未来の森をデザインする。未経験から始めた「木こり」という職業『桑原直人さん』【福島県田村市で暮らす人々】

田村市船引町

フォレストクリエイト合同会社 代表社員 桑原 直人さん


豊かな自然を誇るあぶくま高原に位置し、市内の約7割を森林が占める福島県田村市。山や森からの恩恵によって支えられてきた暮らしは、いつの頃からか、時代の流れとともに「山林=邪魔なもの、危険なもの」と考える人が多くなった。

「『山林=負の遺産』という考えを、『山林=未来に残したい宝物、財産』に変える。それが自分の使命です」

そう話すのは、田村市出身の「木こり」桑原直人さん。20歳の時に未経験から林業の道へ進み、2023年、ついに自分の会社を立ち上げた。

「依頼主のお困りごと相談」から入るコミュニケーション重視の林業は評判を呼び、お客さん(個人)の半数はリピーター。補助金には極力頼らず、売り上げの80%を事業収入で賄えているというのも林業業界では珍しい。

「自然愛」が止まらない桑原さんの、木こり人生に迫る。

「ハローワークで『森』と検索したら出てきたから」就職した森林組合

桑原さんが生まれ育ったのは田村市船引町。配線工事等を請け負う電気屋を経営していた両親の元、4人兄弟の次男として誕生した。

実家は自然に囲まれた場所にあり、幼い頃の遊び場といえば裏山だった。兄弟と一緒にカブトムシを捕ったり、自分たちでブランコを作ってみたり。少し大きくなってからは、裏山を舞台に本格的なサバイバルゲームを楽しむなど、活発な子供時代を過ごした。

ただ細かい作業や調整は苦手。両親の手伝いで配線工事の仕事を手伝うこともあったが、絶対に間違いが許されない緊張状態での作業や、大工をはじめ他の工事関係者の迷惑にならないよう気を配りながら進める仕事に、自由さは感じられなかった。

就職活動が始まったころには

「もっとのびのび、自由にできる仕事はねぇのかな…」

そんなことを考え始めた。

「自由と言えば…小さい頃遊んだあの森だな」

ということで、ハローワークに行き「森」と検索してみた。画面に出てきたのは地元で活動する「田村森林組合」の求人。

「よし、受けてみよう。ダメだったら実家の電気屋で働こう」

結果は見事採用。後々聞いた話では、なんとこの時10倍以上の倍率を突破していたそうだ。

棒1本で仕事ができた!「面白しれぇーー!!!」

そうして就職した森林組合。最初は山の「育林部門」を担当した。植林や下刈り(苗木の周りの草刈り)などを通し、木を守り育てていく仕事だ。

中でも印象的だった仕事が「地拵え(じごしらえ)」という植林前の整地。

「切った後出荷しなかった木を堰(せき)のようにまとめて積んでいくんだけど、最初『自分の身長くらいの棒探してこい』って言われるわけよ。木の棒。で、みんなでそれを木の下に入れてテコの原理で転がすと、落ちている枝や葉っぱがどんどん絡みついて雪だるま式に木が丸く膨れて、山を転がっていくんだよね。なんかもう『面白しれぇ-!!!!!』って感じ。しかも棒1本でできるからね!」

そうして整地した場所に、新たに木を植えていく。

「今でも自分が植えた木を見に行くことはあるけど、『自分の子ども』というよりは『戦友』に会いに行く感覚。だって人が手を加えなくても、本来木は勝手に成長していくわけだから。『一緒に頑張っていこうぜ!戦友』っていう感じかな」

【写真ご提供:フォレストクリエイト合同会社】

「所有者の理想が反映された森づくりがしたい」と個人事業を立ち上げ

「育林部門」で働いた後は、伐採・出荷がメインの「素材製作部門」でも経験を積んだ。
気がつけば森林組合で働いて12年が過ぎていた。仕事に飽きるということは全くなかったが、その間に2つの「想い」が桑原さんの中で少しずつ膨らんでいた。

1つは森に対する「感謝」の想い。

「森は人の生活に不可欠なものを無償で提供してくれる。いつも自分たちはもらってばかり。それなのに、森に無関心でいるっていうことは森に対してすごく失礼じゃないかなって。『森を守る』ことの大切さを色んな人に伝えることが、林業に携わる自分の義務でもあり、森への恩返しになるんじゃないかっいう想いはずっとあったかな」

2つ目は「各々が所有する森に対して、『こういう森にしたい』という理想像が見えてこない」ことへの違和感。

「森というのは人がやることに対して否定も肯定もしない。だからこそ森には無限の可能性がある。森自体を子どもや孫への財産として残すこともできれば、それこそ『危ない森』『売れない山林』という負の遺産として残すこともできてしまう。だからこそ、所有者がどういう森を残したいのかを自ら考えること、それが大事だと思うんだよね」

この2つの想いは段々と桑原さんの中で「譲れない想い」となっていった。そして2015年、自分のやりたい林業をカタチにするため、桑原さんは森林組合を退職、個人事業主となり再出発することを決めた。

【写真ご提供:フォレストクリエイト合同会社】

所有者の「困りごと解決」から「理想の森づくり」への転換

個人事業主として新たに「フォレストクリエイト桑原」を立ち上げた桑原さん。仕事の依頼主はほとんどが個人のお客様だ。森林組合時代にはできなかった「お客さんと直接顔を合わせ、要望を聞き出す」ことができるようになった。

「木の枝が屋根にかかって困っている」

「木が電線に接触しそうで怖い」

「腐った木が家に倒れてきそうだ」

重機が入れないことが多い個人宅での作業に対応するため、新たに特殊伐採と呼ばれる技術も身に着けた。

「直接お客さんと話ができるって最高だよ?最初はただ『困るから木を切ってほしい』っていう要望だけのことが多いけど、作業期間を通して何回も話をしていると、段々ともっと深いニーズや森に対する想いが見えてくる。そうした想いを汲んで、どう解決できるかを提案したり、一緒に考えたりすると、お客さんの困りごと解決になるし、それが自分の次の仕事にもつながるんだから!!」

【写真ご提供:フォレストクリエイト合同会社】

こうしたコミュニケーション重視の仕事ぶりは好評で、今では400件近い個人様からの依頼の内、半分ほどがリピーターだ。

「特に気を付けているのは、お客さんに『森の可能性』を話すこと。50年後、子どもや孫に建材として価値ある木を残すこともできるし、色んな事業に活用することもできる。『おまえの好きな時に売っていいぞ』ってお金になる森を残してくれたら、そりゃあ家族には感謝されるよね」

自分の山林に無関心、もしくは負の遺産として見ていた人が「こういう森を未来に残したい」という想いを抱けるようにすること、それが桑原さんの目指す林業であり、「フォレストクリエイト」(=(理想の)森をデザインする、創造する)という屋号の由来だ。

今年、事業を法人化。伝え続ける「森を守る大切さ」

どんどん拡大していく事業に合わせ、今年2023年には「フォレストクリエイト合同会社」として法人化した。が、基本的にやっていることは変わらない。

山林所有者の困りごと解決、森の創造、そして多くの人に自然に親しんでもらうためのワークショップ(丸太切り、薪割体験、木工教室、山の中でのミッション達成型ゲーム)などの開催だ。

プライベートでは、自身の子どもたちが自由にできる遊び場を作りたいと、数年前、自分が幼い頃に遊んでいた裏山を買い取り家を建てた。

「いずれはここが近所の子どもたち、大人たちのたまり場になればいいなと思ってます。椅子と東屋、BBQができる場所位は用意して。秘密基地を作ってもいいし、ブランコを作ってもいいし、山に想像力を働かせればなんでもできちゃうからね」

【上2枚 写真ご提供:フォレストクリエイト合同会社】

「森はすごいよ、すごくね!?」自然愛が止まらない!

インタビュー中も、話の端々から桑原さんの森や自然に対する尊敬の念や愛情があふれ出でくるのがわかる。改めて桑原さんにとって森はどういう存在か、聞いてみた。

「それね…説明できないんだよね。言葉にするとどれもしっくりこないというか、安っぽく聞こえてしまうというか…。近い単語を並べると、『畏怖』だったり『恩』『感謝』『大好き』『尊敬』『恐怖』、そのあたりが全部混ざった感じかな?

もうね、とにかく森はすごいんだよ、すごくね!?いつだって人の想像を超えてくるからね。その生命力もすごいし、人や他の生物の命をいつも何も言わず、見返りも求めず支えてくれている。もうほんと…『すごい』しかないんだよね」

桑原さんがみている「森のすごさ」。このすごさを本当の意味で理解するには、木こりになるのが一番かもしれない。

移住検討者にひとことお願いします

「社員、募集してます!!(笑)」

今は桑原さん含めた社員3名に加え、一人親方で手伝ってくれる人も数名いるが、仕事の依頼が増えているため人手は足りていないそうだ。

会社で一番若い社員は高校でのインターンがきっかけで入社した男性。

「最初入社した時はひょろっとした体つきだったのが、この3年で逆三角形のムキムキになったからね。木こりになると『木こザップ』(木こり+ライザップを掛け合わせた桑原さんオリジナルの造語)できるよ(笑)」

と木こりの魅力を語る。

「林業は誰にでも始めやすい職業だと思う。自然が好きであれば、特に資格も学歴も必要ないからね。好きなことを仕事にしやすい職業でもあるよね」

中には未経験から林業の道に進んで1年で独立した人もいるそうだ。最初から独立して、どこかの林業団体で修行しながら経験を積む方法だってあると桑原さんは話す。

「森は人のすることを肯定も否定もしないんだから、可能性は無限。でもだからこそ、自分が試されているような気にもなるんだけどね」

「日々、楽しく」がモットーである桑原さん。適当に見えても、ふざけているように見せても、その中に潜む人や自然に対する真っすぐで真剣な思いやりがあるからこそ、いつも彼の周りには人が集まってくるのだろう。

フォレストクリエイト合同会社

住所: 福島県田村市船引町永谷山中12
電話: 090-3644-1956
メール: tamura.ouentai@kra-sta.com
HP: https://forestcreate-kuwahara.studio.site/page
Instagram: https://www.instagram.com/kikori_desu/

この記事を読んで田村市での生活に興味を持った方、移住を検討している方は、お気軽にたむら移住相談室へご相談ください。

たむら移住相談室

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