中小旅行会社のコロナ禍での奮闘記! -後編-

前編はこちら:

2020年6月16日、神奈川県鎌倉市で、満開の紫陽花見学を売りに、今の配信につながる本格的なオンラインツアーを開催することとなりました。

「映像はフルハイビジョンの高画質で美しい景色を伝え、チャットやクイズを通じて相互作用を持たせた生中継を行います」。旅行会社の知識しか持っていなかった私が、開催を決めてから3週間でこの企画を実現することになりました。

芸人のアキラ100%氏がリポーターとして出演

撮影は、映画プロデューサーやテレビ番組のディレクターとしても活動していた、高校時代の友人に依頼しました。その人脈を通じて、芸人の「アキラ100%」氏にリポーターとして出演を依頼しました。撮影した映像は、中継機材を用いて都内のスタジオに送り、その映像を加工して配信ソフトを通じて全国に向けて配信しました。自分の中ではこれ以上の方法が思いつかず、これでうまくいかなければ諦められるほどの短期間で準備。人件費や機材費が高額だったため、事前リハーサルは行わず、当日の午前中に1回のテスト配信のみ行いました。失敗の余地がないというよりも、何も失うものがなかったため、覚悟を決めて取り組んだ一発勝負の配信となりました。

意外なことに、配信は大成功し、視聴者数は約300人ほどでしたが、経済的には完全に赤字でした。しかし、非常に大きな成果を得た瞬間でした。配信後、多くの人から好意的な感想を受け、この事業を続けていける自信を持てました。

当時のプレスリリース:

挑戦を超えて新たなスタート

長野県の善光寺からのオンラインツアー配信の様子

この日を境にして、私たちの状況は一変し、忙しい日々が始まりました。

同年8月には長野県の善光寺からも同様に配信し、多くの視聴者とメディアの注目を集めました。翌月の9月には、フランスのヴェルサイユ宮殿を借り切り、フランス在住の作家「辻仁成」氏(以下、辻さん)とベルトラとの共同企画で配信を行いました。

辻さんに依頼することは良かったものの、相手は映画監督も務める本物のプロであり、私たちはたった2回の配信経験しか持たない素人でした。海外での撮影許可の取り方もわからず、無理なお願いで相手を困らせ、怒られることもあり、四苦八苦の状況でした。辻さんがこの騒動をブログに掲載すると、記事は拡散され、最終的にはわずか2日間で1万3千人以上の申込みがあり、オンラインツアーは大成功となりました。

私たちが最も厳しい状況にあった時、助けを求めると、辻さんはためらうことなく協力を申し出てくれました。彼の純粋な協力に感謝の気持ちしかありません。この配信のおかげで、私たちは出向先から戻ってきた社員を半年で再び採用することができました。現在のサービスが提供されているのも、この出来事がきっかけだったことは疑いありません。

新しい事業を始めるに当たり、多くの人々やグループ会社の先輩や仲間から励ましを受け、支援を受けました。コロナ禍を通じてこの経験を得ることができたことは大変価値あるものでした。自分自身を偉そうにするつもりはありませんが、困っている仲間がいれば声を掛け、手を差し伸べる存在になろうと決意しました(ただし、実際にはこれからが試練ですが)。

その後も、配信を続けながら、2021年2月には介護施設向けの会員制動画配信サービス「旅介ちゃんねる」(以下、旅介ch)をスタートさせました。

最初の配信は、おそらく日本で唯一の伊勢神宮公認のオンラインツアー(神域は収録映像)を、三重県の事業として実施しました。約300の介護施設に向けて配信されました。ここから2年半の間に、オンラインツアー市場は消滅寸前の状態に陥りましたが、旅介chの利用施設は3,500軒を超えるまでに成長しました。チャットやクイズ、ツアー途中の体操など、旅介chの参加は脳トレや身体機能の回復効果も含め、高齢者を含む旅行が難しい人々向けの貴重なコンテンツとして、さらなる成長の余地があります。これは新たな旅行の形態として活用され、ますます発展していくでしょう。

当時のプレスリリース:

2020年3月、新型コロナウイルスの影響で困難な状況に直面し、zoomを使用してオンラインツアーを開始しましたが、その後高画質で参加型のオンラインツアーへと進化しました。そして3年後の現在、高齢者向けの参加型旅行番組へと発展しています。

2024年にはスマートテレビアプリのリリースが計画されており、旅行番組を中心とした本格的な動画配信サービスを介護施設だけでなく、一般家庭の高齢者にも提供していく予定です。また、2025年の大阪・関西万博では、行くことが難しい高齢者や障がい者向けに、万博の仮想体験を提供する放送も予定しています。

テレビアプリプレスリリース:

新型コロナウイルスの影響を受け、介護施設向けの旅行会社は3年間の苦闘の末、テレビアプリのリリースまでたどり着きました。この奮闘記は、どうでしょうか。他の誰かがピンチに陥り、心が折れそうな時、そのピンチはチャンスだと前向きに捉えるきっかけになれることを願っています。

最後に、私一人の視点からの記述となりましたが、この期間中、何度も変革(メタモルフォーゼ)を経験し、共に全力で取り組んでくれた会社の仲間たちに、心からの敬意と感謝を表します。

寄稿者 栗原茂行(くりはら・しげゆき)東京トラベルパートナーズ㈱代表取締役社長

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