<書評>『沖縄文学は何を表現してきたか なぜ書くか、何を書くか』 「書く」ことへの思いを知る

 沖縄文学作品のアンソロジーは数多くあるが、沖縄の創作者自身による論考を集めた本はこれまでありそうでなかっただけに待望の一冊が刊行された。本書は、又吉栄喜の巻頭言、第I部に昨年沖縄大学で開催された「沖縄文学を考えるシンポジウム」、第II部と第III部に小説・詩・短歌・俳句の書き手37人の文章を収めたものである。

 第I部の大城貞俊の基調報告では、沖縄文学の特質と可能性が語られ、富山陽子、トーマ・ヒロコ、安里琉太、屋良健一郎、崎浜慎によるパネルディスカッションでは、「沖縄で文学することの意味」、アイデンティティー、言葉の問題、文学と政治の問題について議論が展開される。第II部以降では、沖縄で表現活動をする者として、「なぜ書くか、何を書くか」という編集委員からの問いへの応答がまとめられている。小説、詩、短歌、俳句の現場から紡ぎ出された論点は多岐にわたるが、多くの書き手が作品を書くに至る動機が書かれ、本や人々との出会いだけでなく、どのような政治体験を経て表現者となったのかも知ることができる。

 また沖縄県内の文学賞の選考委員や受賞者のジェンダーバランスの背景に男女の経済格差等を指摘する分析も興味深かったが、不平等な社会で表現する困難さをくぐり抜けた詩の言葉の強度に圧倒された。他にも「沖縄文学」というくくりへの違和感、伝統的な季語への疑義、表現に「沖縄」を求められることへの葛藤などが書かれる一方で、「らしさ」の押しつけによる暴力への抵抗、シマクトゥバで表現する可能性、日本語で「沖縄」を表現することを問いなおす試みなども提示される。いまを生きる沖縄の文学者たちの「書く」ことへの思いを知り、それぞれの作品を読みたくなる衝動に駆られる読後感を持った。

 編者の崎浜慎は、あとがきの中で文学研さんの場となる新たな文芸誌発刊の望みを書いているが、沖縄の文学賞を主催する県内2紙が共同で発刊することはできないだろうかと想像しつつ、沖縄文学を切り開く言葉が交響する本書を閉じた。

(我部聖・沖縄大教員)
 またよし・えいき 1947年浦添市生まれ、小説家。
 おおしろ・さだとし 1949年大宜味村生まれ、元琉球大教授、詩人・作家。
 さきはま・しん 1976年沖縄市生まれ、作家。

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