「ロレックス」が店頭から消えた!? 腕時計界に起きたアフターコロナの“異常事態”とは

ショールームに並ぶ人気モデル「サブマリーナ」(撮影:榎園哲哉)

時を知る実用性とアクセサリーの二つの要素を併せ持つ腕時計。サラリーマンの平均月収をはるかに超える価格の海外高級ブランドは“高根の花”とも言える。その代表格でスイスのブランド「ロレックス」が今、店頭で買えない状況が続いている。そこには新型コロナウイルス感染症の影響や、転売を目的とした購入の背景があるようだ。

正規価格のおよそ3倍での販売も

文字盤に光るクラウンが誇りを伝える至高のブランド、類まれなる芸術性と高い品質で世界のVIPも用いるロレックスは日本でも人気が高く、元大リーガーのイチローさんやタレントの草彅剛さん(元SMAP)らが愛用していることで知られる。

高級腕時計マーケットプレス「Chrono24(クロノ24)」(本社・ドイツ)が3月に発表したプレスリリースによると、各コレクターが保有する高級腕時計ブランドの中に占めるロレックスの所有率で日本は1位イタリア(47.6%)、2位イギリス(40.1%)に次ぐ3位(39.2%)につけている。

しかし昨今、首都圏、関西を中心に全国に56店舗ある日本ロレックスの正規店で商品の在庫がなく、「欲しい1本が買えない」という事態が起きている。価格も異常に高騰したものが、腕時計専門店やWEB上で販売されているのだ。

正規店で売られている販売価格は、たとえば人気モデル「サブマリーナ・デイト」のベゼルがグリーン(ロレックスのブランドカラー)のタイプのものは128万4800円。これが通信販売大手では353万8000円で売られている。

買いたくても買えない状況、そして価格が異常に高騰している背景について、『ロレックスが買えない』(CCCメディアハウス)の著書もある腕時計ジャーナリストで桐蔭横浜大学教授の並木浩一氏は、新型コロナウイルス・パンデミックの影響を指摘する。

コロナ禍の下、ギルド(中・近世西欧の職業別組合)の歴史をくむ生産体制を取るスイスでは、ロレックスに限らずそのほかのブランドもほぼ全て一時的に工場を閉め、従業員は自宅待機し、生産数が激減した。当時の生産本数について並木氏は、「(スイスの)業界全体で半分ぐらいだったのでは」と推測する。

酷暑の下、購入期待し10店舗を回る

そこに投機の対象とした転売目的の購入も増え、品薄の状態に拍車がかかっている。

一般的に正規店で時計の予約や取り置きなどはできない。予測できない不定期に入荷する1本を得ようと、各店舗に巡回するように足を運ぶことがファンの間では「ロレックスマラソン」と呼ばれており、筆者も7月、このマラソンに挑んだ。

東京都内のロレックス正規店10店の“走破”を目指し、その最初の店舗。午前10時の開店と同時に、店頭に進んだがすでに行列ができている。

行列ができる東京・銀座の高級腕時計店(撮影:榎園哲哉)

ほかの店舗では、欲しい人気モデルの名前を伝えると、店員が「在庫を確認してきます」と言って店の奥へ。「買えるのか?!」と一瞬期待に胸がふくらんだが、1分ほどして戻ってきた店員の「在庫はございません。入荷の予定も未定です」の言葉に落胆。対応マニュアルがあるのか、ほぼ全ての店舗でこのやり取りを繰り返す。

店舗によっては、店の外に10人ほどの行列ができているところも。ただ、失礼ながらどう見ても自分ではロレックスを着けないだろうと思われるTシャツにスニーカーの青年らもいて、転売目的の購入ではないかと感じる。

「2~3年前からこうした状況になっています。転売を目的としている方もいるのでは。自分で着けることが目的のお客さまばかりでしたら、これだけの行列はできないかと思います」とある店舗の店員。

酷暑の下、電車を乗り継ぎ2日間“マラソン”に挑んだが、結局購入はできなかった。

転売目的の取得に違法性はない

腕時計の転売。それ自体は問題ではないだろう。筆者も以前、ロレックスとは額が一桁以上違う国産の時計を、事情から質屋に売ったことがあった。それでは、転売を目的に購入することに何らかの問題はないのだろうか。

虎ノ門スクウェア法律事務所の中村傑弁護士は、「転売目的での取得に違法性はありません。購入し保有し続けることは義務付けられておらず、売却するのは所有者の自由だからです」と語る。ただし、買い取り・販売を目的とするのであれば「中古品を買い取って転売する場合は、古物商許可を取得しなければいけません」(中村弁護士)。

転売目的の購入者が増えると自ら身に着けたい人の手に渡りづらくなるということも起こる。

前出の並木氏は「最初の1本を買ってもらい、腕時計好き、ファンになってもらい、2本目を買ってもらう。友達や親戚に勧め、子どものために買ってもらう。時計店と購入する人の関係はそういうサイクルでこれまで回ってきました。(昨今は)最初の1本が買えないため時計店との関係が作られない、という状況が続いています」と語る。

こうした状況を正規店はどう見ているのか。マラソンで回った全ての店舗が入り口に「転売を目的とした購入と判断した場合、退店していただきます」と書いた張り紙をしており、それを否定していることは明らかだ。

人気のスポーツモデルなど一部の対象モデルを購入する時は、顔写真付き身分証の提示が必要。また、購入制限も設けており、対象モデルを購入した場合、1年または5年、同一モデル等の再購入ができない。

すぐ手に入れたければほかのブランドを

買いたくても買えない状況の中、並木氏は一つの提案をする。それは決して引けを取らない他のブランドも選択肢に入れること。

「ロレックスはいつか手に入る時に買えばいい。定価で買えるいい時計がたくさんあり、早く手に入れたいのであれば、そうした時計も考えてみてもいいでしょう」と語り、「パテック フィリップ」、「オーデマ ピゲ」、「ヴァシュロン・コンスタンタン」、さらに国産の「グランドセイコー」などを勧める。

ロレックスに代わる逸品を見つけ、腕に巻く。それもアフターコロナのもう一つの選択かもしれない。

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