「性犯罪歴ない証明」子どもに関わる職業の就労希望者対象に 「日本版DBS」制度導入の意義と問題点

学習塾やスポーツクラブなどは義務化の対象外の見通し(EKAKI / PIXTA)

政府は今秋にも性犯罪歴がないことの証明を確認する制度である『日本版DBS』を学校や保育所、幼稚園、児童福祉施設など子どもに関わる職業を対象にし、関連法案を提出する予定だ。

DBSはそもそもイギリスで2012年から導入されている制度でディスクロージャ―・アンド・バーリング・サービス(前歴開示・前歴者就業制限機構)の略称であり、就労希望者が学校従事者など子どもと接する職業に就労希望をした場合、雇用主側が就労希望者の性犯罪歴について確認。性犯罪歴を有した場合それら職業に従事することを禁じている。

日本でも今年6月からこども家庭庁が有識者会議を開き、日本版DBS導入の議論を進めているが、日本では憲法が認める職業選択の自由やプライバシー権の侵害などの観点から日本版DBSが導入された場合、対象の範囲や規制内容が課題となっている。

制度導入の意義と問題点

子どもを性犯罪から守る制度の導入によって社会にとってどのような利益(意義)があり、性犯罪歴を有する人間にとってどのような弊害(職業選択の自由やプライバシー権)が想定されるのだろうか?

これまで数多くの少年事件をはじめとした刑事事件の弁護経験があり、人権問題についても詳しい杉山大介弁護士は、「(性犯罪歴者の)データを共有することで特定業種からの完全排除がゴールとして達成される。再犯の機会が減り、より安全になることは社会にとって利益になると思います」と制度導入の意義について話す。

一方、アメリカのように州によっては過去の性犯罪者の情報をネット上に公開したり、GPSの足輪をつける、といった性犯罪者に対して強制的な措置を取る国も存在しており、そのような強制的な措置は“個人の更生の機会を奪うのではないか”といった議論もある。

そうした情報公開やGPS着用などの強制的な措置の利益と問題点について、杉山弁護士は次のように指摘する。

「まずこの手の情報公開系は、どう活かすのかという発想が必要だと思いますよ。GPSをつけただけで問題が排除できるわけではなく、監視監督する必要もあります。強度にプライバシーや社会生活を制約する訳ですからそれに見合った高い効果を出すのは必須です。ですが何となく晒(さら)して社会から排除しました、という対応では無責任だし、憲法上も違憲になり得ます」

法制度を決めるまでは厳格なプロセスが必要

そしてすでにイギリスでは導入されているDBS制度について「実用については存じ上げない」としながらも、法制度を決めるまでは厳格なプロセスが必要だと強調する。

「イギリスでは近年、日本の刑事司法が被疑者の人権を適切に守れていないので被疑者の引き渡しを拒絶するという場面がありました。強い手段を使う代わりに、例えばその前科が決まるまでのプロセスも厳格に定めるなど、制度と言うのは手段と効果の全体のバランスで成り立っています」(同前)

杉山弁護士が語るように各国の制度には厳格なプロセスを経て各国の犯罪事情やそれに見合う手段と効果によって導入されてきた経緯が存在している。

日本も安易な発想でDBSを導入するのではなく、日本の事情に合わせたDBS導入についての議論を尽くすべきではないだろうか。

© 弁護士JP株式会社