<社説>最低賃金の改定 生活の安定にはほど遠い

 ことし秋から適用される県内の最低賃金について、沖縄地方最低賃金審議会は現行の853円を43円引き上げ、896円とする答申を出した。43円の引き上げは過去最大だ。しかし、東京など首都圏との格差はなお大きい。中小・零細規模の多い県内企業の間で支払いに懸念が広がっている。政府は最低賃金の地域間格差の是正に合わせ、中小企業などの支援にしっかりと取り組むべきだ。 厚生労働省の中央最低賃金審議会は地方審議会の答申に先立って、ことしの目安額を全国の労働者1人当たり平均(全国加重平均)で1002円とした。

 全国平均千円は自民党政権が掲げてきた目標である。ただ、仮に時給千円で、常勤で働いても年収は約200万円程度にとどまり、安定的な生活にはほど遠い。沖縄は過去最大の上げ幅ではあるが、千円台とはかけ離れている。

 今回の中央審議会の目安額区分は従来のA―Dの4区分をA―Cの3区分に変更した。地域間格差を是正する狙いがあった。実態はどうか。

 共同通信のまとめでは15日時点で44都道府県で改定額が決まっている。沖縄と同じCランクでは、鳥取が46円引き上げて900円になった。同ランクでは熊本、大分などが45円の引き上げ、宮崎、鹿児島などが44円の引き上げだった。43円増の沖縄が突出しているわけではない。

 一方で千円超は、これまでの東京、神奈川、大阪の3都府県に、埼玉、千葉、愛知、京都、兵庫の5府県が加わり、8都府県に増えた。最高額である東京の1113円と沖縄の896円には217円の開きがある。区分の見直しがどのように影響したのか、十分に検証する必要がある。

 物価の上昇もあって、現在の最低賃金のレベルでは、困窮世帯の家計は苦しさを増す一方だ。物価変動分を反映した6月の実質賃金は、前年同月と比べ1.6%減で、15カ月連続のマイナスである。食品価格の高騰などにあえぎ、切り詰めた生活を強いられる家庭がある。

 企業にとっても人材を確保する上で、賃金の引き上げは重要な選択肢だろう。ただ、その支払い能力が課題だ。政府は、最低賃金を引き上げた企業への支援策の拡充など、生産性の向上に向けた政策を手厚く講じるべきだ。

 2016年度から政府が掲げた加重平均千円の達成で、新たな目標額についての議論も始まる。物価指数を勘案して目安額が示されているが、給与の伸びが実感できない状況は改善する必要がある。現行の目安制度の在り方を含め、検証してもらいたい。日本の最低賃金は海外の先進国に比べても低い水準にあり、労働者側には一律1500円の実現を求める声もある。

 最低賃金が適用されないフリーランスの方々にセーフティーネットをどのように広げるかも課題だ。

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