社説:中国団体客の解禁 試される「持続可能な観光」

 住民生活との調和のとれた「持続可能な観光」の実効性が問われよう。

 中国政府が、新型コロナウイルスの流行を受けて停止していた日本への団体旅行を、約3年半ぶりに解禁した。

 コロナ感染拡大前の2019年には、中国人客がインバウンド(訪日客)全体の約3割を占めていた。家電や化粧品を大量に買い込む「爆買い」が消費を押し上げていた面もあり、日本の観光事業者からは歓迎の声が上がっている。

 政府は3月に改定した「観光立国計画」で、25年度の訪日客数を、過去最多だった19年の3188万人を超える水準に回復させる目標を掲げた。

 今年4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、年率換算で6.0%増となった。外国人旅行者によるインバウンド消費が伸びたことが要因の一つで、団体旅行の解禁でさらに伸びる可能性がある。

 一方、コロナ感染拡大前に京都などで問題になっていたオーバーツーリズム(観光公害)への懸念は根強い。既に京都市内ではバス・鉄道の混雑をはじめ、ごみ捨てや騒音などへの苦情も増えつつある。市民からは「これから、今以上に増えるのか」との声も聞かれる。

 政府や自治体は、これまで客数を追い求めた結果、観光公害を招いてきた。その反省から打ち出した「持続可能な観光」が試されることになる。

 京都市は昨年、「観光による公共機関の混雑を経験した市民の割合」や「マナー違反行為を迷惑に感じた市民の割合」など独自に83の指標と24の目標値を設定した。

 京都府も先ごろ観光戦略を改定し、「量」から「質」を重視する方針に転換した。個人旅行や旅先の交流といった新たなニーズに着目し、「地元の人々と交流した観光客の割合」を26年まで毎年1ポイント増加させることなどを掲げている。

 実現に向けた具体策を果断に打ってほしい。

 訪れる場所や時期が偏らない分散型旅行の推進にも、一層力を入れねばならない。京都市内にとどまらず、京都府内のほかの市町村や滋賀県も含めて互いに連携し、地域の魅力を掘り起こす観光策を求めたい。

 一方、観光業界はコロナ禍で離職した人が多く、深刻な人手不足に陥っている。受け入れ態勢は十分ではない。

 京都市観光協会の調査(1月)では、人手が確保できず、宿泊者の受け入れを抑制したホテルと旅館は3割もあった。

 自動チェックイン機やタブレット端末の導入など省力化に加え、従業員の継続的な待遇改善が欠かせない。不安定な非正規雇用が多い就業構造を見直し、サービスの向上を目指す観光業界の取り組みが鍵になろう。行政も後押しすべきである。

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