小さな自由浮遊惑星「MOA-9y-5919」を発見 地球に近い質量の自由浮遊惑星としては2例目

特定の天体の周りを公転していない「自由浮遊惑星」 (※) は、一体どれくらい存在するのでしょうか?大阪大学の住貴宏氏らが所属する国際研究グループ「MOA(Microlensing Observations in Astrophysics)」は、ニュージーランドに設置された「1.8m MOA-II望遠鏡」による過去9年分の観測データを分析し、恒星と比べて約20倍も多い可能性を示しました。これは、天の川銀河だけで1兆個もの自由浮遊惑星が存在する可能性を意味します。

※…Free-Floating Planet (FFP) 、Rogue Planet。浮遊惑星、はぐれ惑星とも。

この分析の過程では、地球程度の質量を持つ自由浮遊惑星「MOA-9y-5919」が新たに発見されました。質量が地球程度の自由浮遊惑星の発見は2例目であり、非常に珍しい存在です。

【▲ 図1: 宇宙空間を単独で移動している地球サイズの自由浮遊惑星の想像図(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center)】

■小さな見えない天体を発見する「重力マイクロレンズ法」

「惑星」という単語を聞くと、普通は恒星などの別の天体の周りを公転しているものをイメージするでしょう。しかし、宇宙にはどの天体の周りも公転せず、単独で宇宙空間を移動している「自由浮遊惑星」と呼ばれる天体があります。自由浮遊惑星がどの程度存在するのかはよく分かっておらず、その総数を推定するための観測が続けられています。

しかし、自由浮遊惑星の観測や発見は一般的に困難です。大きなサイズの自由浮遊惑星は赤外線観測によって発見されることもありますが、赤外線の放射が強いほど天体のサイズは大きくなるため、見つかった天体は惑星の枠組みを超えた褐色矮星 (恒星と惑星の中間的な質量と性質を持つ天体) である可能性が高まります。ただし、この方法では地球サイズの小さな自由浮遊惑星を見つけることはできません。

【▲ 図2: 自由浮遊惑星が恒星の手前を横切ると、重力によって恒星の光が曲げられ、短時間だけ明るさが増大する。この変化によって自由浮遊惑星を見つける方法が重力マイクロレンズ法である(Credit: Jan Skowron (Astronomical Observatory, University of Warsaw))】

地球サイズの小さな自由浮遊惑星を見つける方法には「重力マイクロレンズ法」があります。これは「重力レンズ効果」を利用した観測方法です。

虫眼鏡のような凸レンズには、通過した光を焦点に集中させる効果があり、何もない場合と比べて1点の明るさは増します。また、一般相対性理論では重力は空間の歪みとして表現され、光はこの歪みに沿って進むとされています。このため、重力を持つ天体の近くを通る光は進路を曲げられ、焦点に光が集中します。もしも焦点に観測者がいれば、何もない時よりも天体の見た目の明るさが増すことになります。このような現象を重力レンズ効果と呼びます。

地球にいる観測者と遠くにある星の間に自由浮遊惑星が入り込むと、自由浮遊惑星の重力によって重力レンズ効果が生じます。しかし、自由浮遊惑星は重力が弱い上に移動しているため、その重力レンズ効果による増光は短時間かつ小さな変化に留まります。恒星や銀河で起こるような強い重力レンズ効果と比較すると効果が小さいため、これを重力「マイクロ」レンズ法と呼ぶのです。

とはいえ、重力マイクロレンズ法で見つかった地球程度の質量を持つ自由浮遊惑星は、これまで「OGLE-2016-BLG-1928」 (質量は地球の約0.3倍) ただ1つしか知られていませんでした。小さな自由浮遊惑星による重力レンズ効果はとても小さいため、観測自体が困難であるとともに、変光星やノイズなどとの区別が難しいからです。恒星などを公転する惑星とは異なり、自由浮遊惑星の通過は一度きりで二度と観測できないという性質も研究や発見を困難にしています。

■地球サイズの自由浮遊惑星「MOA-9y-5919」を発見

今回、MOAは1.8m MOA-II望遠鏡による2006年から2014年までの9年分の観測データを解析して、小さな重力レンズ効果の観測を示す「マイクロレンズ事象」の候補6111個の中から一定の水準を満たす3535個を選び出しました。特に、そのうちの6個は惑星程度の質量を持つ天体によるマイクロレンズ事象である可能性が高く、増光時間が0.5日未満のイベントであることが分かりました。

【▲ 図3: MOA-9y-5919と名付けられた増光イベント。星の明るさがほぼ1時間半だけ急激に明るくなったことから、質量の非常に小さな天体で起きたマイクロレンズ事象であったことが分かる (中央のグラフ) 。 (Image Credit: MOA Collaboration) 】

中でも2008年5月14日に観測された「MOA-9y-5919」は、増光時間がわずか0.057日(約1時間22分)という非常に短いマイクロレンズ事象でした。観測結果を分析した結果、地球から約1万4700光年離れた地球の約0.37倍の質量を持つ自由浮遊惑星か、あるいは地球から約1万9300光年離れた地球の約0.75倍の質量を持つ自由浮遊惑星のどちらかであると考えられています。どちらの場合も、MOA-9y-5919は地球質量程度の自由浮遊惑星ということになり、OGLE-2016-BLG-1928に次いで2例目となる「小さな自由浮遊惑星の発見」ということになります。

これほど小さな自由浮遊惑星について、数年で2例目を発見できたという点は重要です。短いマイクロレンズ事象を観測できる確率はとても低いため、このような発見ペースそのものが、小さな自由浮遊惑星が宇宙にはたくさん存在することを示唆していることになるからです。

今回のデータ分析では、過去の自由浮遊惑星の発見データも含めて統計解析を行うことで、自由浮遊惑星の存在量に関する分析も行われました。その結果、恒星1個に対して、数にして21個(8~44個)、質量にして地球の80倍(33~153倍)の自由浮遊惑星が存在するという結果が得られました。これは1個の恒星の周りを公転する普通の惑星の約6倍もの数であり、例えば約2000億個の恒星からなる天の川銀河では約1兆個もの自由浮遊惑星が存在することになります。

一方で、恒星1個あたりの惑星の総質量を比較すると、自由浮遊惑星と普通の惑星はほぼ等しい値であることも今回判明しました。このことから、普通の惑星に対する自由浮遊惑星の数は、軽いものほど多い傾向にあることになります。今回の研究では、地球の10倍の質量を持つ惑星は恒星の周りを公転しているものの方が多いのに対し、それを下回るものは自由浮遊惑星の方が多いとも分析されます。

自由浮遊惑星の形成プロセスには様々なシナリオが想定されていますが、最も受け入れられているのは「自由浮遊惑星も元々は普通の惑星として形成された」というものです。恒星の周りを公転する惑星が複数あると、接近時に重力を介して影響を及ぼし合って互いの公転軌道を変化させます。場合によっては、公転していた恒星の重力を振り切って、永久に逃げ出してしまうこともあるでしょう。このようなプロセスの場合、軽い惑星であるほど逃げ出しやすくなるため、今回の研究結果と一致します。このことから、自由浮遊惑星の存在数について1つの重要なデータが得られたと言えます。

■自由浮遊惑星の観測体制は今後強化される

今回の研究は自由浮遊惑星の数に関する1つの重要なデータを提供しましたが、自由浮遊惑星探索はこれからも続きます。例えば、南アフリカ共和国に設置された「1.8m PRIME望遠鏡」は、従来実施されてきた可視光線ではなく近赤外線での重力マイクロレンズ法による観測を目指しています。また、NASA(アメリカ航空宇宙局)が2026年の打ち上げを目指している赤外線望遠鏡の「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」は、宇宙での重力マイクロレンズ法による観測を目的としています。

今回の研究では、ローマン宇宙望遠鏡は潜在的に988個(422~2836個)の自由浮遊惑星を発見できるとも推定されました。そのうちの575個 (141~2308個) は地球の0.1~1倍の質量を持つ小さな自由浮遊惑星であるとも推定されています。このように、未発見の自由浮遊惑星は無数にあると推定されており、その数や起源は、恒星の周りでどのように惑星系が作られるのかという疑問にも関わってきます。また、重力でのみ存在を知ることが可能な「暗黒物質」の中に自由浮遊惑星がどの程度含まれているのか、という疑問にも答えることができるようになるでしょう。

Source

文/彩恵りり

© 株式会社sorae