俳優・江藤潤 10月に72歳もまだまだ現役 恩人・仲本工事さんの無念を代弁、23日から舞台公演

1970年代に「青春」を描いた作品で躍動した俳優・江藤潤が70代となった今も舞台を中心に表現活動を続けている。今月23日に初日を迎える公演「Teacher(ティーチャー)」(27日まで、東京・池袋シアターグリーン)に向けて稽古に打ち込む中、半世紀を超えるキャリアの中で出会った恩師や恩人への思い、今後の活動への意欲などを聞いた。

72年に歌手として始動し、75年に映画「祭りの準備」で主役に抜擢されて銀幕デビュー。江藤は「『祭りの準備』で玄人筋に認められ、そこから翌年のテレビドラマ『青春の門』につながって、一般の方にも知っていただいた。この2作は僕の中では切っても切り離せないものです」と原点を振り返る。

今回の舞台「Teacher」は同世代の俳優・大門正明が、かつてラグビー部を指導した元高校教師役で主演。江藤はその盟友である「学校の用務員」を演じる。この70代の2人を若いキャストが囲む。「タイムスリップから話が始まる青春ドラマ。大門が『動』で、僕が『静』という緩急を彼との絡みで出していますので、若い人たちも『お勉強させていただいております』と言ってくれています」

若者の中心にいる古希世代…ということでいうと、自身が出演した映画「アッシイたちの街」(81年公開)における山本薩夫監督を思い出す。「戦争と人間」3部作や「白い巨塔」「華麗なる一族」「不毛地帯」といった大作を量産した社会派映画の巨匠だが、京浜工業地帯の下請け町工場などで働きながらロックバンドに打ち込む青年たちの姿を描いた同作の監督は「若々しかった」という。

「現場では『さっちゃん先生』と呼んでいたのですが、若者に対する気構えが若くて、現場にもジーパンをはいて来られていた。先生が70の時に僕は30になるかならないかくらい。倍以上の年齢差で出会ったので、その時は、やっぱり『おじいさんだな』と感じましたが、今、僕がその年になっている。でも自分が『おじいさん』とは全く思っていない。年がら年中、ジーパンを愛用してますし(笑)」

山本監督は8月の命日で没後40年に。一方、昨年10月にはザ・ドリフターズの仲本工事さんとの別れがあった。江藤は俳優活動の傍ら、仲本さんが都内で営んだ居酒屋の厨房でスタッフとして働いていた。役者稼業への理解と共に、経済的な部分でサポートしたくれた恩人だ。

「僕とドリフの仲本さんは同じ渡辺プロダクションで一緒の空気を吸っていた時期がありました。仲本さんはお芝居が好きな人で、僕の舞台も観に来てくれていて、ある時、一緒にご飯を食べていたら『こういう感じのお店を開くので、もし時間があったらお手伝いしてくれませんか』と言われ、和気あいあいとやらせていただいた。優しい紳士でした。事故のあった10月は舞台の稽古中でした。『芝居の稽古に入るので、1か月、お店を休みますから、あとはお願いします』と僕が言うと、仲本さんは『頑張っておいでよ』とバス(低音)のいい声で送り出してくれたのが最後になってしまった。お通夜に行かせていただき、拝顔した時、よく「眠るような顔でした」という言葉がありますが、そうじゃなくて、僕はどことなく、悔しいような顔に見えて、いまだに脳裏に焼き付いています。仲本さん、まだやりたいことがあった、やり残したことがあったんじゃないのかな…と思えるお顔だったので」

一時代を築いた大先輩の魂は江藤の中に残っている。現在は舞台を中心に、3年前からは神戸のコミュニティFM局「FM MOOV」で毎週木曜日に「白秋の門」と題した15分枠の番組を放送。この「白秋」という言葉には意味がある。

「『青春の門』の原作者である五木寛之さんの本を読むと、陰陽五行説の中で春夏秋冬には色があり、春は青、夏は朱、秋は白、冬は黒、そこから、青春、朱夏、白秋、玄冬という言葉になるんですが、私の場合、人生100年とすれば、4分の3くらいに達しているので『白秋』としました」

毎月、都内のライブスペースで公開録音後、観客を前にギター演奏と歌やトーク、朗読をしている。兄は日本を代表するベーシストの1人であった江藤勲さん。自身も音楽ヘのこだわりを持つ。

「19年に小倉一郎、仲雅美、三ツ木清隆と僕で『フォネオリゾーン』という4人組ユニットを結成し、8月にデビュー曲『クゥタビレモーケ』を出した。半年は頑張ったんですけど、コロナ禍で予定が全部キャンセルになって、自然消滅状態に。ただ、解散したわけではないので、みんなの体調が良くて機会があれば、もう一度、やってみたい。いい曲なんですよ」

10月で72歳になる。11月には東京・新宿で舞台「せんにゅうかん〜ラスト・フレンド」が控える。まずは目前に迫った真夏の公演に向け、「ノスタルジー、元気と哀愁、笑いも泣きもある。そういう面白い作品に仕上がっています」と瞳を輝かせた。「青春」から時を経て、「白秋」まっただ中だ。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

© 株式会社神戸新聞社