放送局の垣根を越え、ドキュメンタリーの熱を本にしました/九州朝日放送株式会社 解説委員長・臼井賢一郎さん

西日本新聞社北九州本社が制作するラジオ番組「ファンファン北九州」。地元新聞社ならではのディープな情報&北九州の魅力を紹介しています。ラジオを聞き逃した人のために、放送された番組の内容を『北九州ノコト』で振り返ります。

「ドキュメンタリーの現在 九州で足もとを掘る」を出版

甲木:おはようございます。西日本新聞社 ナビゲーターの甲木正子です。

井上:同じく、西日本新聞社 井上圭司です。

甲木:井上さんはテレビ見てますか?

井上:はい、見てます。

甲木:今時の人は、テレビを見ないっていう人もいますから。

井上:私は、見る方だと思います。

甲木:テレビだと、どんな番組を見るんですか?

井上:そうですね。ドキュメンタリーとか好きですね。子供の頃からよく見てる方だと思います。

甲木:そうなんですね。じゃあよかったですね、今日のゲストにお会いできて。それでは早速、本日のゲストを招きします。九州朝日放送解説委員長の臼井賢一郎さんです。よろしくお願いします。

井上:よろしくお願いします。

臼井:よろしくお願いします。お招きいただいて、本当にありがたいし嬉しいです。

甲木:九州朝日放送はラジオもしてらっしゃるので、クロスFMとはライバルでもあるんですよね。

臼井:はい。完全なライバルです。

甲木:これが実現して良かったと思います。

臼井:クロスFMさんは、ふところが、広いですね(笑)

甲木:開局以来なのかもしれませんね。それでも絶対出てほしかったのは、もちろん臼井さんのお仕事が素晴らしいということもありますが、今日、出演いただいた一番のきっかけというのが、臼井さんが最近出された本なんです。“ドキュメンタリーの現在 九州で足もとを掘る”という本で、これについてまずお話をお願いします。

臼井:はい。1年半ぐらい前に企画が持ち上がり、私と、RKB毎日放送の神戸金史さん、NHK福岡の吉崎健さんの3人で出版した本ですが、系列と民間放送と公共放送の垣根を越えて、ドキュメンタリー番組について書いたものなんです。ドキュメンタリーというのはどういうふうに作られているのか、自分たちがどういうドキュメンタリーを作って、何を伝えようとしたのか、あるいはそのドキュメンタリーをなぜ作ったのか、それが今のジャーナリズムと、どういう関わりがあるのか、ということを幅広く書かせてもらった本です。我々からしても、非常にありがたい機会をいただいたと思っています。

きっかけはペシャワール会の福元さん

甲木:出版社側からのオファーだったんですよね?

臼井:はい。福岡市出身の医師で、アフガニスタンで人道支援に携わった中村哲さんは2019年に亡くなられましたが、私は中村医師の取材を30年以上前にしていました。中村さんの活動を支援する団体であるペシャワール会の幹事に福元満治さんという方がいらっしゃいまして、今回出版した石風社という会社の代表の方で、福元さんから「ドキュメンタリーについての本を出してみたらどうでしょうか?」と提案があったんです。

甲木:この3人にオファーをした、福元さんもすごいと思うし、系列の違う3人が一緒にというのもすごいと思います。

臼井:中村哲さんが亡くなられたのが、2019年の12月で、私が中村哲さんの取材を古い時代からしているという縁もあって、中村さんの足跡を翌年の2020年5月にドキュメンタリー番組“良心の実弾~医師・中村哲が遺したもの”にまとめたんです。中村哲さんは私が取材していた頃からの30年間で大きな存在になり、多くの人々の心を揺り動かしていました。私は自分なりにその理由を分かっていたつもりなんですけど、それは何故だろうというのを改めて解きほぐそうという目的で、番組を作りました。先ほど申し上げた石風社の福元さんもインタビューさせていただく対象者として、番組に出ていただいたんです。福元さんが中村哲さんと一緒に歩んできたことを、インタビューさせてもらう中で、ドキュメンタリー論についての話もさせてもらいました。その過程で福元さんが響いて下さったところが企画提案のきっかになったところもあります。

甲木:新聞はペンさえあれば何とかなりますが、番組を制作するとなると、映像に残さないと意味がないので、番組にするには緊張感や、いろいろなものを用意しなきゃいけないっていうプレッシャーがすごくあるんじゃないでしょうか?

臼井:そうですね。自分自身が当時まだ、若かったし記者経験がそこまで無かったので。

甲木:取材相手と「切り結ぶ」と本にも書いておられましたが、それぐらいの覚悟を持って撮ってらっしゃるから面白いんだと思うんですよ。中途半端な気持ちで質問して、それに対して返ってくる答えは、見ても面白くないと思うんですけども、すごく自分で練りに練って質問して相手から引き出して、それを編集するので濃縮した時間がそこにあると思うんです。

臼井:おっしゃる通りです。ドキュメンタリー制作で面白い時間というのは、撮ってきたテープを見ること(プレビュー)、この時間かもしれませんね。

甲木:全部、見るんですか?

臼井:全部見て、それを何回も見ます。言葉のひとつひとつ、表情や仕草などを、頭の中に叩き込みます。

甲木・井上:えっー!

臼井:ある人物のインタビューで、その方があのとき語ったあの文脈は、だいたい頭の中に入っているわけですよ。それぐらい自分の心に染み込ませていく、この作業が面白くてしょうがないんですよ。そういうプロセスで人間のリアルに迫っていくというのはありがたい時間であり、テレビというのは人間を映すものですから、そういう意味でもドキュメンタリーは最上級の表現手段だと、私は思っているんですけどね。

甲木:最上級の表現手段ですか。はい。ありがとうございます。もうちょっとお聞きしたいお話もあったんですが、お時間が経ってしまいました。続きは来週伺いたいと思います。本日は九州朝日放送解説委員長の臼井賢一郎さんに、お話を伺いました。臼井さん、来週もよろしくお願いします。

臼井:よろしくお願いします。

〇ゲスト:臼井賢一郎さん(九州朝日放送株式会社 解説委員長)

〇出演:甲木正子、井上圭司(西日本新聞社北九州本社)

(西日本新聞社北九州本社)

© 北九州ノコト