長崎・南島原「暑すぎる夏」 基幹産業 悲喜こもごも フェーン現象も影響

牛舎では夏バテ対策として大型の扇風機を24時間全開で稼働させている=南島原市、髙田牧場

 7月から続く記録的な猛暑が長崎県島原半島、特に南島原市のさまざまな産業に影響を及ぼしている。特産の島原手延べそうめんの売れ行きが好調な一方、外出控えで思わぬ苦戦を強いられる観光スポットや、暑さに弱い牛の夏バテ対策に追われる畜産農家。「暑すぎる夏」は当面続くと予想され、関係者は天候の行方に気をもんでいる。
 南島原市(口之津)は7月29日、最高気温が35度以上の猛暑日が月内6回目となり、7月の最多記録を更新。8月4日には38.2度と県内で過去4番目の暑さになった。
 島原半島はなだらかな丘陵地帯が多い。長崎地方気象台によると、気流が普賢岳(標高1359メートル)と平成新山(同1482メートル)の斜面に当たった後に風が山を越え、暖かく乾いた下降気流となって南島原、島原両市で気温が上がるフェーン現象が起きているという。
 近年、特に生産者の廃業や働き手不足が影響して生産量が漸減傾向にあった島原手延べそうめんの業界は、細物を中心に需要が急伸している。
 南島原市有家町の麺商ふるせの古瀬智裕代表(47)は「暑さで食欲がないときも、するりとのどを通るそうめんが好まれたのでは。6~8月の売り上げは前年比10~30パーセント増の見込み」と“予想外の夏”の到来にうれしい悲鳴だ。
 一方、南島原観光で最も人気が高いイルカウオッチング。口之津町などで観光船や遊漁船業を営む田中一平さん(44)は「ゴールデンウイーク以降、好調に推移していたが、書き入れ時の夏休みにこの猛暑。ガソリン代の高騰もあり、客足は鈍い」と表情はさえない。涼しい早朝に出港する「朝活釣り」など提供商品に工夫を凝らす。
 猛暑は畜産農家の経営体力を消耗させている。有家町で独自ブランド「雲仙あか牛」など約1300頭を飼育している髙田牧場の髙田紳次代表(44)は、牛の夏バテ対策として大型の扇風機を5頭に1台設置。24時間全開で稼働させている。髙田代表は「例年に比べて餌を食べる量が減っている。暑さ対策に加え、電気代も高騰。物価高が食肉需要に影響し相場も下がっている。でも、いろいろと手を打って切り抜けるしかない」。
 気象庁の9月4日まで1カ月の天候の見通しでは、全国的に気温は平年より高く、まだ猛暑が続く見込み。市内のある観光業者は「自然には勝てない。暑さ寒さも彼岸まで。コロナ禍のときと同様、耐え忍ぶしかない」と空を見上げていた。

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