Hilcrhyme (音楽監修) - 映画『尾かしら付き。』自分の作品と思えるくらい深く関わることができました

制限のない仕事をしたいなと思っていた

――以前から音楽監修をやりたかったということですが、実際に監修されていかがでしたか。

Hilcrhyme TOC:

大変でした。実際にやってみるとプレッシャーが凄かったです。その分、できた瞬間の満足度は通常のタイアップとは比にならないくらいもので、思い出に残る作品になりました。3曲も1つの作品に提供することは今までになかったので、自分の作品と思えるくらい深く関わらせていただくことができました。

――どのように作品を捉えて制作されたのですか。

TOC:

最初は原作からでその後に脚本を読み制作をすすめ、映像を観て最後の仕上げをしました。

――映画『尾かしら付き。』は劇伴もピアノの静かな曲がメインで、音楽控えめの作品のように感じました。だからこそ、3つの曲が流れるシーンが物語の重要なシーンだと伝わってきてより印象に残りました。

TOC:

そうかもしれないですね。劇伴作家は別にいらっしゃるのでその編集までは立ち会っていませんが、僕も主題歌が際立っている構成にしていただけたなと感じています。

――映画音楽は映像との親和性が大事なので各シーンとのバランスを取るのは難しいと思いますが、監修ではどういったことを意識されましたか。

TOC:

本作ではセリフのないシーンに曲が来るようにしています。普通のタイアップはOPかEDに来るじゃないですか。

――あとはクライマックスで流れるというイメージですね。

TOC:

そうなんです。そうなると台詞とかぶってしまい、曲が抑えられたり、逆にセリフが抑えられたり、映像か音楽に制限がかかってしまうこともあるんです。そういう制限のない仕事をしたいなと思っていたので、音楽監修をやりたかったんです。

――そこ込みでの音楽監修なんですね。

TOC:

そこが一番大きいです。最近の作品では主題歌の尺が短くなることも多くBGM的に流れるということも多いので、それとは違う音楽も映像もどちらも主となるものを作りたかったんです。

ミュージシャンとしても一人の人間としても成長することが出来ました

――それだけ音楽・映像の親和性を大事に作られているからこそ、曲を聴くだけでシーンが浮かぶんですね。

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ありがとうございます。なかでも主題歌の『UNIQUE』は総括する楽曲になるようにしました。

――そうなんです。個性は時に胸を張って言えないこともあります。本作では樋山那智も宇津見快成も個性をコンプレックスに感じています。『UNIQUE』では、それぞれが思い悩んでいる部分も本当は素敵なものなんだと歌われており、本作のテーマを表していて、水・空気のようにスッと映画になじんでいる楽曲だと思いました。

TOC:

何よりの言葉で嬉しいです。

――楽曲制作に入るにあたって真田幹也監督とお話をされたことはあったのですか。

TOC:

イメージのやり取り位で、音楽に関しては委ねていただきました。音楽監修として、本当に全権を握っているんだなと思いました。

――プレッシャーも凄そうですね。

TOC:

自由な分、責任も大きかったです。プレッシャーもありましたが、自由にやらせていただきました。

――音楽監修をしたことで、楽曲制作スタイルで刺激になったことや気づいたことはありましたか。

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タイアップってどこか今まで、外注的な感覚があったんです。今作では正に内から作っていて自分の作品とも言えるので、役者のみなさん・スタッフのみなさんともチームだという意識が強くもあります。特にこの映画に出ている役者のみなさんはほとんど年下ですし僕の方がキャリアも上のほうなので、大きな目で作品を観れるようになりました。それは僕が新人のころには持てなかったものです。

――若いころは心の余裕も持てませんからね。

TOC:

そうですね。余裕を持てる自分になったというのが一番大きな財産です。ミュージシャンとしても一人の人間としても成長することが出来ました。彼らをリードするくらいの器を意識できるようになったなと思います。

――そうやって得られた気持ちのように、楽曲が映画を包み込んでいるんですね。

TOC:

役者のみなさんに出てくれてありがとうくらいの気持ちも持っています。

――本当にお父さんですね。

TOC:

本当にその通りです。作品もそういう物語になっていますし。

変わらずに投げかけているメッセージ

――出てくる人がみんな暖かい人ばかりでした。イジメのシーンもありましたが、高校生くらいまでは自分の世界が学校と家が中心で狭いので異物と感じたものを弾こうとしてしまっていて。

TOC:

本当にそうですね。小・中学生のころなんかは特に“クラスが世界”・“学校が世界”で、そこしか見えなくなってしまう。子供たちにとってそれはしょうがない事なんですけど、世界は広くて自分の居場所はいろんなところにあるということは大人が教えるべきだと思っています。この作品は正にそういったことを描いています。学校でイジメなどがあったら、転校してもいいです。

――大人でも逃げてもいいんです。

TOC:

そういうことです。選択肢は無限にありますが、学校は何故か逃げ場がないと思ってしまうんです。

――作中でも語られていましたが、「周囲との違いに恐怖を感じたり、変化をなかなか受け入れられなかったり」というのは正にその通りだと思います。

TOC:

埋没してしまうところがあると思いますよね。

――自分が短所に考えていても、人から見ると羨ましいということもありますから。

TOC:

僕もコンプレックスは武器になると思っています。

――個性とはどういうものだと考えられていますか。

TOC:

本当に十人十色で、それぞれが素晴らしいと思っています。個性は誰しもが持っていますが、それに対して劣等感を持つか、肯定感を持つかは人それぞれだと思います。個性に対して劣等感を持つ事は全くないです。そのことを教えたいし、気づいて欲しい。そこは変わらずに投げかけているメッセージです。

自分の経験が元になってできている

――『秘密feat.Yue』は15歳の気持ちに戻って制作されたということですが。

TOC:

この曲はほかと違います。本当にネガ要素一切なしの男女のキュンキュンする楽曲です。学生時代の恋愛って秘密にしなければいけないところもあるじゃないですか。この曲はそんな快成の少年時代の恋愛模様を書いたんです。

――まさに十代の気持ちに戻る楽曲でした。

TOC:

実はこの要素は原作には少ないんです。

――確かに薄目ですね。

TOC:

脚本を見たりしても想像するには限界があったので、自分の中学生時代を思い出して書いた部分もあります。

――そこが良かったと思います。あまり、原作に忠実にと意識し過ぎてしまうと逆に薄くなってしまいますから。

TOC:

本当にその通りだと思います。タイアップ作品だとしても楽曲は自分の経験が元になってできているんです。

――そういった部分が、観客と作品とを繋いでいる部分でもあると思っています。自分の想いものせて良いと思える。個性を全面に出す作品が悪いわけではないですが、観客と制作者の距離が出てしまうのは良い事ではないですから。

TOC:

音楽もそうだと思います。聴き手を意識して作るものとそうじゃないものどちらもあっていいんですけど、聴いてくれる人が居ないと作る意味がないので、どちらかというと僕は聴き手を意識して作っています。

――その意識は何か経験があって持たれたのか、もとからそういう意識を持っていたのかどちらですか。

TOC:

元々、大衆向けの音楽の方が好きだからなんだと思います。その部分とHIP HOPが混ざったという感覚です。若手で見向きもされない時代に、巻き込む力がないとダメだと考えていたのかもしれないですね。もちろんコダワリもありますが、僕はそこは柔軟だったと思います。

――その視点があるからこそ、音楽監修というお仕事に興味を持たれた部分もあるかもしれませんね。

TOC:

本当にいいお仕事をいただけました。誰にも来る仕事ではないので、凄くいありがたかったです。感無量ですね。

彼女への応援歌という裏テーマになっているかもしれない

――完成した映画を観られていかがでしたか。

TOC:

とても良かったと思います。分かりやすく、綺麗で、曲もいい(笑)。

――それはもちろんです。

TOC:

特に多様性という意味で今このテーマは凄く重要だと思います。

――理想論だけで描かれていないのも良かったです。

TOC:

現実も描かれていますね。

――いろいろな理由でその人の個性を受け入れられない人も居るのはしょうがないです。であれば、適度な距離をとることが大事です、受け入れないのはオカシイと押し付けるのもそれは暴力ですから。

TOC:

その通りですね。

――快成も那智も相手のことを理解したうえでの行動でしたから。

TOC:

快成にシッポ生えていますが、どちらかと言うとしんどいのは那智なんじゃないかという思いもあります。ちょっとだけですけどね。

――那智が物語の中心である部分が多いですから、そう感じるのかもしれないですね。

TOC:

なので、楽曲も那智寄りの視点で書いています。

――そうだったんですね。

TOC:

はい。

――キャストのみなさんと楽曲に関してお話しされたことはあったのですか。

TOC:

那智役の大平采佳さんとは事務所が一緒なので「頑張ってね」という感じで少し話をしました。彼女は初出演・初主演の新人ですし、少し親的な目線もありますね。

――そこもお父さん目線なんですね。

TOC:

こんなお父さんでいいのかな(笑)。

――いいお父さんです。

TOC:

彼女への応援歌という裏テーマになっているかもしれないですね。

――そんなに父性満タンだったとは思いもしませんでした。

TOC:

そういっていただけると嬉しいですね(笑)。これから舞台挨拶もあって、役者のみなさんとも会えるのでいろいろとお話聞きたいです。

――一番いい席で聞けますね。

TOC:

そうですね。

――私もこうやっていい話をたくさん聞けて、改めて映画を観返したいと思いました。

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何よりです。何卒宜しくお願い致します。

【音楽情報】Hilcrhymeが劇場⾳楽を担当し3 曲提供。

主題歌「UNIQUE」

Music Video DL&サブスク

「秘密 feat. Yue」

Lyric Video DL&サブスク

「走れ」

2023年秋 デジタル配信予定

©佐原ミズ/コアミックス ©2023 映画「尾かしら付き。」

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