「魔の丁字路」で事故多発のワケ…専門家が警告する“心霊スポット”ドライブの「怖すぎる」リスク

ドラムクッションと矢印看板が異様な昼間の「やまびこ大橋」(弁護士JP編集部)

神奈川県清川村「やまびこ大橋」や、沖縄浜比嘉島の県道238号など、壁面への衝突事故が相次ぎネット上で“心霊スポット”とも呼ばれる丁字路交差点がある。

やはり事故が多いからなのか、いずれの丁字路も正面にはドラムクッションや反射板をつかった矢印看板が所狭しと置かれている。これらの丁字路は道路状況や地形などに“事故原因”があるのか。それともやはり目に見えない何者かの仕業なのだろうか…。

安全心理学が専門でトラックドライバーの経験も持つ島崎敢氏(近畿大学准教授)に、「やまびこ大橋」と沖縄県比嘉島の丁字路を「Google ストリートビュー」で見てもらい、事故が起きやすい道路と言えるのか確かめた。

“橋”の走行はスピードが出やすい?

冬に撮影された「やまびこ大橋」丁字路。電光掲示板には“路面凍結”の文字(グーグルストリートビューより)
「沖縄浜比嘉島」丁字路。矢印看板やドラムクッションは新しい印象(グーグルストリートビューより)

「まずどちらも“橋”の先が丁字路になっていますね」(島崎氏)

島崎氏によれば、橋は直線が続くためスピードが出やすいという。また、横に建物などがないことも多く「オプティカルフロー」と呼ばれる“視覚から得る速度情報”がなくなりやすいと話す。

「人は運転中、速度計以外にも目に映った建物や木などからも速度を感じています。周囲がずっと同じ風景だと、自分が今どの程度の速度で走っているかがわかりにくくなってしまい、自分の想像よりもスピードが出ていることに気づきにくいという特徴があります」

街中とは違い、歩行者が突然死角から飛び出てくる可能性も低い橋では、ドライバーが景色を見たり、スマートフォンをチェックしたりなど運転以外に気を取られることもあるそうだ。「そうしている間に丁字路に進入、曲がり切れずにぶつかってしまうこともあるのでは」と島崎氏は推測する。

さらに、「沖縄には当てはまらないが…」と前置きしつつ、橋は、下を風が通り抜ける構造上、凍結しやすく、冬場は特にブレーキが利きにくい場合があることも指摘。たしかに、やまびこ大橋での直近の事故は今年1月、冬の時期に起きている。

しかし島崎氏は「ここまでドラムクッションや矢印看板があって、街灯もあり、やまびこ大橋には信号もある…。普通に、前を見て運転していたのだとすれば、正面の壁面にぶつかるのは考えにくい」といぶかしがる。

「眠くてうとうとしていた、景色を見ていた、スマホを見ていた、あとはまさかいないとは思いますが、肝試し感覚でヘッドライトを消していた…こういうことならわかりますが…」

心霊スポットめぐりが危険な理由

事故が多発し“心霊スポット”として有名になった道路は、前出の2か所に限らない。トンネルや交差点、ダム周辺など、全国各地にいわくつきの道路が存在している。

「幽霊はいる」と言い切る島崎氏。「現実にいるかどうかは私にはわかりませんが、幽霊を見たと言っている人、信じている人の心の中に幽霊がいるのは間違いありません」と話す。そして、肝試し感覚で心霊スポットに行くことについては「絶対におすすめしない」という。

「幽霊のせいで事故が起きているとは考えていませんが、心霊スポットなどを運転中、ドライバーが『幽霊が出るかも…』と考えることは、事故のリスクをあげていると思います」(島崎氏)

2017年には、埼玉県秩父市浦山の県道で“心霊スポットめぐり”をしていた18歳の4人が車ごと崖下に転落し死傷する事故が起きた。

「心霊スポット、あるいは事故多発地点を運転しているという、自分の生死にも関わるような重大な情報は、ドライバーにとって大きなストレスになります」と説明する島崎氏はその意味について続ける。

「アメリカで行われた研究で、高速道路脇にその道路での死亡者数の表示が書かれていると、かえって事故が増えるという結果が出ています。看板通過地点から近いほど事故は増加していて、看板に書かれた死者数が多いほど事故を増やす効果も大きくなっていました。本来運転に向けるべき注意が、他のところに向いてしまうということでしょう。

日常生活でも、たとえばシャワーを浴びている時などにふとホラー映画を思い出して目が開けられなくなったり、後ろを振り返れないという経験がある人は多いと思いますが、怖いと感じると人は緊張します。『急いでここから立ち去ろう』とスピードを出してしまうといったことは十分に起き得ます。さらに同乗者がふざけて叫んだり、アクシデントが起これば、正常判断ができなくなってしまう可能性があり、とても危険です」

前出2017年の事故は、当時の報道によると、車の左側が山の斜面、右側が崖という道路を走行中に50cmほどの落石に接触。その衝撃でエアバッグが開いた状態で対向車線と歩道に進入、ガードフェンスを突き破って崖下に転落したようだ。18歳という年齢や、崖が近いなど緊張を強いる地形であったことなど、さまざまな要因が重なって起きた悲劇だろうが、「心霊スポットに向かっている」という恐怖心も少なからず影響した可能性があったのかもしれない。

心霊スポットが“生活圏内”にあったら…

心霊スポットになっている道路が生活圏内にあり、どうしても避けては通れない時の心構えなどはあるのだろうか。

「心霊スポットで起きる事故は人々の印象に残りやすいです。他の道路と比べて本当に事故が多いのかは、交通量なども踏まえて検討する必要があります。ですから、ひとまずは冷静に落ち着いて通るのが良いと思います。

ただ、私は怖がりなので、心霊スポットと知っていて通らなければならない時は、なるべく明るいうちに通るようにしたり、明るい音楽を聴くなどの対策をすると思います」(島崎氏)

これからの季節、涼を求めて“肝だめしドライブ”を計画している人もいるかもしれない。しかし、危ない橋を渡らないことも大切ではないだろうか…。

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