岩手県酪農乳業を訪ねて① 真っ白な“牛飼いのバター” 緊急時も需給調整機能を発揮 全酪連北福岡工場

業務用の生クリーム、バター、脱脂粉乳、脱脂濃縮乳のほか、小売向け商品として真っ白な見た目とさっぱりとした後味が特長の「牛飼いのバター」などを製造する全国酪農業協同組合連合会北福岡工場。「酪農家が毎日生産する生乳を無駄にしない」という強い思いのもと、岩手県から青森県まで広範囲に及ぶ酪農家から集乳し、東日本における重要な需給調整の役割を担っている。

大雨などの自然災害や、突発的事象で関東に生乳を搬入できない場合などにも生乳を受け入れる体制を整え、新型コロナ感染の影響で一斉休校になった20年春には、従業員が一丸となって大量の生乳を処理した。今野渉工場長は「需給の調整役としての役割を果たすとともに、特長ある乳製品を安定供給し続ける」と力を込める。

ここ最近は乳量が減少傾向にある。23年5月末累計で東北全体が5%近く減少し、なかでも宮城県、山形県、福島県の南東北3県が顕著だ。青森県は前年並みを維持しているが、岩手県も4%前後のマイナスが続いている。

背景には近年厳しい酪農経営がある。「酪農家の景気が非常に良かったのがコロナ禍で一転した」と今野工場長は語る。飼料代の高騰もあって、増頭や乳量を増やした酪農家は非常に厳しい状況という。昨年3月に東北6県で1千701軒あった出荷戸数は、今年5月までに185軒ほど減少した。

工場の老朽化も避けられない課題となっている。脱脂粉乳の設備も週に1度はすべて手作業で清掃し、扱いには非常に気を使って扱っているという北福岡工場では、設備更新に向けた準備も進めている。

「牛飼いのバター」㊥など製造商品(全国酪農業協同組合連合会)

今後の需給の見通しは不透明だが、「酪農家が減っても工場に生乳が入ってくるということは、消費がまだまだコロナ前まで戻っていない。8月の乳価改定で飲用向けが値上げした際の買い控えも懸念している」と今野工場長は危機感を示す。

今後は、処理能力を向上させて従業員の負担を減らしていく方針だ。現在1時間当たり16・5t、最大300tの生乳を処理しているが、従業員の拘束時間を削減するため1時間当たり20t程度、1日最大400tまで向上することを目標にしている。人手不足への対応として、現在手作業で行っている工程も一部自動化する予定だ。

大手の乳業者が都道府県から乳製品工場を撤退していくなか、酪農乳業の基盤を守り、特長的な乳製品を今後も安定的に供給し続ける。

(つづく)

© 株式会社食品新聞社