4万6千年 長すぎる眠りから起こされた虫のご機嫌

島根大学総合博物館に並ぶ長野菊次郎の標本コレクションの一部=松江市西川津町

 長すぎる眠りを起こされた虫のご機嫌はどんなだろう。シベリアの永久凍土で約4万6千年にわたって休眠状態にあった線虫の蘇生に成功したとする論文が先月、ドイツやロシアの研究チームによって発表された。

 時間軸はずっと短いが、松江市西川津町の島根大学総合博物館アシカルで、眠りから覚めた130年前の植物標本が、企画展として並ぶ。作成者は植物学にも精通した昆虫学者・長野菊次郎(1868~1919年)。日本の植物分類学の父とされる牧野富太郎とも交流があり、日本の植物学の黎明(れいめい)期を支えた一人だ。

 島根大には長野の1411点もの標本が残る。明治期の標本は、大半が東京大などの旧帝大や国立科学博物館に保管され、地方大学に存在するのはまれ。長野と同じく福岡出身で、島根大の前身である旧制松江高校で植物学の教授を務めた古海(ふるみ)正福(まさとみ)(1888~1930年)が譲り受けた可能性があるという。

 旧制校の資料として箱に入れられたまま眠り続け、10年前に学内で発見された。そのおかげだろう。保存状態が良く、葉や花の色が残る。

 もりもりとした麻、当時の華やかさを思わせるヒナゲシ…。絶滅危惧種となったものもある。長野が各地で見つけた植物の先にはどんな日本が広がっていたのか。近代化する時勢をよそに小さくとも強い生命力がそこら中に満ちていたことが標本から伝わる。企画展は来月2日まで。

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