迫る注目の岩手県知事・県議のダブル選挙!県選管のデータ形式を観察するとと分かる情報公開の3つのポイント(データアナリスト 渡邊秀成)

令和5年(2023年)9月3日は岩手県知事選挙及び岩手県議会議員選挙の投票日です。選挙が近くなると各公的機関の選挙情報を閲覧する人が増える時期になります。公的機関が公表する選挙結果情報を基に投票率の地域ごとの傾向や政党ごとの地域別得票率を調べる関係者が多いと思います。

ただ総務省、都道府県選挙管理委員会が公表する選挙結果データは使い勝手がイマイチの部分が多く改善して欲しい点が多々あります。

特に総務省統計局は令和2年(2020年)12月18日に(統計表における機械判読可能なデータの表記方法の統一ルールの策定)を公表し、統計データについては機械判読可能なデータ表記方法のルールを策定しています。これは使い勝手の良いデータを作成するための指針として簡潔にまとまっていてとても良い資料です。

しかしながら都道府県選挙管理員会が公表する選挙結果データは総務省が公表している、上記ルールに従っていないところがほとんどです。

総務省はICT利活用の促進の一環となるデータ利活用の促進として「データ活用型公務員」の育成といった研修会を行なっています。データ分析に力を入れていることがわかりますが、データ分析以前のキレイなデータの公開が現場レベルではなされていないようです。というのも都道府県が公表するデータは利用者側からすると利用がしやすいものとは言い難いものであるというのが現状だからです。

どういった点でデータの利活用がしにくいのかといった点について、9月に知事選挙、県議会議員選挙を控えている岩手県選挙管理員会が公表している選挙結果データを基に考えたいと思います。総務省が公表するデータ表記方法とどのように異なるのか?そして岩手県選挙管理員会が公開するデータをどのように改訂すれば総務省が策定するルールに従ったものになるのかを考えてみます。

ポイント①西暦を併記して、見る人に分かりやすく

岩手県選挙管理委員会が選挙結果について公表しているウェブサイトは下記になります。

https://www.pref.iwate.jp/iinkai/senkyo/kekka/index.html

このページを見ると直近に執行された選挙ごとに時系列に選挙結果が並べてあることがわかります。ただ和暦表記であるので平成/令和と表記されています。今現在の人がこのページを閲覧するぶんにはいつぐらいの選挙であるのかを感覚的に把握することはできます。しかし選挙結果データ量が増え、今後の人が閲覧することを考慮すると西暦でも選挙執行日を掲載した方が、より閲覧者が情報を理解しやすいものと思われます。

総務省のデータ表記方法の統一ルールのチェック項目にはこうあります。「□チェック項目1-11 e-Stat の時間軸コードの表記、⻄暦表記又は和暦に⻄暦の併記がされているか

Webページ上にはこのようなルールを厳密に適用する必要はないのかもしれませんが、西暦表記が併記してあるとページ閲覧者は和暦西暦の変換を頭の中で行う必要がないので、時間的位置関係が把握しやすくなります。

ポイント②セル結合は使わない、地域コードは記載する。これだけでデータの活用しやすさがアップ!

次に選挙結果データの中身について観察していきます。ここでは前回の知事選挙である平成23年(2011年)9月11日のデータを利用します。このページは下記になります。

https://www.pref.iwate.jp/iinkai/senkyo/kekka/1015556/1015577.html

まず最初に知事選投票結果(Excel 34.5KB)を開きます。開いたエクセルファイルは下記のように作成されています。

最初のチェックポイントであるセル結合が利用されているか否かについて確認します。残念ながらセル結合が利用されています。緑色の部分がセル結合されている箇所です。セル結合されているのが市町村名部分、投票者数、棄権者数、投票率(%)、前回との差(%) 等です。

次のチェックポイントである「□チェック項目1-12 地域コード又は地域名称が表記されているか」について確認します。

上記図を見ればわかるように市町村郡名のみが記載されており地域コードが振られていません。市町村コードを振ってあると地理情報システム(GIS:Geographic Information System)と選挙データを連動しやすくなります。そのため投票率等のデータを地図上に表現するということを考えると、市町村コードは振っておいて欲しいところです。

ポイント③県名などの項目名は省かない

続いて 「□チェック項目1-6 項目名等を省略していないか」を見てみます。

この投票率の表で項目が省略されているのが郡名です。

赤色の吹き出し部分がその場所です。

この部分は省略をせずに

岩手郡雫石町
岩手郡葛巻町
岩手郡岩手町
岩手郡滝沢村

と記載をする。

もしくは列をもう一つ増やし改善表のように変更することも一つの方法です。

ただ、市町村コードを割り振ることをすれば列を増やすことなく利活用しやすいデータになります。

そして最後に項目部分について観察をすると、選挙当日の有権者数、投票者数、棄権者数、投票率(%)、前回との差(%)の部分について、男女計の3項目がそれぞれあります。

この部分を

選挙当日の有権者数男 選挙当日の有権者数女 選挙当日の有権者数_計

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投票者数男 投票者数女 投票者数_計

———————————

棄権者数男 棄権者数女 棄権者数_計

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投票率男 投票率女 投票率_計

———————————

前回との差男 前回との差女 前回との差_計

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このようにしてみてはいかがでしょうか?

また細かい点になりますが、今回の投票率、前回の投票率差が%表示になっています。

このままでも読み違える人は少ないと思いますが、より正確にはパーセンテージポイント(ercentage point)となるので「ポイント」と表記してみてはいかがでしょうか?

以上の改善点を選挙データに適用すると下記表のようになります。

もちろんこれが絶対ではありません。ただ、このような総務省ルールに基づいた表形式で選挙結果を公表すると選挙管理委員会職員、統計関係職員、地域住民がデータ再利用する際に、データ分析に入るまでの時間が大幅に短縮されます。

そして一つのデータを多方面に流用しやすくなるので、他の部署が政策立案をする際にデータ可視化、分析作業に入る前にかかる時間を短縮することができ、政策の中身を考える時間をより多く確保しやすくなります。

全国一律の共通様式でのデータ管理・公表こそ三方よし

選挙結果情報を公開するだけではなく、次世代を生きる有権者、他の地方公共団体等が利活用しやすいデータを公表することが選挙管理委員会に求められています。

ただ新しい形式で選挙結果情報を公開することは担当職員にとっては責任問題が発生する可能性があるためデータ形式についての変更が難しいということもあるかもしれません。

もしそのようなことで使い勝手の良いデータの公開が遅れているのであるならば、総務省の選挙担当部署または統計局が選挙結果データのテンプレートを都道府県選挙管理委員会に配布をして、そのテンプレートに記入してもらうという形にすれば、現場の都道府県選挙管理委員会職員における責任問題発生が避けられ、使い勝手の良いデータが公開される可能性が高まります。

または総務省内で全都道府県、市区町村選挙結果データ、立候補者情報等(選挙後に発行される選挙結果調に記載される情報)をオンライン上で入力するページを設けておき、そこに各都道府県選挙管理委員会、市区町村選挙管理員会からデータ入力をしてもらうと、全選挙で統一形式でデータを登録/管理/公開ができます。その登録管理されたデータを総務省が国民、報道機関に対して同時公開するといったことも考えられます。

(国政選挙が執行される際には新聞フォーマットでデータ提供している都道府県選挙管理員会がありますが、そのような形態を真似て総務省が何らかの共通フォーマットを作成しデータの統一性を図る時期ではないでしょうか。そして総務省は国勢調査データを扱っているのでそれらのノウハウが蓄積されているはずです。すでにその体制が作られており内部では行なっているのかもしれません。)

そうすれば情報を必要とする人が国政選挙、統一地方選挙等、各地域での得票数等をウェブサイト上をあちこち見回らなくても、総務省の特定ページさえ開けば、必要な情報が得られるので情報を求める人にとっては情報収集時間短縮につながります。

いずれにせよ選挙といった全国共通手続きで行われる事項については、共通フォーマットでデータを記録、管理、公表をして欲しいというのがデータ利用者側からの意見です。

地方分権等で地域の独自性を持つことは大切であると思うのですが、選挙の全国共通手続きで行われるものについては、全国一律の共通フォーマットでデータ管理、公表をすることが必要であると考えます。

このような小さな部分の共通化が行政DX等につながり、EBPM(証拠に基づく政策立案)等がしやすくなるものと考えます。

また内閣府の公文書管理制度のページには「公文書等(国の行政文書等)は国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録であり、国民共有の知的資源です。 このような公文書等を適切に管理し、その内容を後世に伝えることは国の重要な責務です。」(内閣府公式サイトより引用 https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/index.html)との記載があります。

選挙記録も地域の民主制の過程を知る重要な資料です。正確に記録し、使い勝手が良い状態で記録を保存することは、公的機関の役目の一つです。

そのためにも総務省、都道府県選挙管理委員会、市区町村選挙管理員会は統一性を持った利活用しやすいデータ形式で、選挙結果をオンライン上でも誰もが利用しやすい形式で公開して欲しいと思います。

今回は9月に選挙が迫る、岩手県選挙管理委員会が公表する選挙結果データを総務省が公表するデータ形式にするには、どのような部分を改善すれば良いのかについて検討してきました。

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