した。
地方銀行や第二地銀の貸出先は、地元の中小・零細企業が多い。コロナ禍から業績回復が遅れ、過剰債務を抱えて先行きの資金繰りが懸念される先も少なくなく、貸出金を伸ばしたが開示債権額も増加した。一方、大手行の貸出先は大手有力企業が中心で、経済活動の再開や円安を追い風に業績は好調に推移した。また、設備投資の資金需要もあり、貸出金が伸びる一方で開示債権は前年を下回った。
「開示債権」が前年を上回ったのは、大手行が3行(前年6行)、地方銀行が41行(同36行)、第二地銀が27行(同26行)の合計71行(同68行)だった。
「開示債権比率(金融再生法開示債権/債権合計)」は、大手行が0.85%(前年0.96%)、地方銀行が1.71%(同1.77%)と前年を下回った。一方、第二地銀は2.09%(同2.04%)と、前年を上回り、融資先の規模で格差が生じた。

貸倒引当金 増加48行で、3月期では5年ぶりに減少行数を下回る

2023年3月期の「貸倒引当金」合計は4兆714億円(前年4兆3,341億円)だった。3月期では2018年同期(前年比15.1%減)以来、5年ぶりに前年を下回った。
業態別では、大手行が2兆697億円(同9.4%減)、地方銀行が1兆6,298億円(同2.9%減)に対して、第二地銀が3,717億円(同1.0%増)だった。大手・地場優良企業と取引が多い大手行や地方銀行と第二地銀とで、対照的な状況となった。
また、2023年3月期で貸倒引当金を積み増した銀行は大手行ゼロ(前年6行)、地方銀行25行(同40行)、第二地銀23行(同25行)の48行(構成比45.2%)。前年の71行から23行減少し、5年ぶりに増加行が減少行を下回った。
2020年に入り日本国内だけでなく、世界的に新型コロナウイルスの感染拡大で、経済活動が大きく停滞した。3月以降は、政府や自治体などから「実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)」などの各種資金繰り支援策が打ち出され、7月から企業倒産は前年同月を下回るなど歴史的な低水準を辿ることとなった。
一方で、2019年12月に「金融検査マニュアル」が廃止され、将来の情報を引当金に反映(フォワード・ルッキング)し、体力に応じて保守的・予防的に貸倒引当金の積み増しが可能になった。そのため、銀行は個別引当ではなく、インバウンド需要の消失の影響を大きく受けた飲食業や宿泊業、観光関連業など、業種や地域などによる一般引当により貸倒引当金を積み増して、2021年3月期には増加行が最高の87行に達した。しかし、アフターコロナに向けて経済活動が再開すると、銀行は保守的に積み増した貸倒引当金の繰り戻しに動き出した。
企業倒産は、2022年4月から2023年7月まで16カ月連続で前年同月を上回るなど増勢が続く。さらに、ゼロゼロ融資の返済も本格化し、貸倒引当金の推移も注目される。


国内106銀行の2023年3月期で、貸倒引当金の積み上げは48行(前年71行)と大幅に減少した。2019年12月に「金融検査マニュアル」が廃止され、フォワード・ルッキングにより業種や地域などを一括対象にして、独自基準で予防的に貸倒引当金を積み増す銀行もある。しかし、コロナ禍から経済活動が動き出したが、貸倒引当金を戻した銀行も多く、3月期では2018年同期以来、5年ぶりに「減少行」が「増加行」を上回った。
コロナ禍で倒産を抑制した資金繰り支援策は、2022年に入り次第に効果が薄まり、実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の利子補給も終了し、返済がピークを迎える。さらに、円安やロシアのウクライナ侵攻に伴う原材料や資材などの価格高騰、人手不足など、コストアップが経営の大きな課題に浮上している。
様々な要因が重なり合い、企業倒産は2022年4月から16カ月連続で前年同月を上回っている。業績回復が遅れた中小企業への支援策が減る中で、事業再生や経営再建にどのような取り組み支援をできるか、銀行の存在意義が問われている。

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