平成30年7月豪雨から5年、令和5年度末の完成を目指して進む真備緊急治水対策プロジェクトの今

平成30年7月豪雨から5年の節目を迎えた倉敷市真備町。

真備町では2023年現在もあちこちで工事が続いており、町の風景も変化し続けています。

私も真備町に住んでいますが、目の前の工事が「今よりも安全になるため」におこなわれていることはわかっても、「どんなことをしているのか」「いつ完成するのか」は詳しく知りません。

真備緊急治水対策プロジェクト(以下 プロジェクト)の今のようすを、高梁川・小田川緊急治水対策河川事務所の濱田靖彦(はまだ やすひこ)所長へのインタビューをまじえて紹介します。

小田川合流点付替え工事のようす

プロジェクトの中心となる小田川合流点付替え工事は、小田川と高梁川の合流位置を4.6km下流へ付替え、大雨時の河川氾濫リスクを軽減させる事業です。

令和5年7月時点の工事のようすを、写真で紹介します。

▼現在の小田川と高梁川の合流地点のようす。

左手に見えている堤防が右手の堤防とつながり、手前に流れる小田川と奥側に見えている高梁川が分離されます。

堤防には緑化のために芝が植えられ、「小田川付替えR5年度完成予定」の文字も緑色の芝へ変化しました。

▼新柳井原橋が令和4年8月17日に開通しました。

橋の下は掘削がおこなわれており、この下が小田川の新しい流路となります。

この新柳井原橋のさらに下流が高梁川と小田川の新しい合流点になります。

新柳井原橋から下流を望む

▼南山は掘削工事が完了し、令和5年6月21日に付替え後の県道の供用が開始されました。

▼船穂町柳井原に整備中の河川防災ステーション。

この河川防災ステーションは、普段は公園として利用できますが、緊急時には水防活動の準備を行う場所や、前線の基地として活用されます。

ブロックなどの資材の備蓄もでき、ヘリポートも備えます。

高梁川・小田川緊急治水対策河川事務所の濱田靖彦所長へのインタビュー

プロジェクトの中心となる小田川合流点付替え工事や、工事以外に実施しているソフト事業などのお話をうかがいました。

──小田川合流点付替え工事は令和5年度末で完成予定ですが、現在の工事の進捗などについて教えてください。

濱田(敬称略)──

事業は予定どおりに進み、令和5年7月時点では81%が完了しています。

堤防に「令和5年度末完成予定」と大きく書いてあるので、遅らせることはできないぞというプレッシャーがあります(笑)

集中豪雨や台風で川が増水しやすい時季に入っていますが、平成30年7月豪雨災害以降、河道の掘削や堤防強化などを進めてきています。

ただ、合流点付替え工事が全て終わっていない今の状態では、まだ十分な効果を発揮できません。

被害が出ないことはもちろん、工事が手戻りになるようなこともなければいいなと思っています。

──小田川合流点付替え工事は「河川激甚災害対策特別緊急事業(激特事業)」としておこなわれていますが、通常の公共工事との違いはありますか?

濱田──

やはりスピード感が違います。

もともと10年間でやる予定だったものを5年前倒しでやっているので。

新型コロナウイルス感染症流行の間もスケジュールが遅れることなく進んでいるのは、施工業者のかたのおかげだと思っています。

私がいくら「今年度中に完成させます」と言っても、実際に動いてくれる施工業者さんがいなければ工事は進みませんから。

──出前授業や地域の防災イベントなど、5年間積極的にソフト対策に取り組まれてきましたが、真備町の変化は感じますか?

濱田──

真備町ではこの5年で防災意識が醸成していると感じます。

大雨以外の地震などの対策にも取り組まれるようになりましたし、この防災意識の高さは真備町の強みだと思います。

地域の防災の取り組みも、最初の頃は積極的にかかわり一緒に考えたりもしていましたが、今は困っているときに少しお手伝いをすれば、地域のかただけでどんどん動かれます。

最近は、真備町以外からも出前講座などの声がかかるようになってきていて、防災の重要性の認識が高まっていることを感じます。

まずは、災害のニュースを見たときに「あそこは大変だね」で終わらせるのではなく、「自分たちはどう行動すればいいか」を考える機会にしてほしいです。

──これからの真備町に「こんな町であってほしい」という期待があればお聞かせください。

濱田──

小田川合流点付替え工事が終われば、5年前よりは間違いなく安全にはなります。

ただ、「ハード事業だけでは完全に安全とは言えない、避難する時間がこれまでよりは長くなったんだ」という認識でいてほしいと思います。

また、防災にはコミュニティの力が欠かせません。

いざというときに助け合えるのは、ご近所さんです。

地域のつながりの深まりや、コミュニティで若い世代が力を発揮してくれるようになることを期待しています。

おわりに

令和5年度末に予定どおり小田川合流点付替え工事が終われば、真備町で暮らしていくうえでの不安がひとつ消えることになります。

ただ、インタビューのなかで「ハードの整備だけでは限界がある」という説明を何度も聞き、備蓄をしたり、どこへどのタイミングで避難するかを決めておいたり、いざというときの行動を身につけていかなければと改めて思いました。

また、地域イベントに足を運ぶなど、地域のかたと交流を続けられている濱田所長。

「計画どおりに工事を施工する行政と住民」としての関係ではなく、一緒に真備町の防災を考えていくその姿勢に、地域のかたからの理解と信頼が寄せられていることを感じました。

真備緊急治水対策プロジェクトは最終段階。

真備町が、ハード・ソフトの両面から災害に強い地域になり、安心して生活できるまちづくりが進んでいます。

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