VISA、行動科学を用いてサーキュラーエコノミーを当たり前に 知見を共有するラボ設立で他社と連携

Image credit : Karolina Grabowska

大手クレジットカード会社VISAは、循環型経済(サーキュラーエコノミー)への移行を企業が促進する方法を実証実験し、知見を共有する取り組み「Recommerce Behavioral Insights Lab(リコマース・行動インサイトラボ)」の最初のパートナー企業を発表した。循環型経済への移行の障壁となる要因などを連携して調査するほか、消費者の購買行動を変化させる対応策を実証実験し、オープンソースとして他社にも情報公開する。(翻訳・編集=小松はるか)

調査会社カンターの調べによると、消費者の92%はより持続可能な暮らしをしたいと答えているが、実際に行動に移しているのは16%に過ぎない。VISAはこうした意思と行動とのギャップを埋める方法を調査し、主要企業との連携を進めていく考えだ。インクルーシブ(包摂的)な方法で、より循環型の行動やビジネスモデルを促進することを目指す。

VISAはすでに個人や企業がリコマース(再利用品、修理品、レンタル品、詰め替え品などの販売)をどう取り入れていくかを学ぶことのできるサイトを立ち上げている。その取り組みの一環である行動インサイトラボでは、顧客やパートナー企業・団体との連携によって現実的な解決策を実行し、個人がより持続可能な行動を日々の生活に取り入れられるようにするための実践的な方法を見つけ出すことを目指す。最終的には、リジェネラティブで公正な循環型経済を実現したい考えだ。

最初の実験は、H&M傘下のファッションブランドCOSと、オランダで衣類の修繕や循環型のサプライチェーンを推進するUnited Repair Centre(ユナイテッド・リペア・センター、以下URC)と連携して、英国、オランダ、ドイツ、フランスのさまざまな場所で実施する予定だ。URCは昨年7月、アウトドアブランドのパタゴニアとオランダの繊維製品のクリエイティブエージェンシー「Makers Unite(メイカーズ・ユナイト)」が開設した。

ファッション業界を循環型経済へと移行させる上で重要なのが「リセール(再販売)」だ。しかし、リセールに年間1回以上携わる消費者はわずか47%であり、多くの企業・ブランドが消費者の関心に影響を与えるさまざまな動機や新たな障壁についてまだ学んでいるところだ。

COSは、パートナーシップの一環として、急速に成長する再販市場への消費者の参加を増やす動機や説得力のある体験を調査する。一方、URCは欧州の有力なアパレル企業に高品質な修理サービスを提供してきた経験から、消費者が衣類を修理するのを阻む障壁や、すべての人にとって衣類の修理サービスを手が届きやすく有益なものにするための方法を調査する予定だ。

実証実験はオープンソースとして公開

行動インサイトラボでは行動科学の知見を用いて、より持続可能な選択に消費者の行動を向かわせる要因を特定しながら、リセールやレンタル、リペアなどの行動を妨げる障壁を明らかにしていく。さらに、より持続可能な行動を取り入れる企業や消費者を支援することを最終目標とし、こうした障壁を乗り越えるために設計した方策の実証実験やその結果を共有する方針だ。

VISAはこれらの実験を行うために、「行動の障壁を定義」「行動的介入を決定」「実験をデザイン」「実際の実験を実施」「得られたデータを分析」「結果をオープンに共有する」などの過程を経て包摂的な方法を考案する。

このような方法論やラボは、行動に最も影響があると考えられる9つの効果を解読する行動フレームワーク「MINDSPACE(マインドスペース)」に基づいたものだ。さらに、VISAはこの方法論に従って、実験データや業者からのフィードバックを評価し、知見を共有し、企業が対策をとるためのガイドやプレイブックを制作し、共有する。

実証実験では、オンラインや実店舗などさまざまな環境で消費者それぞれの体験や動機を試す。消費者の行動を変える正確な要因をより良く理解し、可視性やアクセス、コミュニティ、報酬、安心感、手頃さを向上させる要素を調べていく。

これらの実証実験は、ダウンロード可能なプレイブックの形式で、重要な発見も踏まえてオープンソースとして公開する予定だ。そうすることで、他の企業は集積した知見を生かして循環型のビジネスモデルを発展させ、より大きなリコマース・コミュニティの一員となれるのだ。

「ヨーロッパの半数以上の人が再販売のようなリコマース活動に定期的に携わっている」とVISAヨーロッパでサステナビリティ・インクルーシブインパクト部門の責任者を務めるキャサリン・ブラウン氏は言う。

「消費者の行動を実際に変えるものを明らかにし、COSとURCとの実証実験から得た情報や知見を利用することで、サステナブルファッションが必須のものとなり、循環型経済への移行を加速させる新たな方法を見つけ出せるのだ」

設立パートナーとして、行動デザインの専門家である米マインドワークス、フィンテックスタートアップの英Twig(トゥイグ)、循環型経済を推進する英エレン・マッカーサー財団らが行動インサイトラボに専門知識を提供するという。

エレン・マッカーサー財団でストラテジックデザインのマネージャーを務めるアンナ・ケラルト氏は、「今回のプロジェクトは間違いなくデザイン主導のイニシアティブだ。そして、人々を引き付け、循環型経済に基づいた選択ができるようにする新たな方法を共に想像し、実験するべくさまざまな当事者をまとめていく上で重要な一歩だ」と話す。

「このプロジェクトから得られる知見は、私たちが提供する『循環デザインへの適応戦略(Adaptive Strategy for Circular Design)』と共に、組織がリニアエコノミー(線形経済)からサーキュラーエコノミーへと移行するなかでデザインを活用するのに役立つ。さらに、ファッション産業だけでなく、自社の利用者や顧客を循環型経済に移行させていきたいと考えるさまざまな分野のすべての当事者を支援するつもりだ」

「Recommerce Behavioral Insights Lab」のパートナーの詳細はこちらから
https://globalclient.visa.com/recommerce

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