ファンの人気に支えられ続編製作
前作『クロムスカル』(2009年)公開時のお話。いわゆる“拷問ポルノ”と揶揄される残酷描写に特化した映画にホラーファンが食傷気味となっていた。『クロムスカル』も拷問ポルノ映画の亜種と見なされ、殺人鬼クロムスカルの見てくれ以外は、期待できないとの意見が多数を占めていた。
ところが公開されるや否や、クロムスカルの出で立ちに負けず劣らずのスタイリッシュな殺しぶりに筆者含めホラーファンは大歓喜。新たなホラーアイコンの誕生を目の当たりにしたと諸手を挙げて、歓迎することになった。
殺害方法は「拷問ポルノ映画」を踏襲しているものの、『クロムスカル』はトータルファッションという観点で殺しの水準が高かった。背が高く、スリムで寡黙、銀白色の仮面はもちろん黒いスーツも堂に入っている。やたらと切れ味のいいダガーをクルクルと回し、時には体も回転させながら犠牲者を切り刻んでいく。文句なしに彼はかっこよかった。
斯くして、(局地的ではあるものの)彼はジェイソン・ボーヒーズ(『13日の金曜日』)、フレディ・クルーガー(『エルム街の悪夢』)など名だたるホラーアイコンと肩を並べるに至ったのである。
しかし、残念なことに『クロムスカル』は単発作品として制作されていた。このため続編は期待できなかったのだ。だがファンの力は偉大である。
「クロムスカルのタトゥーを入れているファンをみて、決心したんだよ」
故ロバート・ホール監督は『クロムスカル リターンズ』の制作理由を、そう語っている。
クロムスカルの“過剰な変態性”ゆえに内ゲバが勃発
「『クロムスカル リターンズ』は、1作目とは全く異なる作品になっている」とロバート監督は語っているが、まさにその通りだ。一夜の殺人劇だった物語は、様々な人間模様が入り交じった群像劇となり、登場人物たちはしっかりと意味のある台詞を語るようになった。
クロムスカルが組織的に殺害を行う巨悪であったことが明かされ、さらにクロムスカルの“過剰な変態性”ゆえに内ゲバが勃発、果てはクロムスカル・ワナビーまで登場する始末。チーム運営に悩んだ彼は、大虐殺を開始する。
前作『クロムスカル』との共通点は、ファッショナブルな殺人シーンのみ。ファンが一番求めている部分はしっかり残し、クロムスカルのキャラクターをさらに掘り下げる、ファンベースならではの続編に仕上がっている。
『クロムスカル』シリーズの殺人シーンのクオリティが高いのは、ロバート監督が特殊メイクアップ畑の出身であることに起因する。彼曰く、特殊メイクアップ担当として映画に関わる場合、詳細に指示を出しても何らかの障害が生じるとのこと。しかし、自分で監督をする場合はそれがなく、全てがスムーズに思い通りにことを進ませることができる。だからクロムスカルの殺人技が光るのだ。
今回は斬新な殺戮武器も登場。怒り任せに人間を切りきざむシーンもあり、クロムスカルのスキルが確実にアップしている!
「ドナちゃんワーオです」のブライアン・A・グリーンも出演
そんなクロムスカルの非道さを際立たせる役者陣にも注目だ。
クロムスカル役はニック・プリンシピが続投。彼の無言殺人演技は『クロムスカル』以降、高く評価され、今では殺人鬼役として人気俳優になっている。
クロムスカルにコキ使われる組織メンバーも、かなりクセ者。「俺こそがクロムスカルだ!」と息巻くプレストン役にブライアン・オースティン・グリーンを抜擢。彼は『ビバリーヒルズ高校/青春白書』(1990年~2000年ほか)シリーズ終期の中心人物デヴィッド役で知られる(彼のキャリアを作った「ドナちゃんワーオです」の台詞はいつの頃だったか……)。
クロムスカムの禿頭に魅力を感じているHENTAIメンバー、スパンには子役からホラー映画ばかり出演しているダニエル・ハリスを起用しているのも面白いところである。
さらに、サイモン・ベイカー主演の人気TVシリーズ『メンタリスト』(2008年~2015年)で刑事役を務めていたオウェイン・イオマンがゴツゴツした面構えでクロムスカルと対峙。物語を引き締めている。
こんなパワーアップした続編を見せられたら当然、次作にも期待したくなる。既に企画もあり、ハリウッドを舞台にクロムスカルが暴れ回る……はずだった。タイトルは『Laid to Rest: Exhumed(原題)』。
しかし冒頭に“故”と記したとおり、ロバート監督は2021年5月にこの世を去った。いまだ続編を望む声が多い『クロムスカル』シリーズ、だれか彼の意思を継いでくれないものか……。
文:氏家譲寿(ナマニク)
『クロムスカル リターンズ』は2023年8月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテほか全国ロードショー