人気再燃! 早すぎた実写マリオ映画『スーパー・マリオ 魔界帝国の女神』を今こそ全力評価!! 4K上映も決定

『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』© 1993 Allied Filmmakers N.V. © 1993 Nintendo

「ゲーム映画」の黒歴史

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が大ヒットしている。

先日観賞したが、マリオの世界観はもちろん、全ての時代を押さえていて、俺の世代としては“たぬきマリオ”が活躍したり、ディディーコングのカメオ出演なども嬉しかった。

世界観を追求するあまり、城に行くまでに何回コンティニューしなければならないのかってくらいルートが複雑なピーチ城、『マッドマックス』より無法状態のスターロード(マリオ役のクリス・プラット)には爆笑したが、ボロボロになりながらも、本当は苦手(!?)なキノコをムリヤリ口に突っ込んでは立ち上がるマリオの姿は、胸に迫るものがあった。

その一方で、長らく黒歴史扱いされてきた作品がある。1993年の実写マリオ映画、『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』だ。

令和の時代感覚で見ても攻めすぎなヘアスタイルのデニス・ホッパー演じるクッパを筆頭に、原作からかけ離れたビジュアル。「リアルタイムアタック(クリア速度競技)に挑戦してみたぞ!」と言わんばかりに強引に進むストーリー。そして“公開が『ジュラシック・パーク』と同時期”という悲運すぎる背景も重なり、興行収入的にも大失敗だった。

しかし、公開当時8歳だった俺としては、この場を借りて全力でこの作品を庇いたい。
すごい映画だったんだ! ここはどうか俺を信じてくれ!!

ということで、以下にいくつか見どころを記しておく。

『スーパー・マリオ 魔界帝国の女神』3つの見どころ

1.アメリカに殴り込んだ英雄

1993年といえば、現在よりも活躍する日本人が少なかったハリウッドはもちろん、野茂英雄がメジャーリーグに挑戦する前、アニメも“クール・ジャパン”じゃなかった時代。アメリカはめちゃくちゃ遠い国だった。子供心に「日本人がアメリカで活躍するのは無理」と思っていた時に飛び込んできたのが、マリオのハリウッドデビューだった。

「すごい! マリオがハリウッドに飛び込んだ!!」

俺は興奮のあまり読んでいたコロコロコミックを引きちぎりそうになった。

2.あの頃、マリオは“平面”だった。

確かにゲーム版「マリオ」からは大きくはみ出した『魔界帝国の女神』だが、公開当時はリメイクゲームの先駆けとなった「スーパーマリオコレクション」の発売直前。マリオはまだシンプルなドット絵だった。当時の状況を知らないと「原作を無視してる」と憤慨しかねない内容だが、原作そのものの情報が少なかったため、映画にするには世界観を作るしかなかったのだ。

横に走るかジャンプするくらいしかできなかったマリオが、ボブ・ホスキンス演じる渋い中年オヤジになった。クッパが支配する世界は、優しそうなおばあさんから「金を出せ」とスタンガンで脅されるほど治安が悪い。そして爬虫類の頭をしたグロテスクな怪物たち。

「あのマリオがこんなことに……。やっぱりハリウッドはすげぇ!」と、これまたうっかりスーパーファミコンを蹴飛ばしてデータを消してしまう俺だった。

3.スーパースコープ

『魔界帝国の女神』劇中でも登場した「スーパースコープ」が、公開に先駆けてスーパーファミコンの周辺機器として発売された。バズーカのようなスーパースコープを肩に背負って遊ぶ姿は客観的に見て不気味でしかなかったが、これがまたおもしろかった。

当時の大人たちからすればおかしな映画だったかもしれないが、子供から観た実写版マリオは「ハリウッドに進出した日本代表」「マリオがめちゃくちゃカッコよくなった」と、文句なしの傑作だった。あの時、俺に映画館に行くだけの金があれば興行収入に1300円は貢献できたはずだ。

今回『魔界帝国の女神』を観返してみて、やはり子供の頃の記憶どおり、「リアルタイムアタックを目指したので伏線は回収しません。何ならワープも使います」と言わんばかりのストーリーだったが、メイキング映像も観たところ、これは当時の製作現場の混乱によるものだったようだ。

上層部から降りてくる注文。あっという間に減る予算。疲弊するスタッフたち……。デニス・ホッパーは毎回変わる脚本にブチ切れ、ボブ・ホスキンスとルイージ役のジョン・レグイザモは撮影中に飲酒していたらしい。

ハリウッド仕様の大胆アレンジ! ブルーレイには豪華特典付き

話は逸れるが、「失敗作」と評される映画は現場の混乱が原因であることが多い。超大作を成功させるスティーヴン・スピルバーグやルッソ兄弟、ジェームズ・ガンあたりは、本人の才能はもちろん世渡り上手でもあるのだろう。

『魔界帝国の女神』に一つ苦言を呈するならば、日本公開時は登場キャラクターを日本での呼称に戻すべきだった。全て海外の呼称のまま公開されたのでインターネットもない当時は気づけなかったが、

・クッパの手下の恐竜人間たち「グンバ」はクリボー
・悲惨な運命を辿るパンク風のストリートミュージシャン「トード」はキノピオ
・マリオと捕食し合うようなキスをキメる豊満な女性「ビッグ・バーサ」は巨大プクプク

と知っておけば、その大胆なアレンジをもっと楽しめたはずだ。

荒廃した街並み、退化させられて爬虫類や猿にされる結構グロテスクな設定、クッパと泥風呂で戯れるエロい愛人、「もう一発殴ってくれ。たまらなかったぜ」とプクプクを強烈に口説くマリオ……。ゲーム原作としてだけでなく、ディストピア映画としても注目すべき作品だ。

いま観るとCGのクオリティは微妙に感じるかもしれないが、“1993年”の背景を知った上で観賞すれば、いかにインパクトのある作品だったかがわかるだろう。

長らく黒歴史扱いされた本作も、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の大ヒットもあってか、ここにきてブルーレイが飛ぶように売れているらしい。現在購入できるブルーレイには当時の蔵出し秘話が載った冊子が付属している。任天堂の山内社長の粋なエピソードなど貴重な裏話がたくさん書かれているので必読だ。

まだまだ興収記録を伸ばし続ける『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』だが、あえて友達や恋人を家に招いて『スーパー・マリオ 魔界帝国の女神』を鑑賞してはいかがだろうか? きっとスマッシュブラザーズ以上の大乱闘になるはずだ。

文:デッドプー太郎

『スーパー・マリオ 魔界帝国の女神』字幕版/地上波吹替版はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年8月放送

『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』4Kレストア版は2023年9月15日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

© ディスカバリー・ジャパン株式会社