YouTube界では“モッパン”が一大ジャンルに成長も…医師が警鐘する“大食い”に潜む健康リスク

7月、大食い業界に激震が走った。29日、大食いタレントとして名を馳せた高橋ちなりさんが同月21日に亡くなっていたことが明かされたのだ。30歳だった。

生前の高橋さんと親しかった同じく大食いタレントの“もえあず”こともえのあずき(35)が高橋さんの母親の意向により自身のTwitter(現X)で訃報を発表すると、続々と追悼の声が寄せられていた。

高橋さんは2016年ごろから大食いタレントとしての活動をスタートさせ、デビュー当初は東現役大学生であったこともあり「女子大生フードファイター」として人気を博することに。『元祖!大食い王決定戦』『デカ盛りハンター』(ともにテレビ東京系)といった数々の人気大食い番組にも出演。

そして自身のYouTubeチャンネル「高橋ちなり【大食い酒飲み愛煙家】」では、ナポリタン10人前やパルドビビン麺5キロなどを食べる大食いチャレンジや食いや飲み歩きをする動画を多数アップしていた。生前、最後にアップロードされた「【大食い】ジョナサンで好きなだけ食べて飲む【mukbang】【大胃王】」という動画は、約40万回再生されている。

この動画のタイトルにもある「mukbang(以下、モッパン)」という言葉は、YouTubeの人気ジャンルとして知られている。モッパンとは韓国語で、直訳すると「食べる放送」という意味の若者言葉。’09年頃から韓国で使われ始め、YouTuberなどのインフルエンサーもモッパンという単語を取り入れた動画をアップロードし始めることに。’20年には、イギリスの流行語大賞トップ10に入るほど、現在では若者を中心にグローバルな単語として世界各国で使われている。

実際、YouTube上には、高橋さんのような大食いタレントだけでなく、さまざまなクリエイターが大食いに挑戦する動画が多数アップロードされている。その食べっぷりを称賛する声もあるが、同時にクリエイターの健康を心配する声も度々上がっている。

高橋さんも昨年12月にX(旧Twitter)で拒食症やアルコール中毒で入院したことを報告し、肝機能の指標とされるガンマGTPの値が2700あると綴っていた。高橋さんの具体的な死因については公表されておらず、2700というガンマGTPの数値と大食いとの関連性があったかについては明らかになっていない。

しかし、一度に大量の食事をとる“大食い”に身体へのリスクは全くないといえるのだろうか。そこで、ファミリークリニックひきふねの梅舟仰胤(うめふね・ぎょうたね)医師に話を聞いた。

――短時間に大量の食べものを食べる「モッパン」をすると、身体にどのような負担が生じますか?

「まず、胃腸にかなりの負担を強いるので胃腸機能低下を引き起こします。そのほか、血糖値や脂質の急激な上昇を引き起こすことで動脈硬化を来たし、さまざまな生活習慣病のリスクを上昇させる原因になります。」

大食いを行う人の中には、こうしたリスクを防ぐために食事後に食べたものを吐き出している人もいると言われている。吐き出せば、身体に影響はないのだろうか?

「確かに、吐き出すことで体内への吸収はある程度防げますが、嘔吐行為を繰り返すことで逆流性食道炎などの疾患リスクを上昇させます。また、頻回の嘔吐により電解質異常が起きるので、色々な疾患を引き起こす一因になることは否めません」

また、梅舟医師はガンマGTPが上昇する主な原因として「アルコール・脂肪肝、ウイルス性肝炎、肝腫瘍、胆道系の疾患(胆石、胆道癌)など」を挙げた上で、高橋さんが発表していた2700という値についてはこう分析する。

「即入院とは限らないですが、背景に何らかの肝疾患が隠れている可能性が高いので、速やかに消化器内科を受診する必要があります。かなりの大酒家の方でも1000台くらいが多いので、2000台はかなりの異常高値と言えます」

そして、最後に“大食い”を真似することについてこう警鐘を鳴らす。

「フードファイトはトレーニングを受けた特異体質の持ち主以外の方々がやると、色々な不調を体に来します。適量をおいしく食べるのが大切です」

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