米ネスレ、主要原料の調達でリジェネラティブ農業を強力に推進――サプライチェーン全体で加速

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米ネスレは、ピザブランド「DIGIORNO(ディジョルノ)」のサプライチェーン内の小麦農場でリジェネラティブ農業(環境再生型農業)を実践するための投資を進めている。土壌を改善し、水やエネルギー、化学肥料の使用を減らし、気候変動による影響を低減することを目指している。リジェネラティブ農業は10万エイカーを超える農地に導入される見込みで、その面積はディジョルノのピザ生地に使われる小麦の栽培に必要な広さの2倍近くに相当する。(翻訳・編集=小松はるか)

ネスレは、サプライチェーンを通じて前向きな変化をもたらすために自社の規模・影響力を活用するケロッグやゼネラル・ミルズ、ペプシコなどの食品大手が進める取り組みに参画している。ネスレが現在、世界で排出している温室効果ガス(GHG)のおよそ3分の2は、農業に関連する原料調達から発生している。2050年までにGHG排出量をネットゼロにするという詳細なロードマップの一環で、同社は2025年までにリジェネラティブな方法で主要原料の20%を調達し、2030年までにその割合を50%に引き上げることを目指している。

ネスレ北米のスティーブ・プレスリーCEOは「私たちが目指しているのは、今よりもより良い世界を残すのに役立つことだ」と話す。

「世界最大の食品・飲料企業として、当社にはリジェネラティブ農業を実践する地域の農業コミュニティと協働しながら、環境再生型で健全な食料システムをつくることに貢献するという非常に大きな機会がある。そうするためには、自らの価値や農家、消費者、地球との共通価値を創造する解決策を見つける必要がある。小麦の生産者への投資は、当社がサプライチェーン全体で生命に対する責任をどう果たしているかを示す一事例に過ぎない」

ディジョルノが使用する小麦の主要サプライヤーである米国企業ADM、アーデント・ミルズとの連携によって、ネスレが行う投資はインディアナ州、カンザス州、ミズーリ州、ノースダコタ州の小麦農家に利益をもたらすだろう。

今回の取り組みは、財源や技術的資源を組み合わせることで、このプログラムに参加している小麦農家がリジェネラティブな農法を取り入れる支援を行うことを目指している。こうした慣行には、カバークロップ(被覆植物)を植えることや、耕作をやめたり減らすこと、殺虫剤の使用を減らすことが含まれている。そうすることで、土壌の健全性や生産力を向上させ、水源を保全し、生物多様性を向上する手助けができるのだ。

ADMが最近発表したところによると、2022年にはリジェネラティブ農法を実践する小麦農家の半数以上が被覆作物や生きた根を活用し、3800トン以上のCO2の隔離に貢献したという。これは1年間に道路から850台近いガソリン車を取り除いた量に匹敵する。

カンザス州ハッチンソンにある農場ストロバーグファームのスコット・ストロバーグ氏は「私たちは生産量の低下や土壌の健全性の悪化に気付き、リジェネラティブ農業を導入した」と話す。農場では過去10年にわたりADM向けに小麦を栽培しており、ADMやネスレの支援を受けてリジェネラティブ農法を実践している。

「こうした農法は私たちの農地や環境に良いだけでなく、合成化学物質のような材料への投資を減らすことができるという経済的メリットもある」

トマトのサプライチェーンでリジェネラティブ農法を検証へ

ネスレは数年内にリジェネラティブ農法で栽培したトマトを調達することを目指しており、米国内のトマトのサプライチェーンにおいても、環境再生型農法の実証を支援するための取り組みを進めている。

米ネスレで“多様で持続可能な調達”の責任者を務めるエミリー・ヨハネス氏は「当社のサプライチェーン内のトマト農家の多くはすでにリジェネラティブ農法を実装しており、これまでに大きな進歩をみせている」と語る。

「現在、当社のブランドや農家にとって効果的・効率的な方法で、サプライチェーンを通じてリジェネラティブ農法を検証することに取り組んでいる。第三者による検証は当社やほかの人たちが説明責任を果たすのに役立つため、重要な業務だ」

ネスレはトマト生産者の農法を認証するために、独自の基準「農地管理スタンダード」に則って耕作方法のモニタリング・監査を行う非営利組織リーディングハーベストと協働する。同組織のスタンダードは土壌の健全性、水源の保全、生物多様性の保全など13の基本原理に基づき農法を認証するものだ。

リーディングハーベストのケニー・ファーヒ代表兼CEOは「私たちの農地管理スタンダードは、さまざまな作型や生産システム、複雑なサプライチェーンに対応して認証を提供するものだ」と話し、ネスレとの連携に期待を寄せている。

サプライチェーン全体でリジェネラティブ農法へのシフトを加速

小麦やトマトのサプライチェーンにおけるネスレの取り組みは、同社の最近の進捗に基づき進めているものだ。同社ではディジョルノのみならず、乳製品ブランドの「カーネーション」や缶詰加工品ブランド「リビーズ」、ペットフードブランド「ピュリナ」といったほかのブランドの原料を生産するために、さまざまな農場でリジェネラティブ農業やネットゼロ農業に取り組んでいる。同社が現在手がける主な取り組みは以下の通りだ。
 
(1)ネスレは米酪農ネットゼロイニシアティブに最初に参画した。2021年には、カリフォルニア州モデストにある「カーネーション」の原料生産者が、GHG排出量を減らし、経済的な方法でそれが実現できることを証明する、持続可能な技術・農法を実装するための試験プログラムに参加する最初の農場となった。

(2)ネスレは今年初め、カーギルや米国魚類野生生物財団と共に、米国でも最大規模の民間部門によるリジェネラティブな牧場経営プロジェクトを立ち上げた。プロジェクトでは、気候変動対策に役立つ自発的な保全活動を取り入れる牧場経営者を支援する。

(3)ネスレはリジェネラティブ農業を行う農家の成果を測定するために、ブランド「リビーズ」に原料を供給するイリノイ州中部のカボチャ農家と連携。第三者パートナーであるサステナブル・エンバイロメンタル・コンサルタンツは2022年に、リビーズに供給している農家らが従来の農法と比較して3100トン以上(ダンプカー194台分に相当)の土壌を、浸食による喪失から救ったと明らかにした。

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