海藻がプラスチック包装の代わりに? 欧州のイノベーター2社が代替素材の開発・普及を率先

IMAGE: NOTPLA

世界的にプラスチック汚染への対策が求められているが、プラ包装はその利便性ゆえ、これまで使用を減らすことが難しかった。そんな中、欧州のイノベーター企業であるノットプラ(Notpla)とビーゼオス(B’ZEOS)は、海藻を原料とした代替素材の開発・普及に取り組んでおり、注目すべき成果が出始めている。(翻訳・編集=茂木澄花)

現在、世界で生産されるプラスチックは年間3億8000万トン以上で、そのうち42%は包装に使用されている。使用後のプラスチックに関するデータはふがいないものだ。プラスチック全体でリサイクルされたのはたった9%で、12%は焼却され、22%はその他の不適切な管理がなされている。皮肉なことに、プラスチックは象牙やべっこうなどの天然素材に代わる耐久性のある素材として、環境を守るために生み出されたものだった。しかし、よく知られているとおり、実際には当初の意図に反して環境を脅かす主な要因のひとつとなっている。地球を汚染し、世界中の生態系を破壊し、海洋生物の命を奪っているのだ。

とはいえ、プラスチックが至る所で使われているのには理由がある。プラスチックの特長と機能性を有しながら、環境に残存しない代替品を見つけるのは簡単なことではないからだ。175カ国がプラスチック汚染を終わらせるための法的拘束力のある合意を結ぼうとしている中で、世界のリーダーたちはプラスチックの排出を止め、プラスチックへの依存をやめられる実行可能な方法を熱望している。

ここで「海藻」の出番だ。海藻は非常に多くの活用方法があるだけでなく、気候変動との闘いの切り札にもなり得る。現在のペースでプラ包装を生産していてはサステナブルな未来は見通せないという状況の中で、プラスチックの代替が可能な素材として海藻が注目を集めている。その流れをリードするのが、素材のイノベーター企業であるノットプラビーゼオスだ。

ノットプラ(Notpla)はテイクアウト分野など多彩な用途開発

ノットプラはロンドンを拠点とするスタートアップ企業だ(社名は「ノット・プラスチック」から命名)。パッケージデザイナーのピエール=イヴ・パスリー氏とデザイナーで建築家のロドリゴ・ガルシア・ゴンザレス氏によって立ち上げられ、トム・フォード・プラスチック・イノベーション・プライズと2022年のアースショット賞の両方を受賞した。創業者の2人の出会いは、インペリアル・カレッジ・ロンドンのイノベーションデザイン・エンジニアリング修士プログラムだという。ノットプラが開発したのは、海藻を原料としたプラスチック包装の代替品で、4週間から6週間で分解される生分解性の素材だ。

パスリー氏は、サステナブル・ブランズに対し「海藻はすべてにおいて革新的です。私たちは、海藻がプラスチックの完全な代替品になると考えています。フルーツのように消えてなくなるノットプラの革新的な製品は、通常は捨てられるような部分まで余すことなく活用して作られます」と語る。

海藻の栽培は真水や肥料を必要とせず、豊富な量が短期間で育つ。そのため、自然資源に余計な負荷をかけたり、環境を破壊したりすることなく大規模に栽培することが可能だ。

ノットプラの海藻由来の包装というソリューションは、さまざまな形で応用できる。例えば、従来のテイクアウト容器やホットドリンク用カップはプラスチックでコーティングされており、完全にリサイクルしたり、たい肥に生分解したりすることが難しかった。ノットプラ・コーティングには従来のプラスチックによるコーティングとほぼ同じ潤滑性と撥水性があるため、この問題の解決につながる。ノットプラ・コーティングを活用したテイクアウト容器は、欧州8カ国ですでに利用されている。デリバリーアプリのジャストイート(Just Eat)や英国を本拠とする外食産業向け卸売業者ビッドフード(Bidfood)などの企業と提携したことで、利用範囲はさらに拡大中だ。

テイクアウト分野に加え、ノットプラの食べられるオウホウ(Ooho)バブルは、外出先での水分補給をより手軽にするものだ。スポーツ飲料のルコゼード(Lucozade)と提携したことで、ロンドンのジムの自販機で販売され、2019年に行われた2つのレースでもランナーに提供された。オランダの15kmロードレースで3万8000本、ロンドンマラソンで3万6000本のペットボトルの代わりに提供されたという。今年のグーテンベルク・ハーフマラソンでは、2万個以上の使い捨てプラスチックカップに代わってオウホウバブルが使用された。

ノットプラは、海藻のゼラチン質の部分を抽出した後に残る繊維とバイオマスから作る「ノットプラ・ペーパー」も開発した。これはさまざまな二次包装の用途に適しており、海藻を余すところなく使い切り、真に循環型の活用を可能にするものだ。

ノットプラの普及における最大の障壁のひとつが、競合他社のグリーンウォッシュだ。必ずしも誠実なソリューションばかりではない市場の中で、真にサステナブルな製品が広く導入されるためには、グリーンウォッシュを規制する法改正が必要だとパスリー氏は言う。この問題に対し、率先して情報提供を行うことで粘り強く取り組んでいくということだ。

パスリー氏はこう語る。「当社の長期的な目標は、サステナブル包装業界のリーダーとなり、真にサステナブルで『ノット・プラスチック』な、自然由来で跡を濁さない包装と廃棄のソリューションの幅を広げることです。世界的な大手消費者ブランドと提携することで海藻素材の認知度を高め、なじみのあるものにしていきます。人々を啓発し、より責任ある消費を手軽に行えるような取り組みを続けていけば、ノットプラが10億個の使い捨てプラスチックに取って代わる未来が見えるはずです」

現在、ノットプラは主にウェールズ沿岸の海藻ファームであるカリモー(Car-Y-Mor)から海藻を調達している。その一方、複数の海藻ファームと提携することで、英国と欧州全体でのリジェネラティブな海藻栽培産業の発展も支援している。

ビーゼオス(B’ZEOS)はまず食品包装に焦点を当てる

一方、ノルウェーのグリーンテック企業であるビーゼオスも、海藻を使って新たなバイオベースの素材を開発している(社名はミッションである“Be Zero waste, Edible, Ocean-origin, Sustainable”「廃棄を出さない、食べられる、海洋由来、サステナブル」から命名)。同社は、この素材を化石燃料ベースのプラスチックの代替品とすることを目指している。同社の海藻包装ペレットはさまざまな最終製品に加工でき、従来の機械に対応可能だ。ビーゼオスによれば、この素材は100%生分解性で家庭でたい肥として活用でき、生産工程でエネルギーを無駄にせず、有害な化学物質を一切使用しないという。

ビーゼオスのコミュニケーション&パートナーシップマネージャーであるケラ・フェラー氏は、サステナブル・ブランズに対してこう語る。「海藻は本当に万能な植物です。育てるために土地も淡水も要りませんし、海洋生物の住処にもなります。大気から二酸化炭素を吸収するとともに、海水から過剰な硝酸塩を吸収するため、海洋酸性化を阻止することにもつながります。とにかく奇跡のような植物です」

ビーゼオスが主に焦点を当てているのは、食品と飲料の包装だ。しかし、同社の製品は電子機器、化粧品、製薬など、さまざまな業界の製品にも適しているとフェラー氏は言う。同社はさまざまな包装に応用するため、軟質フィルム、紙のコーティング、熱成形材、射出成形材も開発している。

ビーゼオスが使用する海藻は、フランスとノルウェーで操業する欧州でトップクラスのリジェネラティブ海藻栽培業者1社から安定的に供給されている。また規模拡大に合わせ、カナダとインドネシアで供給業者の育成も進めているという。現在、ビーゼオスの事業はパイロット企業との協働プロジェクトによって成り立っているが、最終製品を携えて市場に参入した後、加工業者や包装業者に直接海藻ペレットを販売することも見据えている。

ビーゼオスはすでにネスレと2度の協働期間を経ており、研究機関などとの協働プロジェクトであるプラスティシー(PlastiSea)として、初となるEUの助成金も獲得している。まずは食品包装に焦点を当て、来年までに販売を開始することを目指している。

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