雨絡みの波乱と混沌を制し、BMWのヒルがクラシック連勝。好調サットンも今季8勝目/BTCC第7戦

 スコットランドに舞台を移し、いよいよシーズン終盤戦を迎えた2023年のBTCCイギリス・ツーリングカー選手権第7戦は、雨絡みとなったノックヒルで波乱と混沌の展開に。そんななか、最終的にレース1の勝利を“譲り受けた”ジェイク・ヒル(レーザーツール・レーシング・ウィズ・MBモータースポーツ/BMW 330e Mスポーツ)が、続くレース2も制覇してクラシックでの連勝を記録すると、豪雨の最終ヒートでは元王者アシュリー・サットン(NAPAレーシングUK/フォード・フォーカスST)が逆転勝利を収める結果となった。

 予選でNAPA レーシングUKことモーターベース・パフォーマンスの開幕連続ポール記録更新とともに、自身も今季4回目のポールシッターとなっていた男が、自身3度目、前輪駆動NGTC車両では初のタイトルに向け、選手権リードを拡大している。

 元WTCC世界ツーリングカー選手権王者、ロブ・ハフ(Go-Fix・ウィズ・オートエイド・ブレイクダウン/クプラ・レオンBTCC)の“カメオ出演”でも話題を呼んだノックヒルでの週末は、リッキー・コラード(TOYOTA GAZOO Racing UK/トヨタ・カローラGRスポーツ)のFP1最速で幕を開けると、続くFP2はBMWのヒルが制する展開に。

 しかしこの時点から田園地帯にあるスコットランド唯一のFIA公認トラック上には雨粒が落ち始めており、予選も序盤からウエットコンディションでの勝負となる。

 路面の雨量変化により計時予選終了間際までタイムボードのメンバーが入れ変わる難しい展開となり、セッション残り45秒の時点でステファン・ジェリー(チームBMW/BMW 330e Mスポーツ)がスピンを喫し、さらにアタックの条件が制限される場面も発生する。

 そんななか、序盤のコースオフでダメージを負いながらも、名門ウエスト・サリー・レーシング(WSR)の一員として戦うヒルがなんとかトップタイムを記録。さらにホンダ陣営で孤軍奮闘するワン・モータースポーツ・ウィズ・スターライン・レーシングのジョシュ・クック(FK8型ホンダ・シビック・タイプR)や、王者トム・イングラム(ブリストル・ストリート・モータース・ウィズ・エクセラー8/ヒョンデi30ファストバック Nパフォーマンス)らに加えて、NAPA軍団からはサットンが唯一の“トップ10ショーダウン”進出を果たす。

 一方で僚友ダン・カミッシュ(NAPAレーシングUK/フォード・フォーカスST)は、アタック中コースを外れた際にラジエーターを破損し、23番手スタートを強いられる厳しい結果となった。

 そこからわずかに路面が乾き始めた10台によるポール獲得合戦では、まずホンダのクックが先行する展開に。しかし最後の最後で満を持してコースインしたサットンがアタックに向かうと、わずか0.006秒差でシビックを撃破。フォーカスSTが6戦6回の驚異的な予選最速記録を維持した。

「本当の苦闘だったし、全身全霊のプッシュだった」と、直前のFP2ではダンパーのトラブルで周回数を失っていたサットン。

「ここでの共通ハイブリッド機構は、とくにヘアピンからバックストレートに至るまでに大きな違いをもたらしてくれた。最後に初めてスリックに履き替えたときはプレッシャーだったが、このクルマがソフトタイヤで驚異的な性能を発揮することは分かっていた。オンボードを見れば、自分がどれだけ限界に達していたのかがわかるだろうし、正直に言うと2番か3番グリッドでも満足だっただろう」

 一方、予選後半ではつねに最上位に名前を掲げ続けたクックは、フォードの予選最速記録を阻止する可能性が絶たれたことを「悔しいし、残念」だと認めた。

「ドライコンディションで走ることができたのは初めてだったから、何が起こるかまったく分からなかった」と、改めて難しい予選だったことを強調するクック。

「我々の進歩には満足しているが、適切なタイミングでタイヤ交換することがすべてだったから、その点だけが敗因だ。僅差でポールポジションを逃したのは残念だけど、明日は他のチームがチャンピオンシップに集中しているなか、僕らは勝利を望んでいる」

ホンダ陣営で孤軍奮闘するOne Motorsport with Starline Racingのジョシュ・クック(FK8型ホンダ・シビック・タイプR)が、雨絡みの予選で持ち前のスピードを見せる
路面の雨量変化により計時予選終了間際までタイムボードのメンバーが入れ変わる難しい展開に
元王者アシュリー・サットン(NAPA Racing UK/フォード・フォーカスST)が狙い澄ましたアタックで、NAPA Racing UKことMotorbase Performanceの開幕連続ポール記録更新とともに、自身も今季4回目のポールシッターに輝く
「本当の苦闘だったし、全身全霊のプッシュだった」と、直前のFP2ではダンパーのトラブルで周回数を失っていたサットン

■王者イングラムがトップチェッカーを受けたが……

 迎えた日曜も、天候絡みの混沌をさらに深めたような展開となり、レース1のオープニングでは3番手ヒルを含めて上位がポジション堅持で推移すると、その背後にはイングラムのヒョンデが浮上してくる。

 しかし4周目のシケインでは、首位サットンがミスを犯しワイドになりクックが先頭へ。この際、サイドウェイ状態でトラックを横切ったフォーカスSTとシビックがわずかにコンタクトしたものの、両者ともレース続行が可能な程度で生き延びる。

 直後に雨脚が強まるとレースは大混乱に陥り、7周目の終わりには各車ウエットタイヤへの交換でピットに飛び込み始め、この時点で9番手だったトム・チルトン(ブリストル・ストリート・モータース・エクセラー8/ヒョンデi30ファストバック Nパフォーマンス)が真っ先にレインを装着する。

 僚友イングラムもその2周後のラップ9で履き替え戦列復帰するかたわら、トラック上ではスリックで奮闘するサットンがクックから首位の座を奪還。するとシビックはそのままストレート直後の“Duffus Dip”を直進し、バリアの餌食となってしまう。

 そのままエイデン・モファット(ワン・モータースポーツ・ウィズ・スターライン・レーシング/FK8型ホンダ・シビック・タイプR)や地元出身ロリー・ブッチャー(TOYOTA GAZOO Racing UK/トヨタ・カローラGR Sport)の前で、曲芸的なマシンコントロールで首位を守ったサットンだったが、ふたたびターン1でスタック車両が発生したことから、セーフティカー(SC)導入が宣言される。

 そのリスタート直後にピットへ飛び込んだサットンに対し、ステイアウトした背後の2台もサーキットを直進してリタイアを余儀なくされ、ふたたびSC出動の引き金に。残り2周でレースが再開されると、序盤に早めの判断を降していたイングラムが首位に立ち、BMWのヒルを挟んで僚友チルトンを従える構図となる。

 それでも2回目のセーフティカーに助けられ7番手まで挽回したサットンだったが「これで選手権首位陥落か……」と思われたレース後に、さらなる波乱が待っていた。

 最初にゴールラインを越えたイングラムと3番手チルトンのヒョンデは「最低地上高違反」で失格処分となり、ヒルが繰り上げ優勝。以下アンドリュー・ワトソン(カーストア・パワーマックスド・レーシング/ヴォクスホール・アストラBTCC)とFP1最速コラードのトップ3へと変わる結果に。サットン自身も5位の可能性があったものの、黄旗下での追い越しでペナルティがあり最終的に6位となった。

 これでレース2の先頭スタートを手に入れたヒルは、昨季も2勝と相性の良いトラックで連勝を決め、ふたたびSCでのリスタートも活用したサットンが2位に浮上してチェッカー。予選で“回った”ジェリーがグリッド位置も活用しての3位ポディウムを死守した。

「レーザーツール・レーシング・ウィズ・MBモータースポーツには本当に感謝している。彼らはこの週末に素晴らしい仕事をしてくれたし、BMWも順調だ」と、結果的に2年連続でノックヒル連勝を飾ったヒル。

「最速というわけではないかもしれないが、改善は充分すぎるくらい進んでいる。彼らチーム全員に多大な感謝を捧げたい」

 そのトップ7リバースが採用された最終レース3は、スタート直前に豪雨が襲来し、ディレイからのSC先導スタートに。それでも4周目のリスタート以降、グリッド3列目6番手発進からダッシュを決めたサットンが12周目に首位に立つと、そのまま逃げ切り今季8勝目。2位にはこちらも8番手発進から浮上のクックが続き、最後は僚友に“譲られた”イングラムの並ぶ表彰台となった。

「レース1が終わった後、チャンピオンシップに関しては厳しい仕事が我々に課せられるだろうと思っていたが、トム(・イングラム)の失格とレース2での僕らのパフォーマンスで救われた。そして最後は勝利で締めくくるなんて、これ以上のものを求めることはできないね」と、週末を前に6点差だった選手権リードを、一気に37点差にまで拡大したサットン。

「これは僕がBTCCで経験する最大のギャップだが、今週末ですら物事がいかに急速に変化するかを目の当たりにしている。まだあまり興奮するつもりはないし、これまでにないほど近づいているとは思うけれど、引き続きスマートに戦う必要があるだろうね」

 続くBTCC第8戦は、8月25~27日の週末にイングランドはノースハンプシャー州へと戻り、ドニントンパークのグランプリ・レイアウトで争われる。

レース1トップチェッカーの王者トム・イングラム(BRISTOL STREET MOTORS with EXCELR8/ヒョンデi30 Fastback N Performance)は、まさかの「最低地上高違反」で失格処分に
連勝のジェイク・ヒルに加え、レース1ではアンドリュー・ワトソン(CarStore Power Maxed Racing/ヴォクスホール・アストラBTCC/右下)が2位に
FP1最速で気を吐いたリッキー・コラード(TOYOTA GAZOO Racing UK/トヨタ・カローラGR Sport)は、3位、6位、5位と奮闘
レース1を”ステイアウト”で失ったクックも、週末の勝利こそ逃したが、レース3で2位表彰台までカムバックした

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