「やぶさかではない」を巡る上司とのトラブル 我慢?言い返す?本来の意味を誤解した相手への対処法

言葉の意味を取り違えてトラブルに発展することもある。「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏が、本来は「喜んで何かをする」という状況で使う「やぶさかではない」という言葉を「仕方なくする」と誤解している人が多いケースを実例に挙げ、その対処法を説いた。

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【今回のピンチ】

課長に面倒な仕事を頼まれた。「やってくれるか」と聞かれて、前向きな気持ちで「やぶさかではありません」と答えたら、「嫌ならやらなくていい!」と怒りだした……。

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あなたは課長派でしょうか、部下派でしょうか。「やぶさかではない」は、時に深刻なピンチを招いてしまう罪作りな言葉です。

文化庁の「国語に関する世論調査」(2013年度)で、「やぶさかではない」の意味を尋ねたところ、「仕方なくする」が約44%、「喜んでする」が10%少ない約34%でした。実は本来の意味は、少数派の「喜んでする」です。

どうやら課長は、こっちが「ホントはやりたくないけど仕方なくやります」と言ったと受け止めてしまいました。その誤解は何としても解かなければなりません。とはいえ「課長は間違えてます」と正面からダメ出ししたら、間違いなく逆鱗に触れそうです。二重のピンチをどう切り抜ければいいのか。

二兎を追うものは一兎をも得ず。まずは優先順位を決めましょう。もっとも大事なのは、課長に頼まれた仕事を嫌がっているわけではなく、喜んで取り組みたいと思っている前向きな姿勢を伝えること。課長に「やぶさかではない」の本来の意味をどう伝えるか、そこはぜんぜん重要ではありません。

まずは「ああ、またやっちゃいました。申し訳ありません!」と謝ります。続けて、

「本当は喜んでやりますって言いたかったのに、背伸びして難しい言葉を使って『やぶさかではない』なんて言っちゃいました。ぜんぜん違う意味になりますよね」

そう言って、仕事を嫌がっていないことを強調します。ここで「『やぶさかではない』とは、本来は……」と言い始めたら、課長は自分の勘違いを棚に上げて気分を害し、「要はやりたくないってことだな。よくわかった」という最悪の結論にたどり着いてしまうかも。思い込みを覆すのは、なかなか困難です。

「『やぶさかではない』の本来の意味を知らない人」になるのは不本意ですが、まあ仕方ありません。ビジネスに限らず人生においては、「時に、肉を切らせて骨を断つこともやぶさかではない」という心構えが大切です。

(コラムニスト・石原 壮一郎)

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