【特集ザ・作州人】岡山大教授・内視鏡スペシャリストの河原祥朗さん 胃がん撲滅目指すスーパードクター

今回の「ザ・作州人」は、岡山大学教授にして内視鏡治療のスペシャリストでもある河原祥朗さん(58)に登場してもらった。医師を志したのは中二の時、最愛の父を胃がんのため、42歳の若さで亡くしたことがきっかけ。以来「胃がん撲滅」を目指し、治療の現場に携わる一方で、AIを活用した診断システムを開発し、その普及にも力を入れている。

実は河原さんとは高校の同級生。その活躍は風の便りで聞いていた。医学部の大学教授をしているというから小説「白い巨塔」の〝財前教授〟のようになっていたらどうしようと心配していたが、河原さんは朗らかな河原さんのまま。たぶん〝里見先生〟に近い気がした。

しかし、知らないこともたくさんあった。そのひとつ、医師を目指した理由を聞くと、岡山県津山市立津山西中2年生の時、父親が胃がんで急逝したことだと言う。

「42歳という若さ。分かってからわずか2カ月でした。悔しさとつらさの中、こんな思いをする人を減らしたい。医者になって、胃がんを撲滅させると心に誓ったんです」

その決意は揺らぐことなく、京都での1年間の浪人生活を経て難関の岡山大学医学部に合格。真っ直ぐに医師の道を歩んできた。

「男兄弟3人の長男なんで、落ちるわけにはいかなかった。あの1年間は必死で猛勉強しましたよ」

1990年に岡山大学卒業。医師国家試験に合格し、研修医として広島県の福山市民病院や岡山県の津山中央病院に勤務した。スタートは循環器内科だったそうだが、やがて目指していた消化器内科へ。その後は大学に戻り、5年掛けて博士号を取得し、再び治療の現場に戻った。

津山中央病院では緊急内視鏡に携わる医師が1人しかおらず、自身が胃潰瘍になるほどの激務だったと苦笑いする。しかし、ここで腕を磨き、いまでは国内で5本の指に入るほどの内視鏡治療の権威になった。そして2005年には「ペンタックス」と力を合わせ、河原さんが持つ内視鏡と電気メスのアイデアを形にした。その後も使いやすさを求め、改良を重ね続けているという。

実際、胃がんの治療は外科手術が減り、内視鏡手術が8割を超えているとのこと。5年後にはほぼ100%になるとの見方もある。しかし、河原さんがすごいのは2018年にAIを活用した精度の高い診断システムを開発。「両備システムズ」と連携し、運用を開始している点だ。これは医療業界でも大きな話題となった。

「初期段階での正確な診断は患者さんにとっても国にとっても、ものすごく大切です。今後は精度を高めるとともに、実用化して世界各国へ広め、胃がん撲滅につなげていきたい」

少年時代の熱い思いを形にしようとする河原さんには感心するばかりだが、ある意味でもっとすごいことがある。あまり大きな声で言えないが、それは高校時代にB’zの稲葉浩志さんと同じソフトテニス部に所属し、いまでも交流していることだ。

「中学校は違ったけれど、そのころから稲葉はいい選手でした。ありがたいことに、高校でたまたま同じ部だったことからいまでもたまにライブに行くけど、すごいのひと言です。それと、いつ会っても真面目で謙虚。励みになります」

そう言って、笑顔を浮かべた河原先生は週に1回、津山中央病院で診察をしている。スーパードクターとして、頼りにされているのは言うまでもない。(山本智行)

◇河原祥朗(かわはら・よしろう)1965年1月17日生まれの58歳。津山西中から津山高を経て岡山大学医学部へ。1990年に卒業し、福山市民病院、津山中央病院で勤務後、研究室に戻り、博士号取得。現在は教授・医学博士。専門は消化器内科。趣味はカメラ。

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