エアロスミスのベスト・ソング:ロック界に燦然と輝く名曲20選

Photo: Fin Costello/Redferns

あなたはどの時期のエアロスミスがお好きだろうか? 成功を渇望するロック・バンドのひとつだった1970年代の彼らだろうか? それとも押しも押されもせぬスーパースターとなった1980年代や1990年代のエアロスミスだろうか? あるいは近寄りがたいほど威厳に満ちた存在となった近年の彼らに惹かれるだろうか? 私たちの答えは簡単だ ―― 私たちはそのすべてを愛している。

しかも、ボストン出身の5人組である彼らは、ラスト・ツアーとなる”Peace Out Tour”の開催を発表したばかりである。エアロスミスの過去作品を改めて深掘りし、グループのキャリアを代表する重要曲を紹介するにはこれ以上ないタイミングだろう。

楽曲を選出する上での私たちの基準はシンプルだ ―― すべてのアルバムの楽曲を含んでいるわけではないものの、グループのキャリア全体を網羅することを心がけた。それでもヒット曲がもれなく含まれているわけではないし、すべての人気曲が含まれているわけでもない。しかし、この年代順に並べた20曲のリストに入っているのは、過去50年のロック界を代表する楽曲の数々だ。あとは彼らのアルバムのタイトルにもなっている通り、”とにかく再生ボタンを押して楽しむ / Just Push Play”だけだ。 

1. Dream On (1973年)

ロック・ミュージックの歴史上、最初の本格的なパワー・バラードにして、間違いなくその最高峰に位置する1曲。それが「Dream On」だ。エアロスミスの自信に満ちた態度の裏には、深みや繊細さが隠されていることがよくわかる1曲である。

そんな「Dream On」のヒット・チャート上における成績は、興味深い変遷を辿っている。同シングルははじめにリリースされた際 ―― 局所的に大きな話題となった彼らの地元であるボストンを除いて ―― さほど高い人気を得られなかった。

しかし、2年後に再リリースされると、同曲はエアロスミスにとって初のトップ10ヒットになっている。さらに、エミネムが「Sing For The Moment」でこのシングルをサンプリングした2002年、同曲は再びヒットを記録したのだった。

2. Mama Kin (1973年)

結成から間もないころ、エアロスミスの面々がボストン大学の近くで共同生活を送り、その部屋でリハーサルをしていたことはよく知られている。だから彼らは、同地で自由気ままに暮らす若者の心情をある程度理解していた。「Mama Kin」は、そんな感情を歌った攻撃的なロック・ナンバーであり、結成当時から彼らのステージのハイライトとなっていた象徴的な1曲である。

「Mama Kin」は、とりわけ、ボストンのファンにとって大きな意味をもっている ―― グループが1990年代の数年間、フェンウェイ・パークのすぐそばで経営していたライヴ・ハウスの名前も”Mama Kin”だったのである。

 3. Train Kept A Rolling (ブギウギ列車夜行便) (1974年)

ジェフ・ベックがジョー・ペリーの敬愛するギタリストの一人だったことは周知の事実である。この曲は、エアロスミスの面々がバンドを組んで真っ先に音を合わせた楽曲のひとつだったという。しかしながらすぐにはレコードに収録されることはなく、2ndアルバムにようやく収録された。そしてそのころには、前半はファンキーなサウンド、後半はアクセル全開の激しい演奏と、演奏の途中で曲調が変化するユニークなアレンジが施されていた。

「Train Kept A Rolling」はまた、彼らのレパートリーの中で、いちはやくFMラジオ局で人気を博した1曲でもある。

 4. Sweet Emotion (やりたい気持ち) (1975年)

「Sweet Emotion」を聴くと、トム・ハミルトンが”エアロスミスの秘密兵器”といわれる理由がよくわかる。彼は、耳に残るベースラインを基にこの曲を作曲。ジョー・ペリーは、めずらしく、トーク・ボックスを使用したギターを披露している。

グループの初期のヒット曲の中でも野心的な作風となったこの作品では、リズミカルなヴァースとサイケデリックなサウンドのコーラスが交互に繰り返される。なお、そのコーラス・パートは、プロデューサーのジャック・ダグラスがパーカッションの音を逆再生で加えたことにより、いっそうトリップ感の強い仕上がりになっている。

 5. Walk This Way (お説教) (1975年)

この曲が収録されていることもあって、『Toys In The Attic (闇夜のヘヴィ・ロック) 』は、70年代に青春時代を過ごした人びとにとっての必聴盤となった。その「Walk This Way」は、ジョー・ペリーらしいギター・リフと、スティーヴン・タイラーによる茶目っ気たっぷりの歌詞が特徴の1曲。性的な含意のあるこの歌詞がAMラジオの規制をすり抜けたのは不思議にも思える。

ご存知の通り、同曲は10年後にRun-D.M.C.とのコラボでリメイクされ、ロックとヒップホップの融合という分野を先駆ける1曲になった。

 6. Back In The Saddle (1976年)

エアロスミスはアルバム『Rocks』からも立て続けにヒットを放っている。そんな同作の冒頭から立て続けに登場するのが「Back In The Saddle」と「Last Child」 (後者はブラッド・ウィットフォードが作曲に加わったファンキーなナンバーだ) というパンチの効いた2曲だった。

このうち「Back In The Saddle」はこの上なくエアロスミスらしいサウンドが聴けるトラックで、騒ぎながら飲み明かす一夜にはぴったりの1曲だ。長年に亘ってアンセムとして愛され続ける同曲は、黄金期のメンバーが再集結した1984年のコンサート・ツアーのタイトルにもなっている。

 7. Draw The Line (1977年)

1977年はパンクが音楽シーンを席巻した年だった。エアロスミスもまたその動向を注視していたに違いない。そんなころに作られた「Draw The Line」は、ともすると彼らのヒット曲の中でもっとも荒々しく激しい1曲かもしれない。そして、それはエアロスミスというグループの特性を考えれば、並大抵のことではないのである。

中盤のギターによるブレイクダウンのあと、ほかのメンバーは凄まじい音量で再び演奏に加わってくる。その中でタイラーは、最後のヴァースにかけて声の限り叫ぶ ―― まったく手に負えない演奏である。

 8. Lightning Strikes (1982年)

この時期、エアロスミスは岐路に立たされていた。ペリーとウィットフォードが一時的にグループを離れ、新たなギタリストがそのポジションを担っていたのだ。このラインナップは短命に終わったものの、そのころに制作された『Rock In A Hard Place (美獣乱舞) 』は驚くほど強力なアルバムだった。

同作にはパンクやサイケデリアの要素を取り入れた楽曲も収められていたが、ウィットフォードが参加した唯一のトラック「Lightning Strikes」は、そんなアルバムの中でもとりわけアロスミスらしい1曲で、シングルとしてもリリースされている。

 9. Let The Music Do The Talking (熱く語れ) (1985年)

アルバム『Done With Mirrors』のオープニング・トラックとなった「Let The Music Do The Talking」は、エアロスミス黄金期のラインナップの復活を告げる1曲になった。

荒々しくブルージーな作風となった同アルバムのハイライトである「Let The Music Do The Talking」はもともと、ジョー・ペリー・プロジェクトの1stアルバムのタイトル・トラックだったナンバーだ。しかしながらヴァースを作り直し、歌詞を追加したことで、エアロスミスとしての魅力たっぷりのアンセムに生まれ変わったのである。

 10. Dude (Looks Like a Lady) (1987年)

このヒット曲でエアロスミスの面々は、80年代後半の自分たちのサウンドを打ち出した。粗野な魅力はそのままに、ホーン・セクションやバック・ヴォーカル、シンセサイザーなどを取り入れることで、彼らは時代の変化に対応してみせたのである。

もともと「Cruisin’ For A Lady」という仮題がつけられていた同曲は、ロサンゼルスで大酒を飲んだ一夜をヒントに書かれたもの。そこでスティーヴン・タイラーは、白金色の髪をなびかせ、顔にメイクをした男性に一瞬、目を奪われたのだという。何を隠そう、女性のように見えたその男性とは、モトリー・クルーのヴィンス・ニールだった。

 11. Rag Doll (1987年)

『Permanent Vacation』における3つ目の重要曲 (その”二つめ”である「Angel」にも言及しないわけにはいかないだろう) である「Rag Doll」は、目新しさと懐かしさが共存したサウンドの1曲だ。そこには故ブルース・フェアバーンのプロデューサーとしての力量が如実に表れており、ホーン隊の演奏とジョーイ・クレイマーのドラムが80年代らしいスケール感を演出している。

だが、楽曲の根幹を成しているのは、昔ながらの荒々しいロック・サウンドだ。その中でペリーは味のあるスライド・ギターを披露し、タイラーはデヴィッド・ボウイの「Rebel Rebel」の一節 (“Hot tramp”というフレーズ) をこっそり引用している。

 12. Love In An Elevator (1989年)

エアロスミスの面々は『Permanent Vacation』で自らのサウンドを”アップデート”したが、続く『Pump』はさらに挑戦的な作風となった。同作では「Love In An Elevator」のようなロック・ナンバーでさえも、細かいこだわりと遊び心に満ちているのだ。

実際、同曲の終盤では、なんとアカペラのブレイクまで飛び出す。階を上がり下がりするあいだだけのロマンスを歌った同曲では、タイラーらしい小生意気なユーモアが存分に発揮されている。

 13. Janie’s Got A Gun (1989年)

「Love In An Elevator」に続くヒット曲となった「Janie’s Got A Gun」には、バンドのまったく違った一面が表れていた。この曲でエアロスミスは、児童虐待とそれに対する暴力的な復讐を歌ったのだ。こうしたテーマは、1970年代の彼らの楽曲にはなかったはずである。

そんな同曲の歌詞は、タイトルにもなっているフレーズで幕を開ける。タイラーはこの言い回しを気に入っていて、そこから物語の背景を考案していったのだという。また、この劇的な楽曲を作曲したハミルトンは、ここでもグループの”秘密兵器”としての実力を見せつけている。

 14. Livin’ On The Edge (1993年)

「Livin’ On The Edge」はエアロスミスのシングルとしてはめずらしく、政治的かつ長尺 (演奏時間は6分以上ある) の1曲である。”ロドニー・キング事件”をきっかけとした暴動に着想を得た同曲で彼らは、当時の世界情勢について歌いながら、楽曲を楽観的に締めくくることも忘れなかった。

しかし、注意深く聴くと、この曲にもヤードバーズへのオマージュが隠されていることがわかる ―― 世相を反映したヤードバーズの楽曲「Mister, You’re A Better Man Than I」が歌詞の中で引用されているのである。

 15. Cryin’ (1993年)

7xプラチナに認定されたほか、6曲ものヒット・シングルを生んだ『Get A Grip』は、エアロスミス史上最大のヒット・アルバムとなった。「Cryin’」は、そんな同作の数あるハイライトの一つ。

作曲の時点ではシンプルなバラードとして考えられていたというが、最終的にはヘヴィなリフやホーン隊の演奏を加え、スタックス/ヴォルト作品を意識したようなアレンジに仕立てられた。

 16. Pink (1997年)

エアロスミスはアルバム『Nine Lives』で自分たちのルーツに回帰し、また新たなスタートを切った。その収録曲「Pink」では久しぶりに、タイラーがハーモニカを、ペリーがスライド・ギターを披露している。その歌詞は、普段の彼らより抽象的な形で”性”について歌った内容だ。

この曲で、彼らは4度目のグラミー賞に輝いた。そんな「Pink」は現在でも高い人気を誇っており、ジャネール・モネイによる2018年のヒット曲「Pynk」も、同曲からアイデアを借用した1曲だった。

 17. I Don’t Want To Miss A Thing (1998年)

エアロスミスは、デビューから25年を経て初のナンバー・ワン・シングルを放つという”不可能”を可能にしてみせた。このラヴ・ソングを書いたのは、当時絶頂期を迎えていたダイアン・ウォーレンだ。他方でエアロスミスの面々も、その楽曲を力強いパワー・バラードに仕立ててみせた。

そんな同曲は、エアロスミスのスタジオ・アルバムの通常版には収録されていない。この曲はSF映画『アルマゲドン』の主題歌として制作されたのだが、同映画には、ほかならぬスティーヴン・タイラーの娘であるリヴ・タイラーが出演していた。

 18. Jaded (2001年)

『Just Push Play』は、彼らがポップ路線に接近したアルバムだった。とはいえ、それは昔ながらの意味での”ポップ”であり、同作にはザ・ビートルズからの影響もそこかしこに散りばめられていた。実際、同作の共同プロデューサーを務めたマーク・ハドソンは、リンゴ・スターのアルバムをいくつも手がけていた人物。その中にはジョー・ペリーが参加した作品もある。

そんな『Just Push Play』からの大ヒット曲「Jaded」は、タイラーが娘のリヴとの関係を歌った1曲で、彼らのキャリア屈指に美しいハーモニーも聴くことができる。

 19. Devil’s Got A New Disguise (美獣の皮を被った悪魔) (2006年)

ベスト・アルバムに収録される新曲というものは元来、当たり外れが激しいものだ。だがエアロスミスは、この曲を素晴らしいロック・ナンバーに仕立てた。実のところ、この曲が生まれたのはかなり前のことで、『Pump』や『Get A Grip』に収録することも検討されていたのだという。

ともあれ、ギターを中心に据えたこのヴァージョンは新たにレコーディングされたものである。ラジオ局でも人気を博した同曲を共作したのは、タイラー、ペリー、そしてダイアン・ウォーレンだ ―― “甘口のバラード専門の作曲家”としての彼女のイメージからはかけ離れた曲調である。

 20. What Could Have Been Love (2012年)

アルバム『Music From Another Dimension』の収録曲で、エアロスミスが彼ららしいパワー・バラードに回帰したヒット曲。失恋や後悔をテーマにした同曲でタイラーは、キャリア屈指に感動的なヴォーカルを披露している。

Written By Brett Milano

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